どんな分野であれ10年も働いたら、「自分には売れるモノなど何も無い」なんてことはありえません。もしそう感じるのだとしたら、その人に足りないのは「価値ある能力」ではなく、「価値ある能力に、気がつく能力」です
『マーケット感覚を身につけよう』は大人気ブロガーちきりんさんの本で、アマゾンのランキングでも上位に入るなど人気のベストセラーになった本です。
有名な本だけあって本書に関するブログや口コミは多数あるのですが、読み始めるに当たって、以下の点だけは個人的に非常に重要だと思っています。
本書は「マーケット感覚」について書かれた本で「マーケティング」を学ぶ本ではありません。
マーケティングってコトラーに代表されるセグメンテーションとかポジショニングとか4Pとか4Cとか4.0とか色々と「マーケッターの共通理論であり言語」みたいな知識が元になっている部分が大きいと思うのですが、そういう小難しい理論を紹介する本ではない、という事です。
上の引用にある通り、本書で言う「マーケット感覚」とは「「価値ある能力」ではなく、「価値ある能力に、気がつく能力」」であり、それについて書かれた本です。
逆に言うと、マーケティング的な知識を求めている方にはちょっと方向性のズレた本になるかもしれませんので、ご注意ください。
キーワードは“マーケット感覚”
ちきりんさんが必要だと唱える“マーケット感覚”とは下記のようなものだそうです。
- 商品やサービスが売買されている現場の、リアルな状況を想像できる能力
- 顧客が市場で価値を取引する場面を、直感的に思い浮かべられる能力
自動車を例に取れば、高度成長期には「豊かに見える」「女の子を誘いやすくなる」というのが車に対する大きな価値でした。
しかし現代では、もっと安い値段で、同じ価値を持つものがたくさんあります。車よりも「どこに美味しいスイーツを出す穴場のお店があるか」という情報のほうが女の子を誘いやすくなるのです。
こういった現状を正確に捉え、
今後、国内での自動車販売数を増加させるために必要なのは「よりよい車の開発」ではなく、「車が提供できる価値の再定義」です。
と認識するために、“マーケット感覚”が必要なのですね。
国内メーカーの掃除機の3倍以上もするダイソンの商品がバカ売れしたのは「サイクロン方式がすばらしいから」ではなく、「ダイソン社しかサイクロン方式の商品を出していなかったから」だと言います。
市場化が進む社会で高く売れるのは「よい商品」ではなく、「需要に比べて供給が少ない商品」なのです。
こういった観点も、日ごろからなんとなく感覚的に知ってはいても、改めて文字として具現化されてみると思わずはっとさせれらてしまいます。
「消費市場」vs「貯蓄市場」
僕が目から鱗だったのは次の点です。
モノやサービスを売っている企業は、この消費市場だけに注目しがちですが、実はその前に、すでに熾烈な競争が行われているのです。
「消費市場」……お金を使う市場
vs
「貯蓄市場」……お金を貯める市場
言われてみれば確かにそうです。
世の中の広告一つとっても、内容は「この商品を買ってね」という消費を促すものと同じぐらい、「老後に備えて積み立てしよう」といった貯蓄を促す広告に溢れています。
僕たちはまず、商品を買うかどうかの前に、「お金を使うべきか、使わないべきか」という点で迷っているんです。
この視点というのは、その後の世の中の見え方を大きく変えてしまうぐらいの衝撃をもたらしました。
マーケット感覚を身につけるために有効な5つの方法
さて、ここからが具体的に実践すべき内容となります。
とはいえ、本書におけるこの5つの方法については多種様々なブログなどでも紹介されていますので、改めて僕が書く必要もないかもしれません。
なのでざっくりと、簡単にご説明します。
1.プライシング能力を身につける
プライシング能力とは、自分の基準で妥当と思える価格をつける能力のことです。
実際に企業で販売に関わる仕事をしているとよくわかりますが、一般的によく使われるのは「コスト発想」です。それに対し、「マーケット発想」という考え方を加えることでよりターゲットに即したプライシングが可能になります。
コスト発想……材料費や人件費、運送費等の経費がら逆算して利益の出そうな価格を
導き出す。
マーケット発想……需要と供給のバランスや顧客の心理からいくらで売れるのかを
導き出す。
これは普段の仕事でも役に立ちますよね。
よくある例では「前年比」という自社の過去の商品しか見えなくなってしまっている会社も非常に多いです。「昨年は1,000円で売ったから今年も同じ値段で」と漫然と繰り返そうとする部下に対し「昨年の販売状況や利益率を出せ」と上司が言い出し、あたふたと混乱する光景なんてよく見られます。
でも、実は「昨年の値段」も「昨年の販売状況や利益率」もどちらも大した問題じゃなかったりします。問題なのは「今年どうか」なので。そういう意味では同業他社や競合の動きの方がよっぽど重要なのです。
ただただ同じ商品を同じ値段で売り続けていた結果、気づいたら他社に取り残されていたという例は以外とよくある例です。
硬直化してしまった組織の場合、なかなか理解を得られなかったりしますけどね。
2.インセンティブシステムを理解する。
簡単言うと「目の前にぶら下げられたニンジン」という事です。
人がなにか特定の言動をとったとき、その背景にある要因や、その要因が言動につながるまでの仕組みを“インセンティブシステム”と読んでいます。
本書では例としてニコニコ動画でお馴染みドワンゴの取り組みを紹介しています。
出社時刻を早めようとある仕組みを導入するにあたり、朝が苦手なエンジニアのために一つの取り組みを導入します。
それは午前中に行われる社内体操に参加したら、ランチのお弁当が無料になるというもの。「社員が早く出社したいと思う動機付けの仕組みをつくる」という発想が素晴らしいですよね。これこそが「目の前にぶら下げられたニンジン」です。
3.市場に評価される方法を選ぶ。
昔は、規格と言えばJASやJISなど、公的な組織、もしくは業界団体が定めるものでしたが、今は「市場が選ぶ事実上の標準仕様」である、デファクトスタンダードのほうがよほど重要です。つまり、「標準仕様」を決める主体が、組織から市場に移行したのです。
最近では商品にせよレストランやホテルにせよ、「口コミ」というものが可視化される事で大きな指標になっています。
でも以前は「○○認定」とか「○○賞受賞」とかそういった権威付けが評価に結びついていたんですね。
モンドセレクションとかグッドデザインとか、未だにそういった賞をありがたがる人が多いのも事実です。
でもレコード大賞であったり、それこそ文学賞や新人賞というものに対しては容赦なく疑問を投げかけられるようになりました。本を読む人にとってはお馴染みかもしれませんが、「○○賞の受賞作品は駄作だらけ」なんていうあまりありがたくない不名誉なレッテルをつけられているケースも散見されます。
公的な評価が決して無駄とは言えません。
文学賞を受賞すれば今まで流通しなかったような小さな書店や駅のキヨスクでも販売され、より良い目立つ場所により多い数を設置してもらえます。間違いなく販売チャンスは広がります。でも、それと同時にアマゾンや書評サイトの評価も上げるべく努力していかなければならないという事ですね。
4.失敗と成功の関係を理解する
日本人はよく、「シリコンバレーは失敗に寛容だが、日本社会は失敗した人を許さない」といいますが、この理解は完全に間違っています。
シリコンバレーは失敗に寛容なのではなく「失敗経験のない人など、まった評価しない」のです。
つまり、簡単に言うと「失敗なくして成功なし」という事です。
市場に向き合い、失敗を繰り返して市場からフィードバックを得ることが、マーケット感覚を磨くことにつながります。
5.市場性の高い環境に身を置く
環境には固有の「市場性レベル」があることを理解し、意識的に市場性の高い環境を選ぶということです
ここで例に挙げられているのは公務員。国や法律で守られているため、市場性が低い環境であるとされています。
常に市場を意識せざるを得ない環境に身を置く事で、自然とマーケット感覚が身につくという事ですね。
おわりに
ちきりんさんは非常に面白い角度から物事を洞察し、さらに誰にでもわかりやすい文章に言語化するという能力に優れた方です。
他にも沢山の書籍を出されていますので、ぜひ読んでみて下さい。
普段読むのは小説で、ビジネス書や実用書、自己啓発書の類はあんまり……という方も、楽しく読めるものばかりだと思いますよ。
■自分のアタマで考えよう
■未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる
■自分の時間を取り戻そう―――ゆとりも成功も手に入れられるたった1つの考え方
■多眼思考 ~モノゴトの見方を変える300の言葉! ~