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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『陽気なギャングが地球を回す』伊坂幸太郎

「『ぼくは誰よりも速くなりたい。寒さよりも、一人よりも、地球、アンドロメダよりも』」響野が芝居がかった声を出した。

「誰かの詩?」久遠は訊ねる。

「亡くなったアルト奏者だよ。ジャズ演奏家の言葉だ。私たちだって、誰よりも速く走らならなくてはいけないわけだ(略)」 

 

……困りました。

 

伊坂幸太郎陽気なギャングが地球を回すです。

 

最初に断っておくと、僕は伊坂幸太郎との相性が良くありません。

 

最初に読んだのは確かラッシュライフで、その時には読後、茫然としてしまいました。

物語のそこかしこに散りばめられていた伏線が余す事なく回収され、全ての断片的な話が繋がるという美しいフィニッシュ!

しかし……

 

……で、なんなの?

 

というのが僕の感想でしかなく。

 

物語ってそもそもは一本につながっているべきものじゃないですか。

それをわざわざ分断して、それぞれごちゃ混ぜにして、最後に再び収束させる。

確かにテクニックが必要なのはわかるけど、「で、なんなの?」でしかなかったわけです。

 

思い起こせばそこでやめておけば良かったんでしょうね。

 

でも、伊坂幸太郎って滅茶苦茶有名なわけですよ。

「面白い本」って検索すると、必ず彼の名が出てくるといっても過言ではないぐらい。

 

本の虫としては、たまたま『ラッシュライフ』という作品が合わなかっただけで、他の作品はきっと面白いんだろうな、と可能性に賭けてみたくなるわけです。

 

次に手にとったのが『重力ピエロ』

 

……ダメでしたね。

 

今となっては「春が2階から落ちてきた」というあの有名な書き出しの一文しか思い出せないぐらい、印象に残っていません。

特に「つまんねーな」とか思ったわけではなく、むしろ面白いともつまらないとも何の感慨も持てずにただただ文章を読み続け、ラストまで読み切ってしまったという記憶です。

 

上記2作で懲りて、しばらく遠ざかっていたのですが……最近になってやっぱり「伊坂幸太郎って面白いはずだよな?」という疑問が湧いてきてしまい、再び試してみることに。

それが本作『陽気なギャングが地球を回す』でした。

 

特殊能力を持つ陽気な4人組

嘘を見抜く名人成瀬、天才スリ久遠、演説の達人響野、精緻な体内時計を持つ女雪子。

4人の男女が完璧な計画で銀行強盗に挑む。

計画は順調に進み、無事金を手に銀行から逃げ出したまでは良かったものの、逃走中にたまたま衝突しそうになった相手が現金輸送車の強盗犯。

車ごと盗んできた現金まで奪われてしまう4人。

銀行強盗には成功したのに、全ては水の泡になってしまいました。

 

しかし転んでもただでは起きないのが4人。

ドタバタの中で天才スリこと久遠は強盗犯から財布をスッていた。

身元を辿り、成瀬と雪子が訊ねた先には強盗犯の一味とみられる男の死体が。

男の部屋の電話からリダイヤルをかけてみると、出た相手は仲間の響野。

 

一方で、精緻な体内時計を持つ女こと雪子の息子慎一がイジメに巻き込まれる事態も勃発。

響野と久遠は慎一とともに、イジメられっ子の薫君が監禁されたパチンコ屋の廃墟へと向かう。

イジメっ子たちを蹴散らす響野と久遠だったが、その前に銃を手にした見知らぬ男が現れ……。

 

まぁとにかく、ストーリーはテンポよく進みます。

え、どうなってんの? と思わせる謎と一見どうでも良さそうなエピソードがしっかりと絡まりあって、最終的には一つに繋がり、収束していきます。

 

でも、結局のところ……

 

……で、なんなの?

 

で終わってしまうわけです。

 

不要なセリフ、多くない?

 

もう一つ気になるのは、全編に渡って繰り広げられる会話です。

伊坂ファン的には、“会話の妙”こそが伊坂作品の醍醐味でもあり、「オシャレ」と形容されたりもするようですが。

「いや、雪子さんの様子が変だから、宇宙人に乗っ取られたのかと思って」おどけて説明する。「この間のテレビでやっていたんだけど、宇宙人が人を操作する時、つむじに小さな装置を埋め込むらしいんだ。

 「どう、あった?」雪子が後頭部を向けてきた。

「いや、たぶん大丈夫」

「きっとうまく隠したんだと思う」 

「現金輸送車ジャックだ!」久遠はすぐに反応した。 

「マスコミがそういう煽った呼び方をするから、いい気になるんだ」響野が言う。「そもそもだ、強盗犯を、『ジャック』というのは、昔の馬車を襲った強盗たちが、『ハーイ、ジャック』と挨拶をして、襲撃してきたのから始まっただけでだ、意味なんてないんだよ」

「同一犯なの?」祥子は、響野の話を無視したまま、成瀬に訊ねる。 

「いいや、おまえが何と言おうと、世の中は偶然で溢れているんだ。芥川龍之介の言葉を知っているか? 『本当らしい小説とは恐らく人生におけるよりも偶然性の少ない小説である』とな、そう書いているだろうが」

「それがどうかしたか?」

「ようするに、現実世界には、小説以上に偶然が多いということだ」

「弘法は筆を選ばないものだがな」と後部座席の響野が言った。

「弘法は選べなかっただけよ。お金がなくて」雪子はそう言いながら、ハンドルを切る。港洋銀行を襲った時とほぼ同じルートを走っていた。

「弘法さんもさ、恰好つけずに、雪子さんみたいに盗めば良かったんだ」久遠がすかさず言う。「そうすれば、弘法筆を選び放題、だ」

……キリがないので抜粋はこの辺にしておきますが、こういうのが魅力的な会話っていうんですかね?

 

とにかく彼らの会話の半分以上は小説に関係のないものばかりで、ただひたすら会話の「テンポ」や「響き」だけを重視して書かれているように感じられます。

余計な会話文を省いたら、本書は半分ぐらいのボリュームに減ってしまうんじゃないでしょうか?

残念ながら僕の胸には刺さる文章が一つもない為、ただただ読み流すだけでしかありませんでしたが。

 

作者は何をしたかったのか?

しつこいようですが、「何を書きたいか」って重要だと思ってるんです。

伏線ちりばめて回収とか、それはあくまで技法であって、主題にはなり得ないはずですからね。

手段が目的化した作品は空虚でしかありません。

 

その辺が伊坂幸太郎が毎回直木賞で酷評される理由に繋がっているように思えるのですが。

lite-ra.com

 

ちなみに本作で書きたかった事は、新書刊行時のあとがきで作者自身が下記のように語っています。

九十分くらいの映画が好きです。もちろんその倍以上のものでも、半分くらいのものでも良いのですが、時計が一回りしてきて、さらに半周進んだあたりで終わる、そんな長さがちょうど体質にも合っているようです。

あまり頭を使わないで済む内容であれば、そちらのほうが好ましいです。アイパッチをつけた男が刑務所に忍び込んで、要人を救出して逃げ出してくる。そういうのはとても良いですね。現実味や、社会性というのはあってもいいですが、なかったからと言ってあまり気になりません。

今回ふと、そういうものが読みたくなり、銀行強盗のことを書いてみました。

サックリとしたアクション的な物語を書きたかったらしいですね。

そういう意味では、半分は成功していると言えるかもしれません。

サックリとした読みやすい物語という意味では、成功です。

 

でも本作が彼の言うような90分の映画と比肩し得る作品かというと、疑問に感じてしまいますね。

 

伊坂幸太郎

 

やっぱり僕には合いませんでした。

 

でもまたいつか、再び彼の作品を試してみる気がします。

特に『ゴールデンスランバー』は本屋大賞を受賞していますからね。

避けては通れない作品かと。

 

またいつか、の話ですが。

https://www.instagram.com/p/BnN9nMNnLk1/

#伊坂幸太郎 #陽気なギャングが地球を回す 読了やっぱり伊坂幸太郎は僕には合わないですねー絶望的に合わないそれともたまたま合わないものを引き当ててしまっているだけなのか別に面白くないわけではないんですけどねただ、読んだという感想と事実しか残らないそんな感じ#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しましたが、伊坂幸太郎ファンの方には読まないでいただきたいと思います。そうでない方はプロフィールのリンクよりご確認下さい。

『生き屏風』田辺青蛙

皐月はいつも馬の首の中で眠っている。

そして朝になると、首から這い出て目をこすりながら、あたかも人が布団を直すかのように、血まみれで地面に落ちている馬の首を再び繋ぐ。

いきなりグロ描写から始めてしまいましたが、こちらは実際に本作『生き屏風』の冒頭文です。

第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

今やすっかり「オカルト風味ラノベレーベル」と化してしまった角川ホラー文庫から2008年に発刊された小説です。

 

『生き屏風』のあらすじ

主人公である皐月は町はずれに住む妖鬼。

妖(あやかし)という、いわゆる妖怪の一種であり、鬼でもあります。

夜な夜な馬の首に入って眠るという皐月は普段は町はずれで静かに暮らしていますが、そんな彼女の元に、近所の酒屋の旦那からお呼びがかかります。

 

死んだ妻の霊が店の屏風に憑き、毎年夏になると勝手に喋りだして我が儘放題を要求し、ほとほと困り果てているのだという。

高名な道士に見てもらったものの、無理に祓えば悪鬼になる可能性があるため、誰か適当な人に相手をさせた方が良い。

その条件というのが、独り身で女性、県境に住んでいて、しかも妖鬼ならばなお良い、という。

そうして渋々招かれた皐月を相手に、屏風に憑りついた奥方様は「鴉の汁が飲みたい」

「もっと面白いやつが来るのかと思った」と無理難題を突き付けます。

妖鬼である証拠にと見せた小さな角に対しても、

なんだいそれが角なのかい? あんたにゃ悪いけど、ただのちょっと変わった色したこぶか、オデキにしか見えないねぇ。

とさんざんな言われ様。

気分を害する皐月でしたが、奥方様の求めるがまま、毎日のように「面白い話」をして聞かせ、そうしている内にやがて二人の間に少しずつ親近感というようなものが芽生え始めます。

 

奥方様へ向けた話の中から、読者も皐月の父の生い立ちや前任者の里守りについて、皐月が里守りに就いた経緯などを知る事ができます。

一方では、我が儘で自分勝手な奥方様の置かれたさみしい立場なども描かれていきます。

妻に先立たれた後、旦那もただのうのうと過ごしているわけではありません。

小間使いの中には既に旦那とただならぬ関係となった娘もいて……。

 

そんな風に、妖鬼である皐月と生き屏風である奥方様とのやり取りを描いたのが、本書です。

癖のある表紙と書き出しのグロさとはあまりにもかけ離れており、実際にはほのぼのと人間と妖怪の日々の生活を描いたお伽草紙のような、昔話のような雰囲気の物語でした。

 

皐月を軸とした短篇集

本書には表題作『生き屏風』以外に、『猫雪』『狐妖の宴』という二つの短編が収められています。

なんの予備知識もなく読み始めたのでてっきりそれぞれ独立した話かな、と思っていたら、いずれも妖鬼・皐月が登場する物語でした。

『生き屏風』を読み終える頃には「皐月ちゃんめっちゃ良い子じゃん」といった具合に皐月への好感度や愛着が膨れ上がっていましたので、続く『猫雪』の序盤に皐月が登場した時点で、つい嬉しくなってしまいました。

 

……って、あれ?

書き始めにレーベルを盛大にディスってしまいましたが、本書ってもしかして「オカルト風味ラノベレーベル」のはしり的な作品だったりして。

 

ま、いいんです。

面白ければそれで。

インシテミル』の関水美夜や『another』の見崎鳴に夢中になってしまった時期もありましたから。

キャラ萌えも読書の醍醐味っちゃ醍醐味ですからね。

 

嬉しいことに続編もあった

さらに調べてみたところ、『魂追い』『皐月鬼』と続編も皐月鬼シリーズとして刊行されている事がわかりました。

後の2冊は皐月が表紙を飾っており、完全に今風の「オカルト風味ライトノベルレーベル」の雰囲気でいっぱいです(笑)

こりゃあつい、読みたくなってしまうかも……。

 

ただし、2010年の『皐月鬼』以来シリーズが途絶えているのが気になるところですが……。

現在も他の作品を発表したり、ホラー小説というジャンルにおいてはしっかりと立ち位置を築かれているようですから、また話題作を書き上げられるのを期待して、とりあえずは皐月シリーズを楽しむ事にしたいと思います。

 

皆さんも読んでみてください。

皐月ちゃん、良い子ですから。

 

ちなみに……

田辺青蛙という名前の読み方がわからず、作者について調べてみました。

ところが……

 

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ん?

四行目にご注目。

 

コスプレ?

 

なんと作者、コスプレ趣味があったらしく、日本ホラー小説大賞の授賞式でもエヴァンゲリオン綾波レイを披露したのだとか。

検索してみると……あー、ありますわ。確かに。

エヴァンゲリオンとかゲゲゲの鬼太郎とか、2010年に作家の円城塔氏と結婚した際には、お祝いのパーティーで今度は碇シンジのコスプレしただとか。

 

それから10年近く経ってますので、今もまだコスプレを楽しまれているのかは定かではありませんが。

興味のある方は、ネットで検索してみてくださいね。

 

……あ、肝心な事を書き忘れていました。

 

作者名の読み方。

 

青蛙と書いて、「せいあ」と読むらしいです。

田辺青蛙(せいあ)。

 

以上。

 

 続編はこちら

https://www.instagram.com/p/BnFSNzNnEOI/

#生き屏風 #田辺青蛙 読了長い間 #積読 化されて本棚に眠っていた作品です。読んでみて初めて、今まで読まなかった事を後悔。非常に耽美で幻想的な良い物語でした。主人公は村外れに住む妖鬼の皐月。ある日皐月の元に酒屋の旦那からお呼びがかかります。数年前に死んだ奥方様が屏風に取り憑き、毎年夏になると無理難題の我が儘放題で困り果てているので、皐月に面倒を見て欲しいというもの。そうして始まる意地悪な奥方様と皐月との日々のお話。序盤こそ #芥川龍之介 や #坂口安吾 を思わせる #幻想小説 の雰囲気なのですが、読むに連れてもう一つ重要な要素に気づきます。皐月ちゃん、めっちゃ良い子。読み終わる頃にはすっかり「皐月萌え〜」な感じに ……かと思ったら同時収録された短編2作にも皐月が登場するじゃないか。しかも調べてみるとシリーズ作品として以下2刊が刊行されている模様。これは……読まねば#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ#読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールよりご確認下さい。

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午

〈しかし、このゲームは僕ら五人が謎解きを楽しむためのものであり、世間に対して何かをしようとしているのではない〉

 今回読んだのは歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』

歌野晶午と言えばなんといっても『葉桜の季節に君を想うということ』が代表作に挙げられますよね。

『葉桜の季節に君を想うということ』はフェアか、アンフェアかと推理小説ファンの間で大論争を呼び、未だに名作・問題作として「読むべき推理小説」に挙げる声も少なくありません。

とりわけ「よく似た作品」として挙げられる『イニシエーション・ラブが映画化された2015年には人気が再燃したと感じたものです。

 

新本格推理小説ブームの次男坊

さて、そんな歌野晶午氏に対して、僕の中では綾辻行人法月綸太郎我孫子武丸と並ぶ講談社新本格推理小説四兄弟の次男坊としての印象が強く残っています。

この「新本格推理」ブーム、綾辻行人の二作目である水車館の殺人の帯に使用されたのを皮切りに、当時の編集者宇山日出臣が仕掛けたというのが始まりとされています。

講談社からは未だ名作と呼び声の高い十角館の殺人で一大センセーショナルを巻き起こした綾辻行人を筆頭に、続いてデビューしたのが歌野晶午。そして法月綸太郎我孫子武丸と続きます。さらに麻耶雄嵩二階堂黎人、次いで森博嗣京極夏彦が登場する訳ですが、どうも1990年以降のデビュー組からはちょっと毛色が違ってしまいました。

麻耶雄嵩のデビュー作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』では処女作にして名探偵メルカトル鮎が死ぬ、というとんでもない事態が起こってしまいますし、1990年デビューの太田忠司は後に“ジュブナイルミステリ”と呼ばれる少年探偵が特徴でした。二階堂黎人は鼻につくお嬢様探偵だったり。

森博嗣京極夏彦はいうに及ばず、後発組に関しては時代の要請もあってか「純然たる本格推理小説」の枠を飛び出し、キャラクター等の突拍子もない設定や荒唐無稽な奇をてらったストーリーを取り入れたよりエンターテインメント性の高い、一般向けの娯楽小説として昇華されていったと感じています。

逆に言うと、「エラリイ」だ、「カー」だ、「読者への挑戦状」だ、「ノックスの十戒」だ、「ヴァン・ダインの20則」だと小うるさくこだわったのは島田荘司を筆頭に綾辻行人歌野晶午法月綸太郎我孫子武丸創元社から同時期にデビューした有栖川有栖を加えたあたりまでかな、と。

僕は彼らの作品を貪るように次々と読み漁っていたのですが、後にデビューしてくる作家たちの作風の変化に違和感を感じてしまい、やがて推理小説熱は冷めてしまいました。

そうしてしばらく離れている間に、いつの間にか彼らも本格推理小説の枠から飛び出して、様々な方向性を模索していたのでした。

 

ゲームの脚本やクイズ番組の監修などでいち早く才能を開花させた我孫子武丸

ただの麻雀マニアに零落れているかと思いきや『another』で再ブレイクを果たした綾辻行人

唯一本格推理小説にこだわり書き続けた法月綸太郎

法月綸太郎同様、本格推理小説を書き続ける傍ら、映像化や漫画家、舞台にドラマにとメディアミックスに勤しんだ有栖川有栖

 

そして――

 

僕の中で唯一、「ぱっとしない」と思われていたのが歌野晶午だったのです。

 

早々とシリーズを捨てた歌野晶午

歌野晶午は1988年に『長い家の殺人』でデビューしました。

以降は名探偵・信濃譲二を中心とした『白い家の殺人』『動く家の殺人』の家シリーズを展開してきましたが、三作目の『動く家の殺人』でシリーズは一旦途絶え、『ガラス張りの誘拐』、『死体を買う男』、『さらわれたい女』と年一冊のペースで刊行し、そこから『ROMMY』まで3年近い休眠状態に入ってしまいます。

名探偵・信濃譲二、僕は好きだったんですけどね。

何せ堂々と大麻を所持し、使用するような男でしたから。

 

大麻は煙草よりも有益で健康被害も少ない。外国では認められている国も多い。

 

王道を地で行くような法月綸太郎有栖川有栖よりも、そんな持論を展開する名探偵の個性溢れる姿が気に入っていました。

結局三作目『動く家の殺人』において大麻所持の疑いで逮捕、呆気なく名探偵は退場、となってしまうのですが。

 

実は、ここが意外と問題だったと感じています。

 

新本格推理小説ブームとは、名探偵ブームの再来だったと言い換える事もできます。

館シリーズ御手洗潔であり、法月綸太郎であり、有栖川有栖であり、鞠小路鞠夫といった現代に現れた名探偵を愛でるブームでもあったのです。

 

ところが、歌野晶午は早々と名探偵を捨ててしまった。

 

 『動く家の殺人』の新装版では、わざわざ前書きとして作者が

 

信濃譲二を退場させるために書いた作品である。

 

と書いているほどですから、自ら望んで名探偵を捨ててしまったのです。

ところが読者側としては困ってしまいます。

ガラス張りの誘拐』、『死体を買う男』と新作が刊行されても、慣れ親しんだ名探偵・信濃譲二は出てこないんですから。

 

「あれ?」

「一話完結もの? シリーズじゃないの?」

 

と思われちゃいますよね。

当時は新本格推理に湧き、そこかしこで「本格推理小説とは?」「名探偵とは?」といった議論が活発化していたような時期ですから。

 

少年漫画誌に例えれば、一話完結の作品なんて読み切り作品みたいなものなんです。

次週に続くわけでもない、読み飛ばしてもなんら問題のない作品。

 

ええ、はっきり言いましょう。

僕は買いませんでした。

僕は名探偵・信濃譲二であり、「家シリーズ」の再開を待っていたんです。

当時、そうではない作品に金を払って買う価値があるだなんて微塵も思いませんでした。

ましてや文壇には次々と新しい作家がデビューし、新たなシリーズが生まれていましたからね。

気持ち的にはそちらに手が伸びてしまいます。

 

……結果的に言うと、その後手にした太田忠司麻耶雄嵩二階堂黎人も、僕の欲求を満たすには至らなかったんですけどね。

そうして森博嗣京極夏彦に進んだ結果、当時の僕には難しすぎてさっぱり理解ができず、読んでも全く面白さを感じられず、推理小説自体から離れてしまう結果となったのですが。

 

大進化を遂げていた歌野晶午

僕が再び歌野晶午作品を手にしたのは2015年。

それは『葉桜の季節に君を想うということ』

 

いや、びっくりしましたね。

 

話題になる理由もよくわかったし、論争が起こるのも理解できた。

でも、久しぶりに推理小説を読んで全身が震えるほどの衝撃を受けました。

十角館の殺人』、『迷路館の殺人』を読んで以来の衝撃です。

 

あの歌野晶午が、まさかこんなにもとんでもない作品を生み出していたとは。

いち早く名探偵シリーズものから脱却し、方向性を模索してきた苦労が実を結んでいたようです。

 

慌てて調べてみると、その後も「このミステリーがすごい!」や「本格ミステリ・ベスト10」に入賞するような作品を次々と発表しているんですね。

都度、アリ?ナシ?といった論争が起きたりもしているようですが(笑)

 

そんな中で一際目を惹いたのが、本格ミステリ・ベスト10で2008年6位、2010年1位、2012年8位と好評化が続く、本作『密室殺人ゲーム王手飛車取り』をはじめとする「密室殺人ゲーム」シリーズでした。

 

実際の殺人を元に繰り広げられる推理ゲーム

ネット上で出会った“頭狂人”、“044APD”、“aXe(アクス)”、“ザンギャ君”、“伴道全教授”という5人が、殺人事件の推理ゲームを行うというのがおおよそのあらすじです。

奇妙なニックネームに加え、ダースベイダーやジェイソン等、身バレしないようコスプレをしてチャットに臨む5人の姿も異様ですが、何よりも恐ろしいのはゲームは実際の事件を元にしているというもの。

つまり、5人の中で出題者に選ばれた者は実際に殺人を犯した上で、その事件の手口や意図等を出題するのです。

最初に出題者となったaXeは次々と連続殺人を犯します。被害者に共通点は見当たらず、唯一の手がかりは意図的に操作された時計のみ。

一見無関係に見える被害者たちのミッシングリンク(=隠された共通点)を探る事こそが、他の4人に与えられた課題。

なかなか謎を解けない4人の為に、aXeは一人、また一人と罪を犯し、彼らにヒントを提示します。逆に言うと、ヒントを提示するために被害者を増やしていく、という展開。

 

かなり異常ですよね。

ですが彼らは和気あいあいとゲームとして楽しんでいるのです。

「おお、探偵たちよ。三人目も死なせてしまうとはなさけない」

ドラクエかよ」

 ついつい笑ってしまいました。

 

続いて出題者に選ばれたのは伴道全教授。

こちらは流れ的に急遽出番が回ってきたという様子で、昔ながらの時刻表トリックが提示されますが、簡単に見破られてしまいます。

 

三人目の出題者はザンギャ君。

密室化した自宅アパートの中で起きた殺人事件。被害者は男性で、切り取られた首は部屋の花瓶の上に生けられていた。胴体は離れた公園に置かれた衣装ケースから発見。部屋の外では道路工事が行われており、目立つ動きをすればすぐさま作業員に見つかってしまう。

どうやって重い胴体を公園まで運んだか、というのがザンギャ君の問題です。

 

四人目は再び伴道全教授でしたが、今度は飛行機を使ったアリバイの問題。海外にいた伴道全教授には殺人は不可能なはずでしたが……今回もあっさりと看破されてしまいます。伴道全教授の回は口直し的な位置づけだと思えてきます。

 

そして五人目こそが044APD。

刑事コロンボの愛車のナンバーから取ったというニックネームから“コロンボ”と呼ばれる彼は、これまでの問題においても明晰な頭脳と切れ味鋭い推理を見せ、どうやら他のメンバーからも一目を置かれている様子。

そんな彼が用意した問題は、とある住宅の中での殺人事件。殺されたのはその家の主人だけで、妻と子は無事。朝、起こそうとした妻が死んでいる主人を発見したという。

問題なのはその住宅。警備員が常駐するという高級住宅地の中にあり、さらにホームセキュリティも完備。二重の密室を乗り越え、他の住人に気づかれる事もなく、コロンボはどうやって主人を殺害したのか。

 

この難題にいよいよ物語は盛り上がりを見せ、続く六人目は本作の主人公である頭狂人の出番。

ここまでは連作短篇集的に物語が続いて来ましたが、ここから一気に大きく展開する事になります。

さらにクライマックスに至る一連の流れは、まさに「読む手が止まらない」状態となってしまいました。

 

とんでもない作品でした。

読み終わってすぐ、続編である『密室殺人ゲーム2.0』と『密室殺人ゲームマニアックス』をポチってしまうぐらいの興奮。

個人的には『葉桜の季節に君を想うということ』と同じぐらい、いや、フェアさで言えば本作の方が素直に受け入れられるという点で上回る面白さに感じました。

 

エンディングに賛否両論はあるようですけどね。

でもその手前で十分楽しませてもらえたので、僕としては非常に満足です。

むしろ「次作を読まなきゃ」と期待感を誘発してくれたという点では、感謝したいぐらい。

だって上に書いた通り、名探偵・信濃譲二の「家シリーズ」は期待に反してあっさりと完結されてしまったというトラウマがありますからね。

 

推理小説って感想書きにくいですよね

何を書いてもネタバレになっちゃいますし。

十角館の殺人』、『迷路館の殺人』で一生消すことのできないであろう衝撃を受けた自身の経験から、素晴らしい作品であればある程、ネタバレはしたくないんです。

ネットでも、下手すりゃリアル書店の棚でも時々ありますよね。

 

「○○トリック特集!」

「驚愕のどんでん返し○選!」

 

 とかね。

 

いやいや、トリックがわかって読む推理小説とかつまんねーでしょ。

どんでん返しがあるとわかって読んだら身構えちゃいでしょ。

 

っていう。

もうアホか、と。

そこで紹介されているのを目にした時点で、もう半分面白さ損なわれちゃってますよ。

 

そういう意味では、全く何の予備知識もない状態で『十角館の殺人』や『迷路館の殺人』を楽しめた僕は、かなり幸運だったなと感じます。

 

そんなわけで、本作に関してもざっくりと一連のあらすじ的な部分だけをご紹介するに留めました。

 

僕の推理小説熱に再び火を点けてしまった本作 『密室殺人ゲーム王手飛車取り』、詳しくはぜひご自身の目で確かめていただきたいと思います。

 

最後に……

歌野晶午って格闘技好きなんですかね?

「〈ヒョードルvsミルコ CMのあとすぐ!〉とテロップが出て、CM明けに試合が始まるかね。CM明けはヒョードルの過去の試合のダイジェストだ。次のCM明けはミルコの生い立ちをまとめたVTRだ。その次のCM明けこそはと思ったら、ズールなんていうブラジル人が出てくる。結局一時間待たされて、ヒョードルvミルコのゴングが鳴るわけだ。テレビ番組の煽りなんて、みんなこんなものではないか。へたしたら〈このあとすぐ!〉でさんざん引っ張ったあげく、番組の最後に試合のさわりだけやって、〈次週、ノーカット放送!〉なんてテロップを臆面もなく出す」

僕も格闘技やプロレスが好きなので、この辺のくだりには爆笑してしいました。

上にご紹介したドラクエのくだりもそうですが、ちょいちょい挟まれている小ネタにも笑わされてしまいます。

歌野晶午って、こんなユーモラスな一面もあったのね。

続編はこちら

https://www.instagram.com/p/BnCrEpZHkez/

#密室殺人ゲーム王手飛車取り #歌野晶午 読了いやいや、評判は耳にしていましたが。最高でした。フェアかアンフェアかで意見が分かれる #葉桜の季節に君を想うということ よりも個人的には上です。歌野晶午、すごい。もう改めて初期の家シリーズから読み直さなきゃならないんじゃないかっていうぐらい脱帽です。ネタバレは避けたいので詳細は避けますが、ブログには #新本格推理ブーム や過去の歌野晶午に対する思いなどもまとめましたので、興味があればご一読下さい。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

 

『魔界都市〈新宿〉』菊地秀行

魔界都市」とは何か?

かつて、その名を「新宿」といった。 

菊地秀行の『魔界都市〈新宿〉』なんてものを読んでみました。

この後膨大な作品を刊行する事になる菊地秀行の処女作であり、発行は1982年。

発行元である朝日ソノラマ社は今から十年以上前に廃業し、会社清算してしまっています。

でもその昔、菊地秀行をはじめ清水義範などを中心に“ジュブナイルSF”というジャンルを築き、当時の少年(←大きな少年もいたのかな?)達の心をがっちりと掴んで離さなかった時代があるそうです。

ちなみに「ジュブナイル」という言葉には「ティーンエイジャー向け」「少年少女の」といった意味がありますので、簡単に言うと今でいう「ラノベ」のはしりみたいなジャンルであり、出版社だったんですね。

ファミコンの初代『ドラゴンクエスト』の発売が1986年、『ロードス島戦記』や『風の大陸』、『フォーチュンクエスト』といった角川スニーカー文庫富士見ファンタジア文庫ライトノベルレーベルを確立した作品が出てくるのが1987年以降ですから、菊地秀行栗本薫笹本祐一と並び、ライトノベルの黎明期を築き上げた作家たちと言えるかもしれません。

ライトノベル初期というとあかほりさとるに代表される「エロと俺ツエー、擬音語だらけの中身のない小説」というイメージもありますが、それ以前の上記黎明期の作品はジュブナイルと言いつつ、大人向けと言っても過言ではない重厚な世界観としっかりとした文章が特徴だったりもします。

何せ、児童書と一般小説の間に位置するようなジャンルって、当時はなかったでしょうからね。

そういう意味では今でいうラノベを読みたいという人たちは、こぞって菊地秀行をはじめとする数少ないジュブナイル小説を読んでいたと推察されます。

以後の漫画や小説にも多大な影響を与え続けるという『魔界都市〈新宿〉』。

前置きが長くなりましたが、以下にご紹介します。

 

魔界都市とは

当ブログを読んでくださっている人というのはおそらくある程度読書に親しんでいる方がほとんでしょうから、「魔界都市」という言葉に聞き覚えや見覚えのある方も少なくないと思います。

ざっくり説明すると

魔震(デビル・クエイク)”と呼ばれる謎の大地震によって瞬時に壊滅し、これに伴い発生した亀裂によって外界と隔絶され、怪異と暴力のはびこる犯罪都市となった東京都新宿区の別名

という事になります。

新宿区だけが外界と隔絶されて、とんでもない別世界になってしまっているのです。

中にはエスパーや人造人間等の不思議な能力を持った人間(しかもほぼ悪人)が巣食い、それ以外にも科学や突然変異によって生まれた巨大で凶暴な生物が跋扈しています。

特に巨大化した生物たちが恐ろしい。

両頭の巨大な犬猫なんていうのはかわいいもので、突然頭上から降ってきた巨大なヒルカップルがミイラ化されたり、酔っ払いの上に降ってきたミミズみたいなやつが耳や鼻から入り込んで人体を乗っ取ったりします。

グロいことこの上ない。

ですが、簡単に言うと「なんでもあり」な舞台なのです。

何が起こっても、何があってもおかしくない。

エスパー的な念動力に襲われる事もあれば、霊的な力に襲われる事もある。かと思えば、一般的な殴る蹴る、刺す、打つといった暴力だって存在します。

小説を書く上ではこれ以上はないというぐらい魅力的な世界。

それこそが「魔界都市」であり、菊地秀行の様々な作品・シリーズを生み出す源泉となっているのです。

大塚英志の作品に登場する「終わらない昭和」も同様ですが、一旦作り出したひとつの世界観から次々と連鎖的に作品を生み出すのって、もしかしたらこの辺りの世代の方々の特徴だったりするんですかね?

井坂幸太郎作品のように、作品同士がつながっているのってファンにとっては嬉しかったりもしますが。

 

魔界都市〈新宿〉の話

どうも説明が多いですね。

本書『魔界都市〈新宿〉』は菊地秀行の処女作であり、「魔界都市」が初めて登場する作品でもあります。

地球連邦首相の暗殺をたくらむ魔道士レヴィ・ラーと、主人公である十六夜京也との戦いを描いた作品。

十六夜京也は女の子にモテる一般的な高校生ですが、その実、亡き父から授かった阿修羅と呼ばれる木刀を受け継ぐ“念法”の使い手。

この“念法”というのがなかなかの万能薬で、物理的に作用する事もあれば、前述した超能力や霊能力といった超現実的な力に対抗する事のできる唯一の手段であったりもします。

阿修羅を一振りすれば、周囲を取り囲んでいた亡者の魂を根こそぎ吹き飛ばしたりできてしまうのです。

ヒロイン役には首相の娘であるさやかという女の子が登場。

レヴィ・ラーと倒す為に魔界都市へ潜入した京也とともに戦おうと、後を追います。

さやかの武器は合気道と指に嵌められたレーザー・リングだけという無防備さ。

ところが、この無防備さこそが物語の潤滑油になっていたりもするのです。

行く先々でさやかは襲われたり、さらわれたりしますが、これこそが京也の行動を加速させる原因になっていたり。

最初は足手まといと煙たがる京也でしたが、さやかは不思議な力で、人々の協力を招いたりしながら事態を解決していきます。

最近では聞かなくなってきましたが、王道PRGの定番である“慈愛の力”的な存在であると言えばわかりやすいでしょうか?

吉川英治宮本武蔵』でいう“お通”の存在にも似ているかもしれません。

宮本武蔵』も本質的にはお通と武蔵を巡るドタバタ活劇のようなものですものね。

心優しい性格である“お通”が優しさに付け込まれ、騙されてあちらこちらに振り回される中で様々な事件が起こり、いつの間にか武蔵も巻き込まれている、という繰り返し。

本書も「レヴィ・ラーを倒す」という目的を除けば、『宮本武蔵』と似たような物語の構造になっていると言えるかもしれません。

 

きっかけは『魔界都市ハンター』

この本を読むきっかけとなったのは漫画本である『魔界都市ハンター』。

https://www.instagram.com/p/BeQHleenvL5/

 

だいぶ昔に少年チャンピオンに掲載されていた漫画らしいですね。

かなり昔、親戚の家で読んだのを思い出して一気読み。

こちらも十六夜京也が登場する作品なんですが、『魔界都市〈新宿〉』シリーズのスピンオフ作品的な位置づけなんでしょうね。

魔界都市に現れた〈神〉をめぐり、世界の破壊を企む『闇教団』と防衛庁所属の『超戦士』が戦う物語。本作の主人公でもある十六夜京也が主役でありながら、脇を固める牧師や超戦士たちの個性が強すぎて癖になる作品です。

レヴィ・ラー対十六夜京也という本作に比べ、様々な立場や人物の思いが交錯し、より深みのある作品に仕上がっていると思います。

たぶん僕に限らず、この漫画で『魔界都市』を知ったという人は少なくないのでしょうね。

だいぶ上の世代の人たちにはなりますが。

 

そして『魔界都市ブルース』シリーズへ

ちなみに『魔界都市〈新宿〉』は本作と、続いて刊行された『魔宮バビロン』の2作で留まっています。

以降は秋せつらを主人公とした『魔界都市ブルース』シリーズが中心となっているようです。

尚、『魔界都市ブルース』にも本作に登場したドクター・メフィストが登場しています。

僕はそちらは全く読んだ事がないのですが。

 

 

……と思いきや、2008年からいつの間にか続編の刊行が進んでいたようですね。

2008年『騙し屋ジョニー』、2010年『牙一族の狩人』、2011年『地底都市〈新宿〉』、2013年には『狂戦士伝説』と続々と発表されたようです。

 

まぁでも正直、シリーズものってある程度の巻数で完結をみたいですよね。

魔界都市ブルース』並みにあまりにも長く続いてしまうと……ちょっと読む気が無くなってしまうのは僕だけでしょうか?

今のところ手を出そうとは思えないかもしれません。

https://www.instagram.com/p/Bm9vO5fHWJY/

#魔界都市新宿 #菊地秀行 読了1982年発行の #ジュブナイル SF小説今の #ラノベ のはしりのようなものとはいえ世界観も文章もしっかりしていて読み応えあり菊地秀行の処女作であり、数々の物語の舞台となった魔界都市を生み出した物語以前ご紹介した #魔界都市ハンター と同じ主人公 #十六夜京也 だったりもしますなかなか楽しめました#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『夏を拾いに』森浩美

あの夏を息子と拾いに行くのも悪くない。いや幸せだ。

早速タイトルのネタバレしちゃいましたが。

森浩美『夏を拾いに』です。

和製スタンド・バイ・ミーと噂の本作。

だいぶ前に買ってから長い間積読化していたのですが、ようやく読むことができました。

ちなみに最近では積読もTsundokuとして海外に広まりつつあるとかなんとか。 

 

www.j-cast.com

トヨタ式のKaizenが世界に広まって久しいですが、Tsundokuも市民権を得られるんでしょうか?

まーどうでもいい世間話ですね。

 

世知辛い現在の“私”が息子に語る“あの夏”

冒頭は山手線から井の頭線へと乗り換える“私”の描写から始まります。

40半ばを過ぎ、加齢を感じる男は常務から大阪転勤を持ちかけられる。改札を出た矢先、塾の階段から降りてくる息子を目撃。中学受験へ向けて、五年生の夏休みを夏期講習に費やす息子も、それを促す妻もどことなく冷たく、和やかさはほとんど感じられない。

どんな言葉をかけても煙たがるばかりの息子が、ふとしたきっかけで“私”の発した「不発弾探しの思い出」に食いつく。

そうして“私”は息子に対し、“あの夏”の思い出を語り始めます

 

昭和46年、小学5年生の“私”

当時の“私”こと“僕”は東京中央電気という大企業が鎮座する地方の小さな町に住んでいました。

土地の人はチューデンと呼ぶその企業に多くの住民が支えられ、“僕”の両親もまた、チューデンの製品を入れる段ボールの会社を営んでいました。

“僕”はいつも雄ちゃん、つーやんの幼馴染み二人とともに、毎日を過ごしています。

三人は周囲とは少しだけ違っていて、いつも何か楽しい事を探しています。

一学期の終業式には、中庭にあるひょうたん池をジャンプで飛び越えるという試みを表明し、大勢の生徒たちが見守る中、失敗して泥だらけになった挙句、先生たちにはこってりと怒られたりします。

美人で憧れの先生がいたり、鼻に強烈なデコピンをする怖い先生がいたり、暴力で有名な上級生がいたり。

どことなく懐かしく、哀愁が漂う昭和の小学生の世界が広がっています。

 

自由研究は不発弾探し

正直言って物語に起伏の少ない本書ですが、一番の芯となるテーマが不発弾探しです。

ある時、祖父から戦争当時の空襲の話を聞いた“僕”は、自由研究に不発弾を探すことを思いつきます。

大量の磁石で地中に埋まった不発弾を探知するため、チューデンの敷地内に潜り込んで不良品のスピーカーから磁石を集めたり、作った探知機で森の中を探索したり。

鼻につく転校生の高井君も仲間となり、4人は町の中を探検しまくります。

その合間にも、「遊んでばかりいないで仕事を手伝え」という親との言い争いや、上級生の悪ガキ矢口たちとの争いなど、僕たちには常に様々な困難や葛藤が待ち構えています。

まさしく少年たちの青春を描いた“和製スタンド・バイ・ミー”と言えるのかもしれません。

 

ちりばめられた「昭和」

昭和46年を舞台としているだけあって、本書の中には当時を思い起こさせるようなエピソードがたくさん登場します。

「マッハ」

「ゴーゴーゴー」

土曜の夜はテレビを見るのに忙しい。『巨人の星』『仮面ライダー』それに『キイハンター』。『8時だョ!全員集合』がなくなってしまったのは残念だけど……。

夏休みの間、午前中にアニメが放送される。ほとんど毎年同じものだったけど、『宇宙怪人ゴースト』や『大魔王シャザーン』がお気に入りで、特に『チキチキマシン猛レース』に登場するブラック魔王のお気に入りの相棒のケンケンという犬の笑い方が好きだ。クラスでも真似する者が多かった。

雄ちゃんの自転車は5段変速ギアの最新のもので、電子フラッシャーと呼ばれるウインカーやスピードメーターフォグランプ、そして後輪の両サイドにはバッグまでついている。

世代が違うので僕にはピンと来ませんが、同じ時代を知る人が読めばわくわくしてしまうのかもしれませんね。

“世代が違うので”というのが意外とネックで、本書には当時を知る人であれば共感できそうなエピソードがたくさんあるんですよね。

ただし、そうでない場合……というのがちょっと問題。

約500ページに及ぶボリュームはセリフも多く、全体的に文字数も少な目でそこまで難解ではないのですが、いかんせん冗長に感じられるのは否めません。

ストーリー的にもそんなにハラハラドキドキ、という感じでもないですしね。

スタンド・バイ・ミーのように列車に轢かれそうになったり、ヒルに襲われたりといった冒険シーンでもあればちょっとは違うのでしょうが。

世界観としてはスタンド・バイ・ミーと比べるとちょっと小さい。

良くも悪くも、当時の少年たちの“あの夏”をリアルに描いた作品、と言えるのかもしれません。

彼らが成長した姿が、冴えないサラリーマンである点も含めて。

著者の書きたいテーマというのは、物語終盤で大人になった“私”の独白という形で表れています。

下記の文章に共感を覚えたら、読んでみるのをおすすめします。

たとえくだらなくても、その何かを探すことが重要なのだ。“野放し”にできれば、子どもたちもバーチャルな世界から抜け出して、創意工夫を覚えるに違いない。ところが公園で遊ぶことさえ危険な世の中になってしまった。神隠しなどという迷信には、どこかドキドキするようなものがあったのだが、出没するのが変質者や通り魔では、心躍る響きはない。過保護なのは分かっている。しかし命を取られては泣くに泣けない。ゲーム機を買い与え、家に閉じ込めておくことが一番安全な方法とは。我が子のみならず、この国の子どもたちが不憫に思える。

 

 

SMAPの作詞家!?

森浩美の文庫が、売れに売れている。2008年12月に文庫化された短篇集『家族の言い訳』は軽く15万部をオーバー。2009年9月に文庫化された短編集『こちらの事情』も順調に版を重ね、2冊併せて25万部を突破したという。

あとがきで文芸評論家の細谷氏いわく、どうやら著者の作品はかなり売れているらしい。

正直あまり聞かない作家名だけど、僕の認識が足りないだけで実は有名な人だったりするんだろうか?

不思議に思って検索してみると……ありましたよwikipedia

見てびっくり!

 

森浩美 - Wikipedia

 

作家というより、作詞家だったのね。

しかもSMAPの『$10』とか『SHAKE』とか『青いイナズマ』とか!

個人的にはブラックビスケッツの『STAMINA』『Timing』『Relax』がツボだったりするんですが。

めちゃくちゃ有名な歌の歌詞書いてる人だったんですねー。

なんだかもうすっかり小説よりも何よりもそっちの方面の人としてインプットされてしまいました。

https://www.instagram.com/p/Bm0pMsrHOHE/

#夏を拾いに #森浩美 読了小学5年生の夏休み、不発弾を探して街中を駆け巡る少年たち舞台は昭和46年。当時の流行や遊びのノスタルジックな雰囲気でいっぱいです。同じ世代を生きた人たちにはきっとたまらない事でしょう。ただ正直世代から外れた側からすると……ストーリーはほとんど起伏もないし、冗長感は否めないかなそれよりも森浩美さんって、SMAPの青いイナズマやSHAKEの作詞家でもあるのね。そっちの方が驚きです。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『町工場の娘』諏訪貴子

「会社は大丈夫だから!」

思わず、そう叫んだ。

父は私の目を見つめたままの姿勢で息を引き取った。64歳だった。

お盆を挟みすっかりご無沙汰していましたが、しばらくぶりの更新です。

読んだ本は町工場の娘

昨年NHKでドラマ化された話題の女性社長のドキュメンタリーであり、自著でもあります。

www6.nhk.or.jp

 

主婦から社長に

舞台となるのはダイヤ精機

著者である諏訪貴子さんは社長である諏訪保雄さんの娘さん。

諏訪家は元々兄と姉、末っ子の貴子という三人兄弟でした。

ところが跡取りとして期待されていた兄は幼い頃に夭逝。

貴子はまるで兄の生まれ変わりのよう男勝りな性格でのびのびと育ちます。

社会人になってからは二度、父に乞われてダイヤ精機に入るのですが、二度とも父の保雄自身の手により解雇されてしまいます

経営を立ち直すためにはリストラが必要と訴える貴子に対し、従業員は何があっても守るべきという父との対立により、貴子自身が解雇されてしまうのです。

「お前、明日から来なくていいから」

そっけない言葉でクビを宣告される貴子。

初代社長だった諏訪保雄さんはかなり昔気質な性格だったようですね。

その様子は、貴子が大学卒業後に大手企業に勤めた際にも散見されます。

「お客様からの誘いは絶対に断るな」

父の言いつけ通り貴子は誘われるがまま、飲み会やカラオケ、ゴルフと少ない給料を工面して参加し、水道や電気が泊められてしまうほどの困窮生活を送ります。

部屋にあるのはお米だけだが、炊くことすらできない。仕方なく、生の米をジャリジャリ食べた。

年頃の女性とは思えない生活ぶりですね。

そんな厳しい父保雄さんですが、一方ではフェアレディZを買い与える親バカな一面もあったりします。その後明らかになりますが、3億円ほどの売上しかない町工場にも関わらず、社長秘書や運転手がいたそうですから、やはりあくまで昔気質の職人肌タイプで、経営には向いていなかったのかもしれません。

やがて父保雄が病に倒れ急逝。

後継者は決まっておらず、会社の幹部たちも及び腰。

姉夫婦はどうも最初から候補には入らなかったようで、白羽の矢が立ったのは貴子と、エンジニアである貴子の夫。

しかしながらその時、貴子の夫には渡米の話が浮上し、保雄が倒れたのはまさに家族全員で渡米へ向けて準備を進めていたその矢先でした。

夫は迷いを浮かべるものの、苦慮の末、現在の仕事を取ると決断。

メインバンクからの後継者の催促や、幹部社員たちからの懇願を受け、貴子はダイヤ精機の社長に就任する事となるのでした。

 

就任直後の混乱

周囲の後押しを受け、二代目社長に就任したはずの貴子でしたが、その矢先に出鼻をくじかれる事件が起こります。

「大丈夫なのか? お前、本気で頑張らなきゃダメだぞ」

就任の挨拶に出向いた取引銀行において、支店長から投げつけられた言葉でした。

憤慨する貴子でしたが、なんとか父の葬儀の手伝いの約束を取り付けます。

ところがこの一件により、銀行との仲はこじれてしまいます。

葬儀を終えて早々に、今度は支店長がダイヤ精機にやってきますが、その内容はなんと合併を持ち掛けるものでした。

急ごしらえで社長の座に就いた貴子に対し、銀行は全く信用を持っていなかったのです。

度重なる仕打ちに奮起し、再建を決意する貴子。

就任一週間にして、リストラを断行するのです。

これには社長就任を要請していたはずの幹部社員ですら「何てことをするんだ、このやろう」と食って掛かります。

父が亡くなった後、幹部も含め、社員の多くは私に「社長になってほしい」と言った。だが、それはあくまでも“お飾り”のつもりだったのだろう。私が形だけ社長のいすに座ってさえいれば、自分たちは今まで通り日々の仕事を粛々とこなしていく。会社が成長することはなくても、自分たちの生活を守ることぐらいは可能だろうという感覚だったはずだ。私に「経営してほしい」とは思っていなかったのだ。

なんという生々しい話でしょう。

思わず、うんうんと頷いてしまいます。

現場に残された社員の気持ちも、自分がお飾りだと気づいた貴子の気持ちも、どちらもよくわかります。

しかし貴子はあくまで経営者として、ダイヤ精機の再建へと自ら能動的に行動していくのです。

 

手探りの会社再生

まず貴子は『3年の改革』を打ち出し、実際に様々な手を打って行きます。

この内容こそが本書のキモと言えるところでしょう。

製造の現場ではよく言われる「5S」の徹底から始まり、「悪口会議」と名付けた活動、一人ひとりの社員に寄り添う為のコミュニケーション等、試行錯誤を繰り返していきます。さらに設備の更新や生産管理システムの構築、ITの導入等々。

やがて念願であった社員旅行の夢も叶えます。

 

人材の確保

続いて問題となるのが昨今そこかしこで叫ばれている人材の確保。

個人的にはこの辺りの話が「さすがだな~」と思いました。

このままでは狙い通りの人材確保ができない。そこで、20~30代の若手社員を集めてプロジェクトチームをつくった。若者が「ダイヤ精機に応募してみよう」と思うためにはどんな工夫をすれば良いか、アイデアを出し合った。

ホームページの手直しやパンフレットの作成に当たっては、10~20代の若者の「親」を意識した。若者が「この会社に応募してみよう」と思った時、最後にその背中を押すのは親だ。親に「この会社なら入社しても大丈夫」と安心してもらい、後押ししてもらうための仕掛けを考えた。

ほとんどの中小企業の場合、経営者や現場が思い描く「こういう人が欲しい」という人材像をそのまま求人情報としてハローワークなり求人情報誌なりに掲載し、マッチにする人材が現れるのを待つ、というのが古くから続く人材確保の考え方だったりするわけです。

どころが諏訪社長の場合、経営者や現場が思い描く「こういう人が欲しい」という人材像に向けて会社側を変えようとしたんですね。

一見同じようですが、全く正反対の考え方であり行動です。

完全に蛇足になってしまいますが、マーケティング的な考え方においても、企業側が開発した製品を消費者に売り出す「プロダクトアウト」という考え方と、市場で求められている製品を開発して売り出そうという「マーケットイン」という考え方があります。

旧来の企業の求人方法が前者であるとすれば、諏訪社長のやり方は後者であると言えるでしょう。

今時、「こういう人が欲しい」と言ったって簡単には集まるはずありませんからね。

人材不足が叫ばれて久しいですが、よく原因として上げられるのは“少子化”ばかり。

それに加えて忘れてならないのは“情報化”の問題です。

以前に比べて求職者の目に触れる求人情報の数は飛躍的に増えています。それこそインターネットを使えば日本全国の様々な求人情報が見つかりますし、求人元がどんな会社なのかも簡単に検索する事ができます。

求人誌や求人チラシの少ない情報を元に応募していた時代は終わったんです。

商品を買う時に商品のスペックや口コミ、製造先・販売元を調べるのと同じように、求職者も求人の条件や内容、求人先の口コミ等を調べるのは当たり前ですよね。

調べた際にホームページが存在しなかったり、さっぱり会社の実像が見えて来なかったら、見放されてしまっても仕方ありません。

しかし、自分が探そうとしていた情報がちゃんとホームページに載っていたら、きっと会社に対する信用度は上がるはずです。加えて魅力的と思える内容であれば、応募してみようという気持ちは強くなるのではないでしょうか?

こんな点からも、諏訪社長が非常に時代を見極めながら事業を進めている事がわかります。

 

そして“町工場の星”へ

ダイヤ精機は2010年に「大田区『優工場』に選ばれます。

続いて「勇気ある経営大賞」で優秀賞、東京都中小企業ものづくり人材育成大賞で奨励賞を受賞します。

なかなか大きな賞は獲得できなかったダイヤ精機ですが、その活動は着実に人々の間に広がり、2013年には雑誌日経ウーマンが選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」に諏訪貴子社長が輝きます。

これがきっかけとなり、諏訪貴子の名は“町工場の星”として一躍有名になったのでした。

本書にはその考え方が行動がぎっしりと詰まっています。

読書ノートも久々にびっちりなのですが、最後に諏訪貴子社長の考えが一番現れていると思えた一文を抜粋したいと思います。

中小企業の社長は「何でも屋」だ。営業もやる。経理もやる。情報収集もする。広告塔にもなる。10年間、社長業を続けてきて、社長は「考える人」であると同時に、「動く人」であるべきだと考えている。

「考える人」でもあり、「動く人」でもある「何でも屋」。

これこそが会社を再建させた社長の姿なのでしょうね。

https://www.instagram.com/p/BmrpCw_H-vx/

#町工場の娘 #諏訪貴子 読了2013年に #ウーマンオブザイヤー に輝き、 #町工場の星 と呼ばれる #ダイヤ精機 2代目社長の物語昨年は#nhk10 でドラマ化もされたそうです父の急逝を受けて会社を引き継いだ女社長の会社再建の全てが濃厚に詰まった一冊です。非常に為になる話ばかりでした。詳細はブログにて。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい#本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『風神の門』司馬遼太郎

京から八瀬までは、三里ある。高野川をさかのぼって、洛北氷室ノ里をすぎると、にわかに右手の叡山の斜面がせまり、前に金毘羅山がそびえて、すでに山里の感がふかい。

冒頭の一文です。
いかにも司馬遼太郎といった雰囲気で懐かしさすら覚えてしまいます。
一時期はアホみたいに読み漁っていた時期もあったんですけどねー。
調べてみたら2014年に読んだ『城塞』以来ご無沙汰だったみたいです。
そこからだいぶ空いて昨年末に笹沢左保の『真田十勇士』全5巻を読んで以来、時代小説自体から離れていたんですね。

https://www.instagram.com/p/BdNP4cDnmJg/

考えてみると『城塞』真田十勇士『風神の門』豊臣家の最期を描いているという点では一緒です。
そもそも『風神の門』を買った理由も『真田十勇士』を読んだ後で、「他に真田十勇士について書かれた小説ってないのかな?」と思ったのがきっかけなんですが。

購入してから実際に読むまでだいぶ長々と積読化してしまっていたようです。
それでは、改めて本書について触れていきましょう。

伊賀忍者霧隠才蔵

本書『風神の門』の主人公は伊賀忍者霧隠才蔵
同じく真田十勇士の一人であり甲賀忍者である猿飛佐助と並び、日本を代表する忍者の一人と言っても過言ではありません。
しかしながら真田十勇士ではリーダー格である猿飛佐助に比べると、些か見劣りするのも正直なところ。
真田十勇士を取り扱った物語や劇、ドラマ等は世の中にたくさんありますが、いつだって中心でスポットライトを浴びるのは猿飛佐助であり、そのライバルとして、光に対する影として存在するのが霧隠才蔵でした。
前出の笹沢左保版『真田十勇士』ではまさに佐助の影として人知れず暗躍した後、意外と呆気ない最後を遂げたり。。。
興味のある方は、笹沢左保版もぜひ読んでみていただきたいと思います。

 

そんな霧隠才蔵を主役に据えたというのは司馬遼太郎ならではの英断。
ある意味では司馬遼太郎が贈るダーク―ヒーローもの、と言えるかもしれません。

 

物語を彩る三人の女性

時代小説といえばお決まりかもしれませんが、本書にも重要な役目を担う女性が登場します。
まずは淀殿の侍女である隠岐
淀殿の侍女であり、大阪の家老大野修理治長の妹である彼女は、佐助達と行動を共にし、大坂の為に腕に覚えのある男たちを集めようと流浪の旅をしています。
ひょんなことから隠岐を知った才蔵は、名前も顔も知らない彼女を探して菊亭大納言の屋敷に忍び込みます。
そこで出会うのが菊亭大納言の三女である青子
隠岐かと思ったら人違いだった」と大迷惑をこうむる青子ですが、持ち前の純真さと好奇心旺盛な性格から、才蔵を慕うようになってしまいます。
才蔵も青子に対して愛情らしきものを持ち始めた頃、青子は他ならぬ隠岐たちの手によってさらわれます。
青子を探す才蔵の前に立ちふさがる野党。
赤子の手をひねるように成敗した才蔵は、野党に捉えられていた女性を発見します。
この女性がお国
お国に対しては才蔵は並々ならぬ肉欲を発揮し、あっという間に我が物にしてしまいます。
その後もお国に対しては卑猥とも言えるような大胆な行動も要求します。

そんなわけで、本書は真田十勇士と並行して大坂夏の陣までの霧隠才蔵を描いているのですが、物語の節々でこの三人の女性たちが代わる代わる存在感を放ち続けるのです。

 

佐助と才蔵、伊賀と甲賀の対比

猿飛佐助と霧隠才蔵の二人がよく「光と影」として描かれるというのは上でも触れましたが、それでは本書において、司馬遼太郎は二人の対比をどのように描いたのでしょう?

一つ目は、「群れる甲賀と孤高の伊賀」という対比。
甲賀忍者は頭領である佐助を筆頭に、組織だって行動するのが特徴です。
全国各地に甲賀忍者は生息していて、ひとたび声を掛ければ様々な情報を交換しあったり、武力蜂起に転じたりもします。
一方で、才蔵のいる伊賀忍者は孤高です。
そもそも才蔵以外に伊賀忍者と思われる人間はほとんど現れません。
あくまでたった一人、一匹狼として行動するのです。

さらに二つ目は「義で動く甲賀と金で動く伊賀」という対比。
猿飛佐助を中心する甲賀忍者は、忍びというよりは武士に近いように書かれています。
主君に忠誠を誓い、義の為に行動します。組織があり、上下が存在します。
しかし才蔵は違います。
誰かに仕える、という考えを持ちません。
あくまで個として、己の思うがままに生きようとするのです。
彼らを動かすのは金だけなのです。
とはいえ、才蔵は真田幸村に“男惚れ”して佐助たちと行動をともにするようになりました。

本来は忍びとして才蔵の姿の方がスタンダードと言えそうですが、一方の雄である佐助を武士の延長・常識人として描くことによって、才蔵の偏屈さ・忍者らしさを際立たせたと言えそうです。

 

また一時は真田幸村を通して大坂方に身を置いたはずの才蔵は、戦後にこんな感想を漏らしています。

 

徳川が勝ち、豊臣がほろびるのも天名であろう。この城にきて、そのことがよくわかった。腐れきった豊臣家が、もし戦いに勝って天下の主になれば、どのように愚かしい政道が行われぬともかぎらぬ。亡びるものは、亡ぶべくしてほろびる。そのことがわかっただけでも、存分に面白かった。

 

大坂冬の陣、夏の陣というと真田幸村後藤又兵衛といった豪傑と比して、淀君大野修理を頂点とする豊臣方の無能な采配が取り上げられがちですが、司馬遼太郎は最後まで第三者としての立場を貫いた才蔵の目を通して、大坂方の腐敗を語らせたかったのかもしれませんね。

 

司馬作品=バッドエンド?

名作の多い司馬作品ですが、読んでいて一つだけ気がかりな点があります。
それは……

そのほとんどがバッドエンドである

という点。
実在した歴史上の人物を題材としている作品が多いので、仕方ない面もあります。
新選組しかり坂本龍馬しかり、読んでいるうちに感情移入してしまって、なんとか生き延びて欲しいと願う事も少なくないのですが……残念ながら彼らの最期は最初から決まっていたりするのです。
歴史そのものが盛者必衰。
本人は天命を全うしても、すぐさま子孫の代で滅亡してしまったり。
なかなかハッピーエンドとはならないのが難しいところです。
ところが本書の良い点というのは司馬作品にしては明確にフィクションであるという点。
そりゃあそうですよね。
霧隠才蔵なんて忍者はフィクションでしか描けませんから。
なので、詳しくは書きませんが他の司馬作品に比べるとなんとも清々しいエンディングとなっています。
たまにはこういう爽やかな司馬作品も良いですね。

https://www.instagram.com/p/BmN5aQqnGBP/

#風神の門 #司馬遼太郎 読了しばらくぶりの司馬作品であり時代小説。調べでみたら司馬遼太郎は2014年以来らしい前はアホみたいに読み漁ってたんだけどな風神の門は #真田十勇士 の一人 #霧隠才蔵 を主人公にした作品で、関ヶ原以後〜大阪冬の陣、夏の陣までを描いています。他とは違う #猿飛佐助 との比較や次々と登場する魅力的に女性キャラ等、司馬作品にしては珍しく読後感も清々しいフィクションでした。久々の #時代小説 、いや〜堪能しました。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。