お前たちには今日から三月まで、この城の中で“願いの部屋”に入る鍵探しをしてもらう。見つけたヤツ一人だけが、扉を開けて願いを叶える権利がある。つまりは、“願いの鍵”探しだ。――理解したか?
2018年本屋大賞ノミネート作品とあって、最近よく見かける辻村深月『かがみの孤城』。
本屋大賞ホームページには「4/10(火)結果発表」とありますから、もうすぐ結果が出ますね。
本屋大賞
それにしても今回の本屋大賞は粒ぞろいな感じがします。
伊坂幸太郎『AX』、小川糸『キラキラ共和国』、原田マハ『たゆたえども沈まず』、村山早紀『百貨の魔法』他、有名どころがずらりと並ぶ印象です。
その中でも実際の書店なんかを覗くと『AX』と『かがみの孤城』の露出が多いかなぁ、という気がしていますが。
本屋大賞のポップのすぐそばにそのどちらかが置いてあるというイメージです。
結果まであと十日ばかり……はてさて、結果は如何。
登校拒否児
主人公のこころは中学一年生。
入学してすぐに起こったある事件がきっかけで、登校拒否を繰り返しています。
そんなさ中、ある日突然部屋の鏡から「かがみの城」へとワープしてしまう。
そこには“オオカミさま”と六人の子どもたち。
リオン:ジャージ姿のイケメンの男の子、中一
アキ:ポニーテールのしっかり者の女の子、中三
フウカ:眼鏡をかけた声優声の女の子、中二
マサムネ:ゲーム機をいじる、生意気そうな男の子、中一
スバル:ロンみたいなそばかすの、物静かな男の子、中三
ウレシノ:小太りで気弱そうな、階段に隠れた男の子、中一
子どもたちに“オオカミさま”は子どもたちに問題を与えます。
- 隠された鍵を見つけて、“願いの部屋”を開けること
- 城に入れるのは日本時間の朝九時から夕方五時まで。
- 期限は3月31日まで
そうして「かがみの城」での生活が始まるのです。
戸惑いつつも、少しずつ心を開き、慣れ親しんでいく七人。
「かがみの城」にはそれぞれの部屋が設けられ、テレビゲームを持ち込んだりと、当初の目的はさておいて彼らは上手に城を利用し始めます。
間もなく彼らには一つの共通点がある事がわかります。
それは「学校に行っていない」事。
城を利用できる朝九時から夕方五時は、本来ならば学校に行っているはずの時間なのです。
最初はけん制するようにその事に触れなかったのですが、ひょんなきっかけからやはり全員がそうなのだと確信に至ります。
学校に行っていない事はわかった。でも、行かない理由については誰も言わないし、聞かない、聞けない。
自分が普通とは違う問題児であるとは言いたくない。
表面上は楽しくやっている彼らですが、そんな風にどこかでお互いの間に溝を確保しようとします。
一つ殻を破ったかと思えばその下にはまた頑丈な殻があって……なかなか素直な自分を見せようとはしません。
彼らは投稿拒否児という問題を抱え、それがコンプレックスにもなっていますから、余計にそうなってしまう部分もあるのでしょう。
相変わらず辻村さんは、この辺りの思春期の情感を描くのが上手です。
かがみの城で過ごす一年間
本書の見出しそのものが、一学期・二学期・三学期の三部構成と、5月から3月までの各月を章題とされており、彼らが「かがみの城」で仲間達と過ごす一年間を描いたものになっています。
一年間の間には、仲間内での恋愛やすれ違いといった様々な問題が起こります。
特に二学期・三学期の最初には彼らのような登校拒否児にはありがちな「登校する、しない」といった問題も浮上します。
長期休暇の後は一つの節目ですもんね。
問題の度に、それまで毎日足しげく顔を見せていたメンバーがぱったりと来なくなってしまったり、現れたと思えば外見上に大きな変化が現れたり、といった出来事が続きます。
まるで本当の学校のようです。
しかしそんな生活も永遠には続きません。
三学期に入れば、期限の日が近づいている事を意識し始めます。
鍵探しも佳境に入り、是が非でも見つけたいメンバーもいれば、「願いを叶えればここで過ごした記憶は全て失われる」と聞き、願いを諦めるメンバーもいます。
そうして迎えたクライマックス……城は最悪の事態を巻き起こしてしまうのです。
幾重にも重ねられた構図と伏線
「かがみの城」=フリースクール?
最初に僕の頭に浮かんだ想像が、上記のような構図でした。
登校拒否児が学校の代わりに毎日通うといえば、フリースクールなのかな、と。
フリースクールを「かがみの城」に見立て、そこで出会う子どもたちとのやり取りの中で、やがて学校に戻る勇気を取り戻すような、そんな成長の物語なのかな、と。
でも全然違いましたね。
そんな簡単な構図ではありません。
実際に現実の世界ではフリースクールが登場し、主人公や他のメンバーにもスクールの先生が接触したりもします。
彼らは学校でもなく、スクールでもなく、「かがみの城」に通うんですね。
他にも読んでいくうちに、結構陳腐な構図が思い浮かぶんですよ。
ああ、これってこういう事なんだろうなって。
そういった予想を辻村さんという作家はちょっとずつ越えてくる感じです。
そこまでは予想してたけど、あ、さらにそっちにも繋がってんのか、と。
伊坂幸太郎さんがそういうパズル的な物語が得意なイメージがありますが、そんなパズル感覚も本書では楽しめます。
最初に出された「“願いの部屋”に入る鍵探し」という問題なんて、謎解き以外のなにものでもないですしね。
そもそも集められた彼らの共通点は本当に「学校に行っていない」という点だけなのか。実は他にも共通点があったりするんじゃないか。なんて想像させてしまうのは、古き良き推理小説まで連想させられてしまいます。
すごく良く出来ているんだけど……ううん
気になるのは……で、結局最終的にはどうなのよ? ってところだと思うんですが。
良かったですけど、傑作という程には心に響かなかったかなぁ。
辻村さんは女の子同士の心の襞みたいなものを描くのがすごく上手なんですけどね、いかんせん、男の子達がちょっと存在感というか現実感に乏しかったかなぁ、と。
女の子達のナイト役として、物語のアイテムに徹し過ぎてしまっている感じがあって。
終盤に各々の背景が次々と明かされていく場面があり、もうその頃には間違いなくページをめくる手が止まらない状態に陥ってるはずなんですが、内容的には朝井リョウの『チア男子!』の方が胸に迫るものがあったよなぁ、とか。
細部まで細かく絡まりあっていて、伏線もビシバシ張り巡らせてあって、前述しましたが先の展開が予想できたとしてもある程度予想を飛び越えてくるところもあって、本当にすごく良く出来た物語です。
個人的には本屋大賞を獲ってもおかしくない作品だと思います。
でもガツンと胸に刺さるような余韻を残すかというと、そこまでじゃあなかったんですよね……。
これ、僕個人としても不思議なんですが。
年度末でちょっと忙しい事もあり、読むのに日数がかかってしまった事もあるのかな?
なんとも残念なところ、です。
#かがみの孤城 #辻村深月 読了年度末で時間を取られてしまいましたがようやく読了です。辻村さん、思春期の女の子を書かせたら天下一品ですよね。本書は様々な理由で学校に行けない子どもたちがある日鏡の向こう側にある城へと導かれ、その日から学校の代わりにかがみの城へと通う物語です。フリースクールをかがみの城に見立てた成長の物語かなぁ、なんて思っていたら、そんな単純な構図では表せられない複雑に入り組んだ物語でした。思春期の少年少女の複雑な心模様をベースに伏線がバシバシ張り巡らされて最終的にきれいに回収されて終わるというパズル感覚も楽しめるものです。#2018年本屋大賞ノミネート作品 でもあり、結果が出るのは今月10日だそうな。楽しみですね。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ#読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ※ブログも更新しました。プロフィールのリンクからご確認下さい。