「何度でも切ってもいい。試食をやめれば、レオーネが死ぬ。」
三回もの胃の手術を繰り返し、それでも探求のための試食をやめない主人公の倉原礼一の台詞。
なんたる生き様!
でもこれとよく似た人を僕は知っている。
辻静雄もまた、本物のフランス料理を求めてフランスに渡り、
フェルナン・ポワンやポール・ボキューズの料理を食いまくった。
彼の生涯は海老沢泰久『美味礼賛』に詳しい。
僕の生涯通して一二を争うバイブルでもある。
読んだことのない方にはぜひおすすめしたい。
……それは置いておくとして。
今回紹介する『外食王の飢え』はファミリーレストラン・ロイヤルホストの創始者・外食王、江頭匡一をモデルとしているそうです。
ライバルとして並び立つのはすかいらーくの創始者・茅野亮をモデルとした沢修。
つまりロイヤルとすかいらーくという二大ファミリーレストランの創成期を描いた本なのです。
「レオーネ(ロイヤル)」は強烈なリーダーシップを持つ江頭が自身の身体を壊しても尚一流の味の探求を追い求め、経営に対しても自身の理想を具現化しようと奔走します。周囲すら恐れされる獅子奮迅の勢いです。
対して「サンセット(すかいらーく)」では素人に何ができるか、素人だからどうするか、という考えの下、不慣れなスタッフたちを指揮しながら成長していきます。
まるで司馬遼太郎にも匹敵するファミレス大河!
先の読めない推理小説や手に汗握るサスペンスでもないのに、一気に読みふけってしまいました。
城山三郎は『官僚たちの夏』をはじめ実在した人物をモデルとした経済小説を多数残しているようです。現代ではあまり見ないタイプの作家かと思いますので、これから他の作品にも手を付けて行こうと思います。