『F1地上の夢』海老沢泰久
「なんだ、犬小屋みたいな車を作りやがって!」
ホンダが一番最初に作り上げたF1マシンは本田宗一郎に一喝され、お披露目に集まっていたマスコミすら追い払ってお蔵入りにさせたそうです。
『F1地上の夢』はホンダのF1挑戦"第一期"(1960年代)から"第二期"のウィリアムズ・ホンダ時代までを描いたルポタージュ。
海老沢泰久は個人的には辻調理師専門学校の創始者である辻静雄の生涯を描いた『美味礼賛』の印象が強いのですが、実際にはF1や野球に関する作品の方が圧倒的に多いようです。
今ではホンダ=F1のようなイメージもありますが、
第一期はそれこそただの二輪車メーカー。
その上である意味では滅茶苦茶な本田宗一郎の陣頭指揮の下、四輪レースの最高峰とも言えるF1に挑みます。
当然、試行錯誤どころかとんでもないトライ&エラーの繰り返しです。
その中でも成功を積み重ね、迎えた第二期ではエンジン開発競争で、ホンダがF1を席捲するという飛躍を見せます。
もちろんここにも様々な苦労や葛藤があります。
海老沢泰久の筆記は淡々と、事実だけを積み重ねるような文体で色気の類は全くありませんが、それでもどんどん引き込まれてしまいます。
城山三郎にも似た作風です。
こういう作家さんが最近ではいなくなってしまったのが残念かな。