今回読んだのは『5分後に涙が溢れるラスト』。
小説投稿サイトエブリスタと河出書房がタッグを組み、エブリスタに投稿された作品の中からテーマに相応しい作品を抜粋して書籍化したという一冊。
最近では短編小説に嵌まっていると言っていますが、そんな中、ふと気になる記事を目にしました。
空前のショートショートブーム!!!
記事によると、
全国の小中高校で1日10分程度実施される「朝の読書」で1話ちょうど読み切れる程度の分量の短編をまとめて本としてパッケージングすることに、大きな需要があったからだ。
という事情が背景にあったそうです。
確かにジュニア小説レーベルの棚を覗くと、隣に『5分で切ない~』『5分で読める~』といったタイトルのアンソロジー作品が各出版社から出版されている事がわかります。
以前から「最近の子にはこういうのが人気なのか」と気にはなっていましたが、ブームは子供だけではなく、大人にも広がっているというのです。
そんなわけで今回は、僕の苦手なネット小説へのチャレンジの意味もあって、エブリスタと河出書房の出版である作品を手に取ってみました。
こちらの作品は文庫化作品と言う事もあり、子供向けではなく大人向けとして棚に並んでいますしね。
さてさてどんな作品が収められているのか、詳しくご紹介していく事にしましょう。
「涙が溢れる」をテーマとした13の作品
本アンソロジーのテーマは「5分後に涙が溢れる」。
感動必須の作品ばかり13作を収めたと言う事です。
どれも8,000字程度を目安として書かれた作品らしいので、その中で感動を起こすのはなかなか難しいと思うのですが……順に紹介していきましょう。
なお、せっかくなので小説投稿サイトエブリスタの該当作品ページへのリンクも設置します。
『不変のディザイア』
一年前の自分にメッセージを送れるというアプリを手に入れたオレ。早速、遼子という女性と別れろとメッセージを送る。その度に今目の前の現実とオレの記憶は変わり、都度不幸な結末を招いてしまう遼子との関係もめまぐるしく変化していく。
https://estar.jp/novels/23845320
『うばすて課』
超高齢化社会を迎えた世界、ヘブンと呼ばれる高齢者施設への入居の可否を判断するケースワーカーとして勤務する事になる僕。しかし僕には、人の心が読めるという生まれ持った能力があり、涙ながらに生活困窮を訴える面談者のどす黒い裏の顔まで見えてしまう。
https://estar.jp/novels/23846178
『ぼくが欲しかったもの』
無精子症と診断された事により、婚約を破棄された僕はずっと気になっていた喫茶店を訪ねる。マスターや居合わせた客とのやり取りにより、結婚のみを目標としてきた僕が生き方の多様性に目覚める。
https://estar.jp/novels/24006662
『隣の家のホームレス』
家の隣の空き地に、ある日突然ホームレスが住み着いた。ホームレスは子どもである僕達の人気者になるものの、親達は眉を潜め、近寄るなと叱責する。そんなある日、ホームレスの意外な正体が明らかになり……。
https://estar.jp/novels/23733021
『なつのかけら』
夏休み、海に近い祖父母の家で過ごしていた私は、はるにれ君というちょっと不思議な男の子と出会う。はるにれ君とともに、ラムネのガラス瓶に、砂やレジン液を入れて作る工作に夢中になる私。しかし翌年再び祖父母の家を訪れた私に、意外な事実がもたらされる。
https://estar.jp/novels/24272491
『レシピ』
義母が亡くなったと聞き、母の実の娘が遺産を求めてやってくる。金、金と求める彼女に対し、兄弟は母が残した貯金通帳とともに彼女に料理を振る舞う。
https://estar.jp/novels/24353415
『もしも最愛のあなたとの約束を守ったとしたら』
朝食の準備を整え、起こしにいった夫に対し、「ところで、あなたはどちら様ですか?」と問い返す妻。夫は出会った頃からの想い出を呼び覚ます。
https://estar.jp/novels/24994266
『38℃に想いを込めて』
失踪した姉の代わりに、4歳の姪を預かった私。育児放棄されていた彼女はハウスダストやアレルギーにより真っ赤に腫れ上がった可哀想な肌をしていた。そんな彼女が高校を卒業し、春からは専門学校へと進学する。
https://estar.jp/novels/24997187
『ひじきのこころ』
小さな身体のぼくことひじきが紡ぐちいちゃんの家族のお話。大好きだったちいちゃんが男の人を連れてきて、やがて特別な日を迎える。
https://estar.jp/novels/24748217
『渡せなかったプレゼント』
父の日に向けて腕時計を用意する僕。そんな僕に、父は母親が見つかったと告げる。僕は母の連れ子で、父は母が置き去りにした血の繋がりもない僕をずっと育ててきてくれたのだ。また一緒に暮らしたいと言う母の言葉に戸惑う僕に、父は「俺はお前のお父さんじゃない」と冷たく言い放つ。
https://estar.jp/novels/24917867
『彼女の嘘と俺の隠し事』
5年間付き合って来た華の秘密に気づく俺。彼女は自分を見ていない。ずっと一緒にいて、そんな事にも気づかないと思ったのかと俺はショックを受ける。そんな俺に、華は別れを切り出す。
https://estar.jp/novels/25058266
『コバルトブルーに切り取って』
広樹と春子という二人の同級生とともに絵に打ち込む主人公。才能に溢れる反面、口の悪い春子は揃って美大を目指すという二人に反し、自分は絵の道になんて進まないと言い放つ。
『さよならはみどりいろ』
祖父が自費出版で書いた絵本を、毎日ランドセルに入れて持ち歩くわたし。小学二年生を迎えた時、一人の少年が転校してくる。他のみんながわたしを馬鹿にする中、彼だけはすごいなと褒めてくれた。しかしそんなある日、彼は私の大事な絵本に……。
https://estar.jp/novels/25242134
……涙?
単刀直入に結論から書きます。
……微妙でした。
WEB小説だから、という言い訳は別にしても、何万とある作品の中から選びに選び抜いた13作品にしてはその……ううん。
8,000字という制約の中ではこうならざるを得ない面はあると思うんですけどね。
より多くの感動を与えるためにはベタに起承転結を遵守せざるを得なかったりもするでしょうし。
でもどれもちょっと既視感があるというか、読み始めた段階である程度先が読めてしまう作品ばかりだったように思います。
涙が溢れるかどうかはともかくとしても、大きく胸を揺さぶられる作品は残念ながらなかったかなぁ。
エブリスタの「5分シリーズ」そのものに懐疑的にならざるを得ないわけですが、実は本書と同時に発売された『五分後におののき極まるラスト』も購入していますので、次回はそれも読んだ上で改めて評価を記したいと思います。