「僕の家は、今どきめずらしくテレビが一台しかない」
序盤の一文が時代を感じさせます。
少し前までは一部屋につき一台が一般的だったんですよね。
今ではスマホやタブレット、PCは一人一台必要だけど、テレビは別になくたっていい。
最近では年度末になると家電量販店のチラシに載る「新生活応援セット」にもテレビは含まれていないんですよねー。
ちょっと時代の変化を感じます。
さて、本作は第一回少年ジャンプ賞を受賞した村山由佳のデビュー作。今から20年以上前、1993年の刊行です。
やはり節々に時代を感じさせられます。
ところが内容的にはある意味今風。
高校生の主人公はテレビに映し出された風景を見てデジャ・ヴ(既視感)を感じる。
遥か昔、戦国の世で忍びの一族として生きていた過去を追体験する主人公。
これってタイムトラベルとか、異世界転生に似た匂いを感じますよねー。
しかも村山由佳の処女作だけあり、鍵となるのはもちろん……愛!
「俺が思い出させてやる。どんな姿に生まれ変わっても、俺はきっとあんたを見つけ出す。たとえあんたが忘れていたとしても、俺は、必ず……」
↑↑↑こんなの今の村山由佳には絶対書けないもんね。
歯が浮く台詞、とはこういうのを指すのかと。
他にも文章やら行間から若さがにじみ出ます。
何が若いって、書いている村山由佳自身が間違いなく若い。
『ダブル・ファンタジー』を読んだ後だとあまりのギャップにずっこけてしまいそうですが、村山由佳という女性の人生そのものを現しているかのようで感慨深いものもあります。
賞的にも今でいうラノベ新人賞という事もあり、物語自体はとても短く、読みやすく作り込まれています。ラストのオチもベタだけど、微笑ましい。
古き良き良作です。