産業革命のときと同様、新しいエネルギーが変化を突き動かしている。今回は、コンピュータのデータ処理能力が新しい「エネルギー」だ。
さて、本書『ワーク・シフト』は以前ご紹介した『ライフ・シフト』の姉妹版とも呼べるリンダ・グラットンの著書。
次の10年の働き方革命、と題して主に働き方に絞った未来予測とそれに合わせたシフトの方法を書いています。
<シフト>させるべき3つの常識
序章にて、作者はまず<シフト>させるべき従来の常識を3つ挙げています。
1.ゼネラリスト的な技能を尊ぶ常識を問い直すべき
→その分野で高度な技能を磨くと同時に、
状況に応じて柔軟に専門分野を変えることが求められる。
2.職業生活とキャリアを成功させる土台が個人主義と競争主義であるという常識
→人間同士の結びつき、コラボレーション、人的ネットワークの重要性が
きわめて大きくなる。
3.どういう職業人生が幸せかという常識
→質の高い経験と人生のバランスを重んじる理性に転換する方が幸せ
理解すべき5つの要因と未来を形作る32の要素
第1部では未来を形づくる五つの要因について、32の要素に分けて提示されます。内容はそれほど説明せずとも察しがつくようなものばかりかと思いますので、おおよその見出しを中心に抜粋します。
要因1 テクノロジーの進化
1.テクノロジーが飛躍的に発展する。
2.世界の50億人がインターネットで結ばれる。
3.地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる。
4.生産性が向上し続ける
5.「ソーシャルな」参加が活発になる。
6.知識のデジタル化が進む。
7. メガ企業とミニ企業家が台頭する。
8.バーチャル空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる。
9.「人工知能アシスタント」が普及する。
10.テクノロジーが人間の労働者に取って代わる。
要因2 グローバル化の進展
11.24時間・週7日休まないグローバルな世界が出現した。
12.新興国が台頭した。
13.中国とインドの経済が目覚しく成長した。
14.倹約的イノベーションの道が開けた。
15.新たな人材輩出大国が登場しつつある。
16.世界中で都市化が進行する。
17.バブルの形成と崩壊が繰り返される。
18.世界のさまざまな地域に貧困層が出現する。
要因3 人口構成の変化と長寿化
19.Y世代(1980~95年ごろの生まれ)の影響力が拡大する。
20.寿命が長くなる。
21.ベビーブーム世代の一部が貧しい老後を迎える。
22.国境を越えた移住が活発になる。
要因4 社会の変化
23.家族のあり方が変わる。
24.自分を見つめ直す人が増える。
25.女性の力が強くなる。
26.バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える。
27.大企業や政府に対する不信感が強まる。
28.幸福感が弱まる。
29.余暇時間が増える。
要因5 エネルギー・環境問題の深刻化
30.エネルギー価格が上昇する。
31.環境上の惨事が原因で住居を追われる人が現れる。
32.持続可能性を重んじる文化が形成されはじめる。
変化に押しつぶされないための3つのシフト
第2部、第3部では実際に想定される様々な事例ごとにモデルを挙げてストーリー仕立てで紹介されています。
ここは割愛させていただくとして、第4部以降ではそれらの変化に押しつぶされないための3つのシフトを提案しています。
最終的にどんなシフトを目指せばよいのかを下記にようやくします。
1.広く浅い知識しかもたないゼネラリストから、高度な専門技能を備えたスペシャリストへの<シフト>
→一つの企業の中でしか通用しない技能で満足せず、
高度な専門技能を磨き、
ほかの多くの人たちから自分を差別化するために「自分ブランド」を築くこと。
2.孤独に競い合う生き方から、ほかの人と協力し合う生き方への<シフト>
→難しい課題に取り組むうえで頼りになる少人数の盟友グループと、
イノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢の知り合いのネットワーク、
そしてストレスを和らげる打算のない友人関係という、
三種類の人的ネットワークをはぐくむこと。
3.大量消費を志向するライフスタイルから、意義と経験を重んじるバランスの取れたライフスタイルへの<シフト>
→大量消費主義を脱却し、家庭や趣味、社会貢献などの面で
充実した創造的経験をすることを重んじる生き方に転換すること。
総評
『ライフ・シフト』を読んで良かったという人はほぼ必然的に本書にも手を伸ばすのではないかと予想されますが、『ライフ・シフト』よりも先に書かれたこともあり重複している点も多数見られ、正直なところ少し物足りなく感じられます。
ただし、繰り返し頭にインプットされる事で深く記憶に刻み込まれる事もありますので、時には頭の体操として読んでみてはいかがでしょう?
世の中に多数あふれる「○○歳までにやっておくべき10の○○」みたいな自己啓発書よりは、だいぶ有用だと思いますよ。