「お父さんとお母さんはビールで乾杯します。運転はお母さんの役目ですから、一杯だけです」
……飲酒運転かよ!
思わず突っ込まずにはいられませんが、本作『青年社長』の舞台はワタミが株式公開に至る1996年よりも以前の話。
当時の倫理観の表れとも言えます。
「居食屋 和民」チェーンの創業者渡邉美樹の生きざまを記したノンフィクション。
佐川急便で起業資金を貯めたという有名な逸話から、あまり知られていない「つぼ八」チェーン店としてのスタートやお好み焼きチェーンでの奮闘等、その全てが描かれていると言っても過言ではありません。
海老沢泰久や城山三郎のような作風が現代にいないのが残念、と言い続けて来ましたが、高杉良という作者は補って余りある筆力の持ち主のようです。
さて、ここ数年はすっかりブラック企業の烙印を捺され、ワタミチェーンの不調やグループ事業の売却等、悪いニュースがクローズアップされる事が多いですが、当初から決して順風満帆ではなく、好不調の波の繰り返しであった事がわかります。
お好み焼きの「唐変木」や「KEI太」、「白札屋」の撤退などはその最たるものかもしれません。
「後年、呉は山口に当てて結婚式の招待状を出したが“欠席”に〇で囲った葉書には添え書きもなかった」
期待をかけてくれた上司と、留意に応じなかった部下。
結婚式への招待は関係修復をかけた一縷の望みだったのだろうに、上司側が応じなかった事で一生の別れとなってしまった。
寂しいばかり。
ちなみにワタミは最近では再び業績回復もニュースになっていたようです。
ブラック企業として従業員を死亡事故まで追い込んだワタミの責任は決して許されるものではないかもしれませんが、匿名の掲示板やSNSでひたすら叩きまくる風潮にはどうにも目に余るものがあります。
本書を読めば、渡邉美樹という生身の人間の姿が見えてくるかもしれません。
尚、どうやら続編も出ている模様。
いずれこちらも読んでみたいところです。