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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『ツナグ』辻村深月

 

「死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口。僕が使者です」

 

もうなんだか有名作過ぎてちょっとブログ書くテンションが上がらないんですけど。

第32回吉川英治文学新人賞受賞作であり、松坂桃李の主演で映画化もされた話題作です。

知らない人、いないんじゃないかな?

 

「ツナグ」とは?

タイトルの「ツナグ」とは「この世」の人の依頼を受け、「あの世」の人と会う場を設けてくれる段取りを整える人のことだ。

「使者」と書いて「ツナグ」 。

元々は祖母アイ子の仕事だったが、心臓病で入院したのを機に、主人公である高校2年生の歩美が「ツナグ」を継ぐことになった。

 

あらすじ

  1. アイドルの心得
  2. 長男の心得
  3. 親友の心得
  4. 待ち人の心得
  5. 使者の心得

本作は連作短編の形式を取っており、上の5つの章それぞれで、歩美がツナグとしての役割を果たしていく。

死んだはずの使者に会いたい、しかもそれは一生に一度、一人一回しか許されないと知りながらやってくる依頼者たちは、いずれも人には話せないような事情を抱えた人物ばかり。

 

「アイドルの心得」は小さい頃から恵まれず、うつ病を発症した会社員の愛美が依頼人。彼女はある決意を抱き、一度だけ路上で助けてもらった事のあるアイドル水森サヲリに会いに行く。

 

「長男の心得」は工務店の経営者畠田靖彦が依頼人。歩美に対しても高圧的で傲慢な態度をとる靖彦は、売ろうと考えていた山の権利書の在処を確認する為に死んだ母ツルに会う。しかし現れたツルは、山を売るためというのは嘘だと見抜いてしまう。靖彦には他に、ツルに会う理由があった。

 

「親友の心得」多分これが、この短編集の中で一番の名作であり話題を呼んだ話。依頼人は主人公の歩美と同じ学校に通う高校生の嵐美砂。同じ演劇部の親友であった御園奈津と会いたいと依頼する。何でも一番でなければ気が済まない性格の美砂は、高校一年の頃から先輩に混じって役を演じてきた。しかし、二年生に上がった途端、主役に立候補した奈津とのオーディションの末、奈津に主役を奪われてしまう。面白くない美砂は奈津が転倒する事を狙って坂道の民家の水道を開けて帰る。翌日、坂道でスリップし、交通事故にあった奈津は「美砂、どうして」という言葉を残して死んでしまう。果たして奈津は、美砂が蛇口を捻った事を知っていたのか。ツナグを介し、再会した二人だったが、結局水道の件は話せないまま別れてしまう。しかし、戻ってきた美砂を迎えた歩美は、奈津からある伝言を預かっていて……

 

「待ち人の心得」の依頼人は土谷功一。飲み会の帰りに怪我をしていた彼女を救ったのが縁で、日向キラリという少女と知り合い、一緒に住むようになる。ところが二年後、功一からのプロポーズを受けたはずのキラリは「友だちと旅行に行く」と言い残したまま失踪してしまう。生死すら不明のキラリに会いたいと願う功一に、歩美はキラリが会うのを承知した、と告げる。キラリは何も言わずに家出してきた両親に謝罪する為に向かった先で、フェリー事故に巻き込まれて死んでいた。

 

「使者の心得」はこれまでの4つのエピソードを歩美の視点から改めて見直していく。歩美が不慣れで戸惑いながらも1つ1つの任務に応えて来た事がわかる。さらに、使者として任務をこなしていく上で、歩美は死んでしまった両親の死因についても確信を抱くようになる。

 

「親友の心得」の後味の悪さ

やはり思い返してみても、特筆すべきは「親友の心得」でしょう。

好きな男の子について語る女の子同士のキラキラした輝きと、親友同士であっても憎悪や嫉妬が渦巻くどす黒い裏側とが見事に描かれています。

読んでいる間は明らかに美砂の方が性悪で、仲良くなりたくないタイプに思えるんですが……。

最後まで読んでみると、なかなかどうして、奈津もまた狡猾なイメージに塗り替えられてしまいます。

これは女性にしか書けない話ですね。

思い出すだけでゾクッとしてしまいます。

 

間違いなくこの「親友の心得」こそが『ツナグ』という作品を話題作にまでのし上げた話でしょう。

 

辻村深月ドラえもん

同じ作者による『凍りのくじら』はドラえもんのオマージュだと作者自身が言っています。 

「どこでもドア」をはじめとする秘密道具が次々出てくる作品です。

辻村さん自身もドラえもんが大好きだと公言されていますね。

www.webdoku.jp

ただ一方で、藤子・F・不二雄ブラック・ユーモアに溢れた作品も残されています。

matome.naver.jp

『凍りのくじら』がドラえもんであるならば、本作『ツナグ』は藤子・F・不二雄のブラックな一面が色濃く出た作品なんだろうなぁ、なんて思ってしまいました。

本書が初めてという方は、『凍りのくじら』も読んでみて下さいね。