おすすめ読書・書評・感想・ブックレビューブログ

年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『物語の命題』大塚英志

 

とにかく主人公を捨て子状態にしてしまえば物語は始まるのです。

 

さてさて、いつもの大塚英志ものです。

大塚英志は『魍魎戦記MADARA』や『多重人格探偵サイコ』の原作者で、批評家で、小説家で、といつもの説明書きを書いている内に、考えてみれば僕はどうして大塚英志の小説や原作漫画ではなく、こういった「小説の書き方」の本ばかり読んでいるのだろうと不思議になってきてしまいました。

いずれ彼の作品も紹介したいところですが。

前回の『物語の体操』に引き続き、今回は『物語の命題』です。

linus.hatenablog.jp

鉄腕アトム』『トーマの心臓』『どろろ』『ジェニーの肖像』『11人いる!』『借りぐらしのアリエッティ』という著名な6つの作品について分析し、その命題(=テーマ)を抽出しようというもの。

物語は「構造」によって作られているものの、その構造にはテーマが宿ります。ですので、どんなテーマの物語がどんな構造で作られているか語ったのが、本書になります。

 

テーマとは

  •  コンセプト――ストーリーの中心となるアイディアやトピック
  •  ログラインーー1つまたは2つの文で「コンセプト」の要点を表現
  •  プレミス・テーマ――ストーリーの置くに込められたメッセージ

 

下に行くほど抽象度は高くなります。

多重人格探偵サイコ』を例にとると……

 

 ≪ログライン≫

   多重人格の探偵が自身の左眼のバーコードの謎を追う中で次々と事件に遭遇し、
   解決し、自分の出自に隠された陰謀を暴く

 

 ≪プレミス≫

   多重人格者がまるで玉ねぎの皮を剥くように自分の内に潜む一つ一つの人間と
   出会い、最後に残る芯としての本当の自分、アイデンティティと出会う」

 

となり、この≪プレミス≫を見出すのが本書の狙いです。

 

1. 人造人間に生まれて 「アトムの命題

アトムの命題
人造人間は人造人間でありながら成長を望み、しかし、人造人間であるが故に成長できないという問題により深刻に直面する。

大切なのはこの先の展開で常にこの命題に立ち帰ることです。

 

2. ギムナジウムの転校生 「エーリクの命題」

「エーリクの命題」
転校生は外の世界からやってきて内側の世界の問題を顕にし、そして解決し、内側の世界を再生させ自らも成長する。

ファンタジー的世界では主人公はそれまでいた内側の世界から外側に旅立ち、「行って帰る」物語を成立させるわけです。

 

3. 水蛭子の語られなかった運命 「百鬼丸の命題」

百鬼丸の命題」
捨てられて水辺にながら着いた「不完全な子供」は、やがて出生の秘密を求めて旅立つ。

 

4. 私は急いで大人になる 「ジェニーの命題」

「ジェニーの命題」
進行する速度の異なる時間を生きる者同士の恋愛は困難である。

 

5. 君のためなら「女の子」になってもいいよ 「フロルの命題」

「フロルの命題」
男女いずれの性も選択できる主人公は、自分にとっても大切な人にとっても自分が自分であるために性を自己決定する。

 

6. いつかトトロにさよならを 「アリエッティの命題」

アリエッティの命題」
成長を選択した主人公は「ライナスの毛布」や「空想の友達」に別れを告げなくてはいけない。

 

ざっくり結論だけ書き抜いてしまいましたが、この命題を導き出すためのワークショップこそが本書の面白みだったりしますので、一度読んで様々な思考の変遷をたどっていただければと思います。

 

というのも、大塚英志のこういった本を読むのは『マダラ』や『サイコ』等、彼の著作に関するちょっとした子ネタや誕生秘話が掲載されているのが楽しみだったりするのですが、本書に関しては敢えて自作とは別のところから作品を持ってきているので、そういった楽しみがあまりありませんでした。

 

いずれにせよ「面白い」「面白くない」という二元論でもって小説を書きあぐねている方にとっては考えの角度を変えるきっかけになろうかと思います。

下記大塚英志の他の著作と合わせて、「小説の書き方」を学んでみてください。

 

■『キャラクターメーカー――創作のための物語論 

■『ストーリーメーカー――創作のための物語論

■『キャラクター小説の作り方』

■『物語の体操 物語るための基礎体力を身につける6つの実践的レッスン』 

 

https://www.instagram.com/p/BR5n9lzD5sN/

#物語の命題 #大塚英志#物語の体操 に続いて大塚英志の小説ハウツーもの。こちらはちょっとテキストめいていて、挿話・逸話の類いが少なく残念。それにしても #車輪の下 が #BL だったなんて有名なのかな?#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ