おすすめ読書・書評・感想・ブックレビューブログ

年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『5分後に涙が溢れるラスト』エブリスタ

今回読んだのは『5分後に涙が溢れるラスト』。

小説投稿サイトエブリスタと河出書房がタッグを組み、エブリスタに投稿された作品の中からテーマに相応しい作品を抜粋して書籍化したという一冊。

 

最近では短編小説に嵌まっていると言っていますが、そんな中、ふと気になる記事を目にしました。

 


空前のショートショートブーム!!!

 

記事によると、

全国の小中高校で1日10分程度実施される「朝の読書」で1話ちょうど読み切れる程度の分量の短編をまとめて本としてパッケージングすることに、大きな需要があったからだ。

という事情が背景にあったそうです。

 

確かにジュニア小説レーベルの棚を覗くと、隣に『5分で切ない~』『5分で読める~』といったタイトルのアンソロジー作品が各出版社から出版されている事がわかります。

以前から「最近の子にはこういうのが人気なのか」と気にはなっていましたが、ブームは子供だけではなく、大人にも広がっているというのです。

 

そんなわけで今回は、僕の苦手なネット小説へのチャレンジの意味もあって、エブリスタと河出書房の出版である作品を手に取ってみました。

こちらの作品は文庫化作品と言う事もあり、子供向けではなく大人向けとして棚に並んでいますしね。

 

さてさてどんな作品が収められているのか、詳しくご紹介していく事にしましょう。

 

 

「涙が溢れる」をテーマとした13の作品

本アンソロジーのテーマは「5分後に涙が溢れる」。

感動必須の作品ばかり13作を収めたと言う事です。

 

どれも8,000字程度を目安として書かれた作品らしいので、その中で感動を起こすのはなかなか難しいと思うのですが……順に紹介していきましょう。

なお、せっかくなので小説投稿サイトエブリスタの該当作品ページへのリンクも設置します。

 

 

『不変のディザイア』

 一年前の自分にメッセージを送れるというアプリを手に入れたオレ。早速、遼子という女性と別れろとメッセージを送る。その度に今目の前の現実とオレの記憶は変わり、都度不幸な結末を招いてしまう遼子との関係もめまぐるしく変化していく。

 https://estar.jp/novels/23845320

 

『うばすて課』

 超高齢化社会を迎えた世界、ヘブンと呼ばれる高齢者施設への入居の可否を判断するケースワーカーとして勤務する事になる僕。しかし僕には、人の心が読めるという生まれ持った能力があり、涙ながらに生活困窮を訴える面談者のどす黒い裏の顔まで見えてしまう。

 https://estar.jp/novels/23846178

 

 

『ぼくが欲しかったもの』

 無精子症と診断された事により、婚約を破棄された僕はずっと気になっていた喫茶店を訪ねる。マスターや居合わせた客とのやり取りにより、結婚のみを目標としてきた僕が生き方の多様性に目覚める。

 https://estar.jp/novels/24006662

 

 

『隣の家のホームレス』

  家の隣の空き地に、ある日突然ホームレスが住み着いた。ホームレスは子どもである僕達の人気者になるものの、親達は眉を潜め、近寄るなと叱責する。そんなある日、ホームレスの意外な正体が明らかになり……。

  https://estar.jp/novels/23733021

 

 

『なつのかけら』

 夏休み、海に近い祖父母の家で過ごしていた私は、はるにれ君というちょっと不思議な男の子と出会う。はるにれ君とともに、ラムネのガラス瓶に、砂やレジン液を入れて作る工作に夢中になる私。しかし翌年再び祖父母の家を訪れた私に、意外な事実がもたらされる。

 https://estar.jp/novels/24272491

 

 

『レシピ』

 義母が亡くなったと聞き、母の実の娘が遺産を求めてやってくる。金、金と求める彼女に対し、兄弟は母が残した貯金通帳とともに彼女に料理を振る舞う。

 https://estar.jp/novels/24353415

 

 

『もしも最愛のあなたとの約束を守ったとしたら』

 朝食の準備を整え、起こしにいった夫に対し、「ところで、あなたはどちら様ですか?」と問い返す妻。夫は出会った頃からの想い出を呼び覚ます。

 https://estar.jp/novels/24994266

 

 

『38℃に想いを込めて』

 失踪した姉の代わりに、4歳の姪を預かった私。育児放棄されていた彼女はハウスダストやアレルギーにより真っ赤に腫れ上がった可哀想な肌をしていた。そんな彼女が高校を卒業し、春からは専門学校へと進学する。

 https://estar.jp/novels/24997187

 

 

『ひじきのこころ』

 小さな身体のぼくことひじきが紡ぐちいちゃんの家族のお話。大好きだったちいちゃんが男の人を連れてきて、やがて特別な日を迎える。

 https://estar.jp/novels/24748217

 

 

『渡せなかったプレゼント』

 父の日に向けて腕時計を用意する僕。そんな僕に、父は母親が見つかったと告げる。僕は母の連れ子で、父は母が置き去りにした血の繋がりもない僕をずっと育ててきてくれたのだ。また一緒に暮らしたいと言う母の言葉に戸惑う僕に、父は「俺はお前のお父さんじゃない」と冷たく言い放つ。

 https://estar.jp/novels/24917867

 

 

『彼女の嘘と俺の隠し事』

 5年間付き合って来た華の秘密に気づく俺。彼女は自分を見ていない。ずっと一緒にいて、そんな事にも気づかないと思ったのかと俺はショックを受ける。そんな俺に、華は別れを切り出す。

 https://estar.jp/novels/25058266

 

 

『コバルトブルーに切り取って』

 広樹と春子という二人の同級生とともに絵に打ち込む主人公。才能に溢れる反面、口の悪い春子は揃って美大を目指すという二人に反し、自分は絵の道になんて進まないと言い放つ。

 

 

『さよならはみどりいろ』

 祖父が自費出版で書いた絵本を、毎日ランドセルに入れて持ち歩くわたし。小学二年生を迎えた時、一人の少年が転校してくる。他のみんながわたしを馬鹿にする中、彼だけはすごいなと褒めてくれた。しかしそんなある日、彼は私の大事な絵本に……。

 https://estar.jp/novels/25242134

 

 

……涙?

単刀直入に結論から書きます。

 

……微妙でした。

 

WEB小説だから、という言い訳は別にしても、何万とある作品の中から選びに選び抜いた13作品にしてはその……ううん。

 

8,000字という制約の中ではこうならざるを得ない面はあると思うんですけどね。

より多くの感動を与えるためにはベタに起承転結を遵守せざるを得なかったりもするでしょうし。

 

でもどれもちょっと既視感があるというか、読み始めた段階である程度先が読めてしまう作品ばかりだったように思います。

涙が溢れるかどうかはともかくとしても、大きく胸を揺さぶられる作品は残念ながらなかったかなぁ。

 

エブリスタの「5分シリーズ」そのものに懐疑的にならざるを得ないわけですが、実は本書と同時に発売された『五分後におののき極まるラスト』も購入していますので、次回はそれも読んだ上で改めて評価を記したいと思います。

 

 

 

 

 
 
 
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『天に遊ぶ』吉村昭

「あんたたちは、文学をやっているそうだな。日比野の父親は、息子がなにやらわけのわからんことをやっている、と嘆いていた。そんなことをしているから疑いをかけられるんだ」

さて、今回読んだのは吉村昭『天に遊ぶ』。

当ブログで紹介するのは初めてですが、実は僕、この吉村昭という作家が大好きです。

初めて読んだのは確か中学生の時。教科書か何かで知った『関東大震災』を読んで、淡々と起こった出来事だけを記すリアルさに戦慄したものです。

 

以後、北海道の三毛別羆事件を描いた『羆嵐』や黒部第三発電所のためのトンネル工事を描いた『高熱隧道』等々を読みましたが、実際に起こった事件や出来事を下敷きとして書かれる作品はどれもドキュメンタリー映画を見ているようで、最後まで興奮冷めやらぬまま一気読みしました。

 

『天に遊ぶ』はそんな社会派小説化吉村昭が描く短編集。

しかも一作が原稿用紙10枚分という、超がつくほど短いショートショート作品群となっています。

 

 

ざっくりあらすじ

細かく感想を書くまでもない短い作品ばかりですからね。

いつものごとく下記にざっくりとしたあらすじを記します。

 

 

『鰭紙』

 南部藩における天明の飢饉(1782~)の実態を調べる男の話。飢えのあまり人肉すら食べたエピソード等。史料に残すべきもの、敢えて省くものの取捨選別。

 

『同居』

 独身の部下に見合い相手を紹介し、お互いに気に入ったと思いきや……彼女の自宅を訪問し、そこにいる同居相手に困惑する。

 

『頭蓋骨』

 北海道のとある漁村で、その昔避難民を乗せた船が沈没するというエピソードを小説家が取材。たまたま網にかかった幼児の頭蓋骨が「大きな毬藻」のようだったという言葉に、大きな感銘を受ける。

 

『香奠袋』

 著名な作家の葬儀のため、集まる編集者たち。都度訳知り顔をして受付に交じるという香奠婆さんの話題で盛り上がる。

 

『お妾さん』

 幼少時住んでいた町には、お妾さんの住む家が多くあった。時々外から目にする妾宅からは俗世離れした雰囲気を感じるものの、空襲騒ぎのさ中、娘とともに心細そうに身を寄せ合うお妾さんの姿に憐みを感じる。

 

『梅毒』

 井伊直弼を暗殺した現場指揮者、水戸脱藩士の関鉄之介。彼は梅毒を患っていたとする不名誉な噂が流布されていたが、調査をしたところ、彼は梅毒ではなく糖尿病に冒されていたことがわかってくる。

 

『西瓜』

 別れた妻と喫茶店で再会する男。妻は元夫である自分の部下に結婚を迫られているという。関係を疑う元夫に、彼女は想像するのも気持ち悪いと吐き捨てる。別れたのは夫の浮気が原因だったが、わざわざそんな事のために呼び戻すと言う事は夫と復縁したいという事なのだろうか。

 

『読経』

 父の葬儀の際、昔自分の家に居候していた男と三十数年ぶりに再会する。彼は自分の不注意で弟を死なせてしまい、精神的な落ち込みを不安視した両親が、主人公の家に預けたのだ。葬儀の間、僧のお経に合わせて読経をする彼のよどみない声に、連日読経を繰り返して来た事を想像させられて胸が痛む。

 

『サーベル』

 大津事件にて、ロシアの皇太子ニコライを暗殺した津田三蔵の末裔M氏に取材のため会いに行く。津田の血の継承者としてどんな迷惑をこうむって来たかと尋ねたところ、どんなに時間が経っても、どこで調べてきたのか研究者と称する者が絶えず訪れると言われ、恐縮する。

 

『居間にて』

 伯父が亡くなった事を、脳卒中から寝たきり状態となっている伯母に伝えるべきか相談。ついに伝えたという兄にその時の様子を確認していたところ、布団を被り、泣いているかと思いきや、伯母は笑っていたのだという。

 

刑事部屋』

 出張から帰宅したところ、部屋の前で待ち伏せしていた刑事に警察署まで連行される男。大学時代の友人が殺された事件について、嫌疑がかかっているのだという。結局犯人は別件で逮捕され、無罪が判明するものの。

 

『自殺』

 元気がないと運ばれてきた犬を診察したところ、肺癌を患っている事が判明。既に成す術もないため、弱って来たタイミングを見て安楽死させようと医師は提案。しかしその後、飼い主の隙をついた犬は道路に飛び出し、車にひかれて死んでしまう。今まで一度としてそんな行動をとった事はないだけに、自殺ではないかと医師と飼い主は話す。

 

『心中』

 自殺した女性の下で、ナイフで刺されたダックスフントが発見された。運び込んできた警察の求めに応じ、医師は手術を施して犬の命を救う。その後犬は、女性の息子に引き取られていった。

 

『鯉のぼり』

 孫が交通事故で死んだ後も鯉のぼりを上げ続ける老人に、深い悲しみを感じる。その後、物干し台に衣類を干すのは爆撃機に対する合図だという噂が流れ、サイレンの度に人々は洗濯物を取り込むようになった。それでも尚、男は今年も鯉のぼりを上げるのではないかと危惧していたところ、その前に町は焦土と化し、終戦を迎える事になる。

 

『芸術家』

 スナックを開いていた芳恵は、旅館に逗留していた小説化を名乗る男とともに行方をくらましてしまう。そんな彼女がとある温泉街の料理屋で働いていると聞きつけ、従兄妹の耕助が迎えに行く。彼女が店を売った金や貯金を借りて東京へ行き、今では年に数度手紙をよこすだけという男を、芳江は一途に信じ続けているという。

 

『カフェー』

 友人の家で大切に保管されていた敷島を一本貰い、吸ったのをきっかけに、戦前近所の煙草屋にいたNさんを思い出す。彼はセルロイドの機械を買ってせっせと働いていたが、カフェーの女にうつつを抜かし、稼いだ金を貢いだ事が露呈し、妻との間で近所中に知れ渡るような大げんかを繰り広げたのだ。

 

『鶴』

 昔一緒に同人雑誌を欠いていた岸川の葬儀で、岸川が二十五歳も年上の女と再婚した事を思い出す。彼女は七十九歳だというのに美しさを保っていた。岸川の死因は腹上死だったという。

 

『紅葉』

 結核出後の療養のため、4年目に奥那須の温泉宿に滞在した友人。夜半、隣の部屋からすすり泣くような営みの声が聞こえてきて居心地の悪い思いをする。翌朝になってみると、寝室の男女が殺人犯だった事が判明する。二人は山中で自殺するつもりだったのだ。

『偽刑事』

 小説の取材をしていると、刑事に間違われることがある。八丈島でも勘違いされ、咄嗟に同行していたK氏こそ刑事だと嘘をつく。しかし罰が当たったのか悪天候により飛行機は飛ばず、数日の立ち往生の後無事帰りの飛行機へ……と思いきや、死を予感するほど恐ろしく揺れ、やはり罰が当たったと胸の中でしきりに反省する。

 

『観覧車』

 離婚した妻と娘とともに遊園地で過ごした男。彼は度重なる浮気の後、別れを告げられたのだった。きっぱりともう終わった事だと言い切る妻に対し、男の未練は募るばかり。さんざん復縁を迫り、二人を見送るものの……どうにも身体の疼きが収まらない男は、付き合い始めた別の女にすぐさま電話をかける。

 

『聖歌』

 姉の葬儀の際、聖堂内に思いがけず澄んだ男の声が響き渡る。その昔姉が交際していた相手で、親の反対によって結婚を諦めたのだった。一流企業の役員にまで上り詰めた姉の夫と、どこかうらぶれた感じに見える男とを見比べ、やはり父の判断は間違えてなかったのだと納得する。

 

以上、全21話。

『鰭紙』や『梅毒』といった取材から生まれたエピソードはやはり素晴らしいですね。短編とはいえ、吉村昭のらしさが存分に発揮されているように感じられます。

 

個人的には『居間にて』や『鶴』のようなそこはかとなくホラーの風味が感じられる作品も好きです。

『観覧車』の今に通じるコミカルさもいいですね。さんざん愛を訴えた相手が目の前からいなくなった途端、平気な顔で違う女に電話するという。

 

長編を読むような味わい深さこそありませんが、ショートショートがお好きなら、こんな作風に触れるのもたまにはいいのではないでしょうか?

ぜひお試しを。

 

 

 
 
 
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『主婦病』森美樹

 『ユリエさんのあそこ、ぐちゃぐちゃだね。音をきかせて』「いいわよ、ほら、こんなになってる」私は、ヘタを取った熟れたトマトに携帯電話を近づけた。トマトに割り箸を突き刺し、ぐちゃぐちゃにかきまぜる。

『すごいいやらしい音』

 男が歓喜のため息をもらす。

森美樹『主婦病』を読みました。

R-18文学賞読者賞を受賞した『まばたきがスイッチ』をはじめ、全六話の短編を収めた短編集。

最上部にいつものように引用分を載せましたが……これを読んだだけで、彼女の着想の非凡さが伝わってくれたらいいな、と思います。

 

 

緩やかに繋がる世界観

収められた六つのストーリーは決して連作短編というわけではないのですが、それぞれが緩やかに共通した世界観で繋がっています。

例によって短編なので、各話のざっくりとしたあらすじを記しておきます。

 

『眠る無花果

 母親が事故で無くなり、整骨院を営む父親と暮らす女の子の話。亡くなった母の記憶を引きずる彼女に対し、父は当然のごとく母のいない生活を受け入れます。母の死によって変わる日常の変化に対する少女の戸惑いと、大人の身勝手さがありありと描かれます。

 

 

『まばたきがスイッチ』

 全く会話のかみ合わない夫との生活に飽いた主婦は、他人には言えない秘密のアルバイトを始める。毎朝洗濯物を干す度に、お向かいで同じように洗濯物を干す金髪の男の子に興味を持ち……まさに主婦病とでも言うべき歪んだ人物像を描いた傑作。

 

 

『さざなみを抱く』

 会社を経営する夫が、ある日突然脳出血で倒れ、片麻痺が残るという介助なしでは生きられない体に。その事がきっかけで、夫が長い間隠して来た秘密も露呈してしまう。妻は満たされない想いと向き合いながら、自分から目を背け続けた夫の介護に精を出す。

 

『森と蜜』

 整骨院を営む夫と、絵子という娘……という唐突に『眠る無花果』で亡くなった母親目線で話が進む。娘の絵子をおさげ頭にしたがる彼女には、子供の頃に麗羅という同級生の友達がいた。彼女との不思議な想い出を回想していくうちに、主人公の歪んだ人格が浮かび上がってくる。

 

 

『まだ宵の口』

 経済的に不自由はないにも関わらず、夫を避けるように団子屋での早朝アルバイトに勤しむ妻。突然店長が失踪し、直後同僚の親友までもが姿を消す。残された友人の子どもの面倒を見つつ、妻は親友の帰りを待ち続ける。

 

 

『月影の背中』

 祖父の経営するタクシー会社で、いちドライバーとして働く孫娘。夫はセックスの最中に声を出すなと強制する異常な性癖の持ち主。やがてアパートに引っ越して来た金髪の青年と関係を結んでしまう。合間合間に挿入されるタクシーのエピソードでは、腹にナイフが刺さった女性が客として乗って来たりと、不思議な世界観。

 

 

いずれもキーとなるのは金髪の青年ですね。

彼は必ず主人公達の前になんらかの形で姿を現します。

 

ただ……これって意味はあったのでしょうか?

 

 

『まばたきがスイッチ』は秀逸

本作において、R-18文学賞で読者賞に輝いたという『まばたきがスイッチ』はまさしく傑作です。

テレクラの描写といい、いざという時のために100万円用意すべきというたまたま聞きかじった言葉に妙に翻弄されてしまう様子といい、飲み込まれるように読み込んでしまいました。

 

文章も素晴らしい。主人公達の一風変わった、でも日常的にありえるかもしれないと思わせる絶妙なラインの心の襞を、非常に繊細な筆致でもってありありと描き出してくれる。

 

だからこそ逆に疑問なのが、金髪の青年をわざわざ毎話登場させ、物語を結び付けようとした点。

短編集として何か面白みを創出したかったのかもしれませんが、別にあってもなくても問題ないような仕掛けですし、かえって面白みを損なっているような気がします。

『まばたきがスイッチ』は一話完結の短編として単体でも大きな満足度を得られるにも関わらず、他五作は変な連動性を取り入れたがために一話ごとの完成度が大きく損ねられたように感じられます。

 

金髪の青年ではなく、爽やかな印象の好青年で会ったり、悩みを抱えた青年であったり、他の人物に置き換えた方が読者の感情移入もしやすくなるだろうし、物語としての深みも創出できたんじゃないかな、と。

 

とてもとても良い文章を書かれる作者さんだけに、上記の点だけが返す返すも残念なところ。

余計な不純物を交えず、一球入魂で仕上げた長編作品があればぜひとも読ませていただきたいと願います。

 

 

 
 
 
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『夫以外』新津きよみ

――「夢中」とは「夢の中」と書く。何かに熱中しているあいだは夢の中にいるだけで、夢から覚めたら、そこは現実。やっぱり、一番大切なのは、目の前の現実だ。

 

新津きよみ『夫以外』を読みました

またもや短編集ですね。

しかもこちらは大人の女性たちの日常を舞台としたもの。

 

あらすじとタイトルだけでほぼジャケ買いしたので特に事前情報もないのですが、とにかく中身をご紹介していきましょう。

 

 

大人の女性たちの物語

大人ってなんぞ? という疑問が湧くわけですが、本書に収められた全6編のうち、ほとんどが中高年の女性が主人公または重要な脇役として登場します。

タイトルからは比較的若い奥さんが昼ドラ的に他の男性と関係を繰り広げるドロドロとした作品をイメージしてしまいますが、ちょっと毛色が違うようです。

ただし、別の意味でドロドロとした関係やエピソードが繰り広げられるのですが……

 

以下、ざっくりとしたあらすじです。

いつものごとくネタバレは避けているつもりですが、苦手な方は読み飛ばしを。

 

『夢の中』

 昔から何事にも夢中になった事のない主人公は、ふと、長年一緒に暮らして来た夫に対しても、夢中になった覚えのないと思い出す。そんな夫が急に無くなり、主人公は遺産相続に追われる事に。対象となるのは自分の他、既に故人である夫の妹の息子。ほとんど関わり合いのない相手に遺産を譲る必要はないと忠告する友人の言葉とは裏腹に、主人公は初めて会った瞬間から、親子ほどの歳の差のある彼に夢中になってしまう。

 

 

『元凶』

 元々亭主関白だったモラハラ夫が定年を迎え、毎日家にいる生活に苦悩する主人公。息子の嫁は、そんな義母の様子に気付き、子育てを手伝ってくれる相手が欲しいという打算もあって、義母に近づこうとする。そんなある日、自転車で移動中に主人公は転倒してしまい……。

 

『寿命』

 主人公が定年退職を迎えたその日、職場に見知らぬ少女がやってくる。後日帰省した娘に聞くと、彼女は娘の不倫相手の娘だった。娘の不義を諫めるものの、娘からは自分の過去の不始末を逆になじられてしまう。主人公もまた、人には言えぬ関係の末、シングルマザーとして娘を産んでいたのである。ただし、一度は相手と結ばれる機会もあったのだが……。

 

『ベターハーフ』

 腎臓移植に悩む女性。臓器提供は三親等以内の姻族に限定されるが、彼女が腎臓を提供しようと考えているのは、別れた夫なのだ。コーディネーターとの会話の末、彼女は臓器移植のために再び婚姻関係を結ぼうとするが、物語は逆に腎臓提供後に離婚したという一組の夫婦へと変わり……。

 

『セカンドパートナー』

 父の死から一年も経たない内に、父の友人との再婚を申し出る母。娘の美沙は嫌悪感を抱くものの、交際する相手は会社の経営者。資産家の娘になると知れば、結婚にも前向きになってくれるかもしれないと算段する。一方、再婚相手にはシングルマザーとなった一人娘がおり、四者はそれぞれが異なる思惑にぎくしゃくと歪な関係を築いていく。

 

『紙上の真実』

 両親の苗字が違う事で子どもが友人からからかわれたりと、様々な問題を抱えた事実婚の夫婦の話。義母はそんな嫁を「田中さん」と苗字で呼ぶ。そんな折、雑誌の記事用のインタビューで、「姑を放置し、餓死させた冷酷な女」とあらぬ中傷を受ける一人の女性に出会う事となる。

 

 

ミステリ

読み終えてから気付きました。

本書、ミステリだったんです。

 

最近だと様々な作品にミステリ的な謎かけやひっかけを盛り込まれるのが当たり前になって、そういうもんなのかなぁと呑気に読み進めていたのですが。

 

おや、と確信的に気づいたのは最後の『紙上の真実』を読んでからでした。

おいおい、そういう事だったんかい! と。

 

まぁ少々ツッコミどころもなくはないですけどね。

さんざん夫婦別姓の自由だの姓と名のバランスだのと理由をつけるより、何より真っ先にそこに触れるでしょうが、という。

そのせいで子どもまで気まずい想いをするとか、ちょっとなぁと首を傾げてはしまったんですが。

 

ただミステリとしては上質である事は間違いありません。

一件関連性のなさそうな濡れ衣事件のエピソードも、「名前に人生まで左右される人」という点で物語に深みを与えていますし。

 

まさかミステリだったとは、全く予想外なだけに少し得した気分になりました。

 

さて、次もまた短編集に取り掛かりたいと思います。

しばらくはラノベはないかな?

 

 

 
 
 
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『家守』歌野晶午

 

 

歌野晶午『家守』を読みました。

改めて書く必要もないかもしれませんが、歌野晶午といえば第57回日本推理作家協会賞と第4回本格ミステリ大賞をW受賞した『葉桜の季節に君を想うということ』や、二度目の本格ミステリ大賞に輝いた『密室殺人ゲーム』シリーズ、第146回直木賞候補にもなった『春から夏、やがて冬』などが有名です。

 

当ブログの中でも、『密室殺人ゲーム』の記事は安定してPVを伸ばしてくれる稼ぎ頭となっています。

興味のある方は下記リンクよりどうぞ↓↓↓

 

 

さて、そんな評価の高い歌野作品ですが、今回読んだ『家守』は短編集となっています。

本格ミステリに嵌まった時から、短編集は避ける傾向にあったんですけどね。なんていっても綾辻行人島田荘司京極夏彦等々、千ページを超えるような分厚い作品の中に、これでもかというような大掛かりなトリックを仕掛けるのが本格ミステリの醍醐味と思っていましたから。

 

そんな僕も、昨今では短編の面白さに目覚めつつある事は以前に書いた通りです。

 

今では本格ミステリの名手として呼び声の高い歌野晶午の短編、果たしてどんなものになるか……存分に期待して読む事にしましょう。

 

 

家をテーマに書かれた5つの短編集

 本書に収められているのはいずれも家をテーマとした短編です。

以下にざっくりとした内容を記します。

ネタバレとまでは行かないかと思いますが、苦手な方は読み飛ばして下さいますようお願いします。

 

 

『人形師の家で』

 子供の頃、見知らぬ人形師の家に出入りしていた主人公達は、かくれんぼに興じているうちに一人だけどうしても見つからない少年を置いて帰ってしまう。結果として、彼はそのまま行方不明に。人形師の家に出入りしていた事も、そこで彼がいなくなった事も、誰にも言えずに抱えていた主人公は、帰省した先で当時の幼馴染と再会する。

 

『家守』

 自宅二階の寝室で、窒息死という不可解な状況で発見された女性。玄関は施錠の上ドアチェーンまで掛けられ、窓という窓は全てロックが掛かった密室状態で起こった不可解な死。彼女は誰に、どうやって窒息に追い込まれたのか。

 

『埴生の宿』

 フリーターの主人公は、ある日突然見知らぬ男にアルバイトを持ちかけられる。死んだ弟のフリをして、痴ほう症の父の相手をして欲しいというもの。報酬に惹かれて承諾したのはいいものの、ある日パニックを起こした痴ほう症の父にほだされ、主人公は屋敷を脱走しようとし、後日無惨な姿で発見される。一体彼の身に、何が起こったのか。

 

『鄙』

 小説家の兄とともに、知人の紹介で山深い山村に旅行に来た主人公は、思いがけず殺人事件に遭遇してしまう。疑がわしき人物には犯行時刻に自分達と一緒にいたという決定的なアリバイがあり、警察の捜査の末、浮上した別の男が呆気なく自供した事で捜査は終了。しかし後日、思わぬところから事件の真相を知る事となる。

 

『転居先不明』

 遊び人の夫がネットビジネスで一山当てたのをきっかけに、中古住宅を購入して東京に引っ越して来た夫婦。しかしそこは、過去に痛ましい事件が起きたいわくつき物件で……次々と起こる怪奇現象に隠された真実とは。

 

 

いずれも古き良き本格推理小説の匂いがする作品ばかり。

『人形師の家』は綾辻行人の『囁きシリーズ』に似たものを感じますし、『鄙』や『転居先不明』の怪奇テイストも懐かしさを感じます。

 

個人的には『家守』『埴生の宿』の全盛期の島田荘司を彷彿とさせるダイナミックな仕掛けが好きです。

昨今のライトノベルで見られるような推理小説って、手垢のついたこじんまりとしたネタをああでもないこうでもないとキャラクターやトンデモ理論でこってり味付けするような傾向があるのですが、新本格推理ブームの時代って、トリックのために大掛かりな舞台装置を作ってしまうような思い切りの良さがあったんですよねー。

建物と建物の間をロープで繋ぎ、滑車でもって死体を空中遊泳させる、とかね。

 

ある意味では馬鹿馬鹿しいの一言で切り捨てられてしまいそうですが、その馬鹿馬鹿しさこそが新本格と呼ばれた推理小説ブームの醍醐味だったりしたんだよなぁと、改めて思い知らされました。

 

それからやっぱり短編集、合間合間にキリ良く読めるし、短い中でぎゅっと物語を凝縮する独特のテクニックも必要だし、面白いですね。

しばらく短編が続きそうです。

 

 

 
 
 
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『日曜は憧れの国』円居挽

「運が良ければ、一生忘れられないような体験になると思いますよ」

円居挽『日曜は憧れの国』を読みました。

久しぶりの創元推理文庫というだけで、なんだかわくわくしちゃいますね。

創元推理文庫というと、有栖川有栖や北川薫といった推理小説の名手を輩出した本格推理小説の老舗レーベルという印象があります。

 

しかも著者である円居挽さんは我孫子武丸綾辻行人、法月倫太郎といった新本格ミステリブームの旗手を多数輩出した京大ミステリ研のご出身。

創元推理文庫+京大ミステリ研というブランドが揃っただけで期待値は膨らまらざるを得ません。

 

久しぶりの推理小説という事もあって、とにもかくにも楽しみな一冊となりました。

 

 

四人の中学生が織りなす日常の謎

本書に登場するのは千鶴、桃、真紀、公子というそれぞれ違う学校に通う中学二年生。

彼女達は各々の事情から四谷カルチャーセンターの講座を受ける事になります。

トライアル5コースと言い、数ある講座の中からお試し的に5つを体験できるというものです。

 

4人は取っ掛かりとなる料理教室で出会い、意気投合したのをきっかけに、将棋教室、歴史講座、小説教室と一緒に各講座に参加する事になります。

その教室ごとに、ちょっとした事件が起きるというのが本書の基本構成。

 

料理教室では別グループの主婦の鞄にあったはずの財布がいつの間にか千鶴達のテーブルの下に落ちていました。

将棋教室では、彼女達の多面差しの相手を務めた小学生の女の子が突如泣いて飛び出してしまいます。

歴史教室では途中で倒れてしまった講師が、何をテーマにするつもりだったかについて四人が考えを巡らします。

小説教室では、講師である作家自身を投影したと思われる課題について、最適解を見つけるべく悩みます。

そして第五章では、それぞれが一枚ずつのチケットを使って別々の講座をヒントにしつつ、一つの謎を解こうとバトンリレー形式で推理を繰り広げます。

 

ラノベ

創元推理文庫日常の謎というと真っ先に北村薫が思い浮かんでしまいますが、本書は主人公となる少女達の年齢やキャラクターから、全体的にライトノベル感が漂っています。

千鶴は真っすぐだけどどこか抜けている主人公ポジションですし、桃は明るく元気な女の子、真紀はちょっと斜に構えた感じで、公子は物静かで生真面目なお姉さんポジション。

まるでプリ〇ュアを彷彿とさせるようなキャラクター設定ですね。

 

各話で提示される謎もまた、日常の中でもかなり些細なものばかりです。

料理教室こそ窃盗という明確な事件ですが、全体的には対象となる人物の頭の中を探るようなばかり。

後半になればなる程、明確な犯人当てではなく、作者の考える模範解答を提示されて終わり、という感が強まります。

 

それもざっくり言ってしまえば、「書を捨てよ、町に出よう」的な道徳観の繰り返し。

本書がどのあたりの年代に向けて書かれたのか定かではありませんが、子どもにはちょっと高尚過ぎる思想な気がするし、僕達のような大人には押し付けがましいような気もします。

 

もっと最初の料理教室並の小規模なわかりやすい事件を期待したかったんですけどねー。人の感じ方、考え方を推理小説のお題にされてしまうと、それって本当に最適解かなぁ?と首を捻ってしまいます。

 

また、ラノベというにはちょっと勢いというか、面白みが足りないように感じられたり。

創元推理文庫の作品としては、逆に砕け過ぎているようにも感じられたり。

 

ちょっとどっちつかずな印象を覚えてしまいました。

 

個人的に一番引っ掛かったのは真紀の口調。

「適当だネー」

「だったら先生が店開いたらウチら行くヨ」

「と思うヨ。あ、どうせこの玉ねぎも後で一緒に煮るから心配しないでネ」

細かい事かもしれませんが、彼女のカタカナで記される「ネ」「ヨ」のイントネーションというか、口調のイメージがつきかねて、最後まで違和感を持ったまま読み終えてしまいました。

 

昭和の漫画に出て来る片言の外国人の感じ? それともギャル? どういう話し方をする子なのでしょう???

 

表紙イラストに描かれる真紀も、ショートカットに眼鏡という活発そうな印象ではあるものの、ギャルというわけでもないですし。

 

些細な点ですけど、読み終わってもすっきりせず、もやもやしたままになっています。

 

プ〇キュア的な四人の女の子がわいわい謎に立ち向かう感じは良かったんですが、後半に進むについれてしりすぼみになってしまったのが残念な点。

続編も刊行されているのが気にはなりますが、同じようなティーンエイジャーを主人公とした日常の謎だと、米澤穂信を読んでしまうかなぁ。

 

うーん、あと一歩惜しい。

 

 

 
 
 
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『夢違』恩田陸

「――夢は外からやってきて」 

 石清水がぽつんと呟いた。

「どこへ行くんでしょうね」

 

恩田陸『夢違』を読みました。

当ブログにも登場機会の多い恩田陸作品です。

 

直木賞や映画化で話題の『蜜蜂と遠雷』をはじめ、本屋大賞を受賞した『夜のピクニック』。綾辻行人『another』をインスパイアしたという『六番目の小夜子』等話題作には書かないベストセラー作家ですね。

 

ただし過去の記事にも書いた通り、佳作・凡作も多い作家だと認識しています。

今回の『夢違』はどちらに属する作品になるか……楽しみですね。

 

過去の記事については下記のまとめをどうぞ。

 

 

 

夢判断と夢札

本書の一番の題材が夢札と呼ばれる先端技術。

誰かが見た夢を映像として具現化する事ができ、それにより解析を行う夢判断という仕事が生まれています。

主人公の野田浩章はそんな夢判断に携わる技術者の一人。

野田はたまたま図書館で目にした一人の女性に、驚きます。

彼女は野田の兄の婚約者古藤結衣子であり、予知夢を見ることができる能力を認められた日本で最初の人物でした。

結衣子は上司の葬儀に参列するために北関東へ車で出かけた時に、サービスエリアで起きた火災に巻き込まれて焼死したはずなのです。

 

ある日の事、とある小学校の1クラスで、集団ヒステリーのような事件が起こります。

全員が突然教室を飛び出して、校庭で嘔吐した生徒もいた事から集団食中毒かに思われましたが、全員は不明。

野田達は生徒達の夢札を引いて調べる事に。

野田は夢の中で、古藤結衣子らしき人物を見つけてしまいます。

 

さらに同様の事件は表ざたになっていないだけで、全国の様々な学校で起こっている事が判明。

一体何が起こっているのか。

古藤結衣子の関係とは。

死んだはずの彼女の消息とは。

 

序盤から恩田小説らしい謎の畳みかけで、物語はぐいぐい進んでいきます。

 

 

当たり外れの多い恩田作品の中から当たりを選ぶ一つの指針

恩田小説の特徴というのは、とにかく縦横無尽に謎やら手がかりといったフックをばら撒きまくるんですよね。

一つの謎が解けない内に、次々と新たな謎を登場させるのです。

 

それらが最終的に綺麗に着地すれば良いのですが、最後までぶん投げっぱなし、謎残りっぱなしの消化不良で終わる事も珍しくないという作風……。

もっとも推理小説でもない限り、全てが理路整然と説明される必要もないのですが。

特に本書のような超常現象を題材とする場合、説明しきれない事象というものも存在してしかるべきでしょう。

 

こう前置きすると嫌な予感しかしないかもしれませんが……本書がどうなのかというと、まぁなんとも、微妙なところですね。

おそらく著者は、夢現の境のような曖昧で幻想的な世界を描きたかったのだと思います。本書においてそれは、おおよそ狙い通りに働いたのではないでしょうか。

 

しかしそれが読者にとって望ましいものか、好ましいものかというとまた別問題。

 

様々な謎に対し、著者なりの答えのようなものを用意してはいるのですが、曖昧で幻想的なものであるが故に、肩透かしと感じる方も少なくないと思います。

モヤッとする感じ、と書けばお分かりいただけるでしょうか。

 

分類すると本作は『常野物語』や『六番目の小夜子』のような怪奇・幻想小説にカテゴライズされると思うのですが、恩田作品の中でもこの系統の作品には消化不良ものが多い気がしますね。

 

蜜蜂と遠雷』や『夜のピクニック』、『チョコレートコスモス』のようにストレートな人間同士の物語の方に、名作が多いような気がします。

今後恩田作品を選ぶ上の大きな指針になるかもしれません。

 

なんだか次を選ぶのが楽しみになってきました。

 

 

 
 
 
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