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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『九月が永遠に続けば』沼田まほかる

 

18歳の息子は突然、消えた

ある日ゴミを捨てに行っただけのはずの息子が、失踪してしまう。
全ての時間がそこから始まります。
本作『九月が永遠に続けば』は第5回ホラーサスペンス大賞を受賞した作品。
沼田まほかるさんが本作でデビューをしたのは56歳の時だそうで、なんとも遅咲きの作家さんです。

ユリゴコロ大藪春彦賞を受賞し、本屋大賞にもノミネートされた事から最近では安定した人気を見せていますが、当初はなかなかヒットに繋がらなかったのだそうとか。

なにせ沼田まほかる湊かなえとともにイヤミスの一人に挙げられています。

イヤミス」といえば読んだ後にイヤな後味が残るミステリー。

本書もまた、そういった趣向の作品です。


入り乱れる人間関係

主人公である佐知子は41歳。8年前に精神科医の夫雄一郎と離婚。
失踪した息子文彦と二人で暮らしていましたが、九月の最終日に通っていた自動車教習所の15歳年下の教官犀田と肉体関係を結びます。
6週間後、文彦が失踪。
さらに翌日の朝刊で、犀田が駅のホームから転落し、電車に轢かれて死んだと知ります。
自ら飛び降りたのか、それとも誰かに突き落とされたのか。
もしかしたら文彦はそのために姿を消したのか。

調べを進める内に、文彦には誰か好きな人がいたことを知る。
「殺してやる」「絶対好きになっちゃだめだ」
それはもしかしたら、雄一郎の再婚相手の連れ子であり、犀田が恋をしていたという冬子ではないか。
雄一郎と会い、相手が冬子である事に確信を抱く佐知子。
しかしその冬子も大量の薬を飲んで自殺。

その他にも雄一郎の現在の嫁である阿沙美、その兄弓男、犀田の同僚である音山、文彦のガールフレンドナズナ、文彦に想いを寄せる同級生のカンザキミチコ、等々沢山の人物が繋がり、混沌と入り乱れる人間関係の中で、絡まりあった糸を解くように事件の全容を解明していきます。

まぁとにかく登場人物が多い上、ごちゃごちゃと結びついている。

これはやはりメモでもとりながら整理に努めないと、物語に振り落とされてしまいます。


卓越した文章力、ただし無理やり感も

沼田まほかるさん、年齢のおかげもあるかもしれないですがとにかく文章力すごいです。
文章だけでもグイグイ読ませる力があります。
一方で、ストーリーはちょっと今ひとつだったのかな、と。
何せ男女の結びつきが恋愛、特に一目ぼれっぽい唐突さで恋愛感情を持つシーンが散見されるんですよね。
上記のように人間関係が本書のキモだったりするために、その関係のベースがちょっと弱いかなぁ、と。
もちろん血の呪縛のように濃い関係性もあるんですけどね。


イヤミス

当然のごとく、後味は悪いです。
後味というか、読み始めてからずっと悪いです。
ドロドロしたへどろの中を一歩ずつ進むような、暗くねっとりとした物語です。
なにせ登場人物ほぼ全員に救いがありません。
基本的に悪い奴と不幸な奴しか出てこないんじゃないかという気にすらなります。
そういえばイヤミスってそういう風潮ありますよね。
登場人物全員嫌な奴か悪い奴。
良い人間はそいつらに嵌められるか、陥れられるか。
もしくは良いと思わせていた奴が実は一番悪い奴でした、みたいな。
正直あんまり好きではありません。
一つの手法としてアリだとは思いますけど、この作者は「イヤミス」みたいな作風にまでなってしまうと、手に取るまでが重くなってしまいます。
一方で有川浩さんみたいに「ベタ甘」「ハッピーエンド」の作者もいらっしゃるので、光と影みたいなものだとも言えますが。
やはりせっかく感情移入して登場人物たちを見守る以上、救いが欲しいと思ってしまいます。