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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『ダブル・ファンタジー』村山由佳

 

「そんなにこねまわしてどうしようというのだ。早起きのパン屋さんじゃあるまいし」

 

↑↑↑これ、なんだと思います?

 

ウソみたいだろ、

おっぱい揉まれてる描写なんだぜ、これ

by 上杉何某

 

 

村山由佳に出会ったのは確か高校生の頃だ。

第6回「小説すばる」新人賞受賞作品として、その後の同賞の傾向を決定づけてしまったと言われる

天使の卵―エンジェルス・エッグ』

そして続く衝撃の第二作……

『BAD KIDS バッド キッズ』

いずれも「恋愛」や「青春」といった鉄板のテーマを真正面から書き抜いた王道の青春小説で、

作中の登場人物達と同世代を生きていた当時の僕の胸をグサリと貫き、

ぐりぐりとえぐりまくったのだった。

村山由佳は僕の中で最高の青春小説作家として位置づけられ、その後も刊行される作品を次から次へと読み漁った。

 

 

……あれからいつの間にか十年以上が経った。

進学や就職、生活環境の変化に伴い、読書の傾向も変わり、その昔僕の心を捉えて離さなかった村山由佳の作品からすっかり疎遠になってしまっていた。

僕は変わってしまった。

青春を自分のものとして楽しめる時期を過ぎ、大人になってしまったのだ。

ところがふと気づけば、村山由佳も僕以上に劇的な遂げているという。

二度の離婚を経て、刺青まで入れて……更に書いている作品は『官能小説』『性愛小説』だという。

 

はい?

 

まーびっくりですよ。

何言ってんの? って感じです。

歩太と春妃の後ろめたさを伴った切ない恋愛とか、隆之の悲しい恋とか、都の決意とか、彼らの甘酸っぱい青春はどうなったの?

行きつく先が官能小説???

色々不安だけど、とにかく読んでみるしかない。

 

そうして手にしたのが本作……

ダブル・ファンタジー

村山由佳が作風を変え、大きな話題を読んだという作品です。

主人公は田舎で暮らす35歳の脚本家、奈津。同居する夫からの度を超えた介入に嫌気が

差している。

……ってこれ、村山由佳本人じゃん!

脚本家と小説家という違いこそあれ、置かれたシチュエーションは別れた元夫と作者の関係性そのもの。

もしかしてこれってノン・フィクション?

虚実入り混じりを連想させたまま、奈津はどんどんとんでもない行動を起こして行きます。

仕事上の関係者や大学時代の友人と次々と関係を結ぶ。

巷で話題の不倫なんて言葉がちゃんちゃらおかしく感じられるぐらい、ごく事前に、素直に、衝動に任せて行動していきます。

奈津から感じられるのは「性の衝動」だけ。

とんでもないです。

ただの色情狂です。

倫理なんて一切存在しません。

描写もとんでもなく生々しいです、。

女性が書いているとは思えません。

おっさんがエロ目的に買う官能小説と同じか、それ以上です。

でもそれが全く嫌悪感や背徳感を感じさせないのです。

奈津の生き方には賛否両論あるかもしれませんが、村山由佳の描く内面の描写に一緒になって溶け込んでしまいます。口に出しては言えないけど、心のすごく深い部分で共感できてしまうのです。

奈津にとっての幸せを、一緒になって願わずにはいられなくなります。

 

 

……十数年ぶりに読んだ村山由佳は、当時とはまた異なる衝撃をもたらしてくれました。

これが良いか悪いかは人によって異なる事でしょう。

絶対に受け入れられない、生理的に無理という人もいるかと思います。

でも僕個人としては、非常に面白く読みました。

変化を遂げた村山由佳というものを堪能させていただいた上で、今後も継続的に彼女の作品を読み続けて行こうと思いなおさせてくれた作品です。