「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
僕の知ってるライトノベルって、『ロードス島戦記』とか『スレイヤーズ!』の時代です。
(歳がバレそうですね)
当時はまだ本屋の片隅にひっそり……という程ではありませんが、それでも一般書とは明確に区分けされ、なんとなく近寄りがたいコーナーで勇気を出して欲しい本を探した覚えがあります。
それがいつの間にか、「むしろ今の時代はラノベ。一般書なんて売れない」という時代を迎えていました。
どうやらそのきっかけというか、ラノベ躍進の立役者となったのが『涼宮ハルヒの憂鬱』らしいと知り、手に取ってみた次第です。
これまでにも何度か興味があって読もうか迷ったんですが、その度に
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」。入学早々、ぶっ飛んだ挨拶をかましてくれた涼宮ハルヒ。そんなSF小説じゃあるまいし…と誰でも思うよな。俺も思ったよ。だけどハルヒは心の底から真剣だったんだ。それに気づいたときには俺の日常は、もうすでに超常になっていた―。
というあらすじに「なんのこっちゃ」と首をひねって終わってしまったんですよね。
だってさっぱり意味わからないですもん。
実際読み始めてみるとハルヒという変わった女の子がいて、その子がSOS団というものを立ち上げます。
……いやもう、さっぱり意味がわかりませんw
これほどあらすじが説明しにくい話って未だかつてないんじゃないかと。
ただの一般人であるキョンはハルヒに巻き込まれる形でSOS団立ち上げにつき合わされ、実際に集まった部員三人はそれぞれ本物の宇宙人、未来人、超能力者。
彼らに言わせると、涼宮ハルヒこそこの世界に混乱をもたらす張本人であり、彼らはをれを観察するためにやってきた。
ハルヒに一体どんな能力が――というのがつまり、俗に「セカイ系」というジャンルをもたらした本書の本質に繋がります。
すなわちセカイ系とは……
「自意識過剰な主人公が、世界や社会のイメージをもてないまま思弁的かつ直感的に『世界の果て』とつながってしまうような想像力」
つまり、ハルヒの精神状態が世界に混乱を生み出したり、逆に平和をもたらしてしまうという事。
そしてハルヒ自身は、自分がそんな能力を持っているとは気づいていない。
ハルヒの気分一つで、世界に――過去や未来や宇宙は時空まで――影響を受けてしまう。
最終的に命と世界の危機にハルヒとたった二人で立ち向かうことになったキョンは、ハルヒの心を強制的に落ち着かせる事で危機を脱します。
一大ムーブメントをもたらした『新世紀エヴァンゲリオン』もまた、セカイ系の代名詞として知られています。主人公・碇シンジのとる行動や内面性がそのまま「世界の危機」にシンクロしていたというのは、有名な話ですね。
さて、本作が発表されたのは2003年。
それから15年の間に、「セカイ系」と呼ばれる作品はすっかり廃れてしまいました。
しかしながら、『エヴァ』や『ハルヒ』の影響はまだまだ随所に見られるところです。
そのぐらいこの二つの作品は後のラノベ・アニメに大きな影響を与えたようです。
ラノベらしい荒唐無稽なストーリーとはいえ、『涼宮ハルヒの憂鬱』文章や構成もなかなかしっかりしたものです。昨今は次から次へと新たなライトノベルが刊行されてますが、一度ライトノベルの古典とも言うべき本書もご一読下さい。