『お任せ!数学屋さん』向井湘吾
「将来の夢は、数学で世界を救うことです」
『お任せ!数学屋さん』は第2回ポプラ者小説新人賞受賞作。
完結まで全3作が発行される人気シリーズだったようです。
あらすじ
数学が苦手な中学二年生の遥の前に、転校生・宙がやってくる。
彼の将来の夢というのが「数学で世界を救うこと」。
遥も巻き込まれる形で「数学屋」などという店を教室内で始め、次々と持ち込まれる難題を数学の力で解決する、という作品です。
恋愛不等式
「人の感情」という最大の難問にぶつかった宙が編み出したのが、「恋愛不等式」。
気持ちを数式にって……人の心はもっともっと難解だぜ、なんて思ってしまった時点で僕が手に取るべき本ではなかったんだと思います。
「数学が生活に役立つことを示せ」
「グラウンドを二等分しなさい」
「部員たちのやる気を向上させなさい」
「恋愛不等式を解きなさい」
「ふたりのグラフを描きなさい」
「数学で世界を救いなさい」
全部で六つの問題、六つの話。
どれもこれも上手く数学と話が繋がっているのですが……これはやはり、ジュニアレーベルで出版すべきかと思ってしまいます。
もしくはやはりライトノベルか。
「推理小説」+「α」
ちょっと別の話に逃げますが、本作は一時期流行った「推理小説」+「α」の亜流推理小説の流れにある作品かと思います。
ラノベ界隈で『ビブリア古書堂の事件手帖』がヒットしたのを皮切りに、「推理小説」+「α」が続々と出版されました。
「α」は「貴族」や「お嬢様」、「喫茶店」等、エッセンスが用いられています。
ライトノベルと推理小説を合わせたライトミステリ、とでも呼ぶべきジャンルでしょうか?
そもそもこの系統って、森博嗣だったり京極夏彦がはしりだと思ってるんですけどね。
綾辻行人らの登場で巻き起こった推理小説ブームがひと段落しかけた頃、突如現れたのが森博嗣の「理系ミステリ」であり京極夏彦の「怪奇系ミステリ」であって、僕は彼らの作品は良い意味でライトノベルだと思っています。
詳しくは以前に書きましたので読んでみて下さいね。
そういう意味では、森博嗣の「理系ミステリ」の系譜にあり、さらに謎の対象を「日常の謎」としたのが本書『お任せ!数学屋さん』であると言えようかと思います。
……ああ、小難しい分析をしてしまう時点でバレバレかもしれませんね。
正直に言うと、本書は僕には合いませんでした。
数学で全てを解決するとか、なんか小賢しい感じがして魅力と思えないもん。
昔の「勝利」と「友情」と「努力」というジャンプの三大原則の方がしっくり来てしまう年頃なのです。
ポプラ社小説新人賞について
ポプラ社の新人賞を巡っては過去にとある事件が起こっています。
そもそもはポプラ社小説大賞という名前で2005年に始まった新人文学賞だったのですが、第5回でとある事件が起きます。
ご存知の方も多いですよね。
深くは触れませんが、とある芸能人の方が大賞を受賞したのを巡り、出来レースではないか等という疑惑が噴出したのです。
何せ第1回以来、2・3・4と大賞は「該当作なし」が続いた上での受賞でしたから。
また、選考は他の新人賞とは異なり現役作家などの外部選考委員はおらず、社内での選考だった事も疑惑に拍車を掛けています。
上記のような事件を経て、イメージの悪化のため「ポプラ社小説大賞」は一旦は終了。
2011年に改めて「ポプラ社小説新人賞」としてリスタートしました。
尚、本作は第2回の受賞作でありますが、第1回を受賞した『美少女ロボットコンテスト』についてはなぜか出版がされていないようです。
タイトルからも分かるとおり、全般的にラノベっぽい作品が受賞する傾向にあるようですね。
ずっと低調が続いていましたが、2016年の受賞作虻川枕『パドルの子』は電撃小説っぽい装重が奏功してか、なかなかの話題になったと記憶しています。
出版不況が叫ばれる昨今だからこそ、各新人賞及び受賞者の方には頑張っていただきたいところです。