『日乃出が走る』中島久枝
傍から見ると、あんたの背中にはとげが生えているみたいだった。あたしに触るな、関わるな。あたしは怒っているんだ。それじゃあ誰も怖くて近寄れない。あんたが自分でみんなを遠ざけていたんだよ
昨今スイーツをテーマにした小説を目にする機会が増えてきたように感じています。
そんな中でも異彩を放つのが『日乃出が走る』。
明治の菓子屋を舞台とした作品です。
さらにこちら、第3回ポプラ社小説新人賞で特別賞を受賞した作品でもあります。
ここしばらくポプラ社の賞絡みの読書が続いてきましたが、4作目となるこちらでとりあえずの一区切り。
興味のある方は他の3作についてもご覧になって下さい。
ひとり娘日乃出の老舗菓子店再建物語
父親の謎の急死により老舗菓子店橘屋は悪の商人善次郎の手に渡り、店を閉めることになります。
形見にしていた掛け軸だけは取り戻そうと橘屋に忍び込むものの、叔父に見つかり、善次郎の下へ引き出されてしまう。
善次郎は日乃出に一つの提案をします。
それは「菓子を作って百日で百両稼げば掛け軸を返す」というものでした。
手がかりは幻のお菓子「薄紅」
日乃出は浜風屋という菓子屋に奉公しながら善次郎との約束を果たすべく精進します。
しかしこの浜風屋というのも、大した職人もいない上、日々材料費の捻出にも事欠くような有様。
日乃出の苛立ちは周囲にも伝わり、かえって協力も得られません。
日々の仕事の通してようやく自分が周囲の協力の下で成り立っていると気づき、みんなの協力を得ながら、様々な試行錯誤を繰り返し、失敗と成功を重ねて行きます。
しかしあっという間に日々は過ぎ、約束の百日に迫ろうとします。
やはり鍵を握るのは「薄紅」。
あのお菓子を再現できれば……。
もちろん、最後の最後に薄紅の正体は明かされます。
多分皆さんもご存知の“アレ”です。
なるほどなー、と思う反面、“アレ”ってそんなに美味しかったかな? なんて首を捻ったりはしてしまいましたが。
ポプラ社小説大賞はやはり小粒!?
正直なところ、あまり文章が進みません。
著者の中島久枝さんはプロのフードライターでもあり、登場するお菓子の描写や歴史は流石のものです。
反面、ストーリーの粗さや軽さは否めないかな……。
上の方にポプラ社新人賞絡みの作品のリンクを載せましたが、それぞれ悪くはないんですけれど、どこか完成度に欠けるというか、また読みたいと思わせるような要素に欠けているんですよね。
本作はその後三巻目まで刊行されているシリーズ作品となっていますので、機会があれば読み進めてみたいところですが。