「弥生はなにも悪いことなんかしてないんだろ、だから泣くのはやめなよ」
『GOTH』以来の乙一です。
厳密には別名義である中田永一の『百瀬、こっちを向いて。』は読んでいましたが。
なんとなく、避けてたんですよね。
正直『GOTH』の印象があんまり良くなかったんです。
狙いすぎっていうか、やりすぎっていうか。
俗に言う“アンフェア”な感じがして素直に驚く事ができなかった。
ところがそうとは知らず『百瀬、こっちを向いて。』を読んで完全に虜になってしまい、よくよく調べてみたら乙一の別名義だったという逆パターンです。
完全に乙一してやられた感です。
そんなわけで、僕の中の乙一の評価は完全に混乱してしまいました。
そんな中で手に取った『夏と花火と私の死体』は言わずと知れた著者のデビュー作。
第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞の受賞作だったんですね。
巻末の小野不由美による解説に詳しいですが、発表した当時十七歳、書いたのは十六歳という若さでした。
学生デビュー作家としては綿矢りさや浅井リョウも知られていますが、負けず劣らずのセンセーショナルさです。
主人公である“私”は物語が始まって序盤であっけなく死んでしまう。
以降は“死体”である“私”の一人称で物語が進むという異様な物語。
もちろん死体を隠しては見つかりそうになり、また別な場所に死体を隠し……という手に汗握る展開はスティーブン・キングも顔負けです。
ラストのオチはある程度予想もつくところで賛否分かれそうなところですが、個人的には悪くないと思います。
また、同時収録された『優子』もなかなかのもの。
綾辻行人の『人形館の殺人』を彷彿とさせる異様さや混迷具合が素晴らしいです。
文章力に難がありちょっと読みづらい点はありますが、当時の年齢を考えれば仕方の無いと思います。
そして個人的にツボだったのは
安孫子武丸「女の子やったら分かる。けど、男の十六なんてまだガキやで。自分が十六の時にあれが書けたかと考えると、絶対に無理やと思う」
法月綸太郎「そうやろ」
二人「とにかく巧い、特に描写が巧いんだ」
小野不由美によって明かされる新本格推理作家の二人のはしゃぎぶりw
面白すぎるwww
よっぽど興奮していたんでしょうね。
もしかしたら綾辻行人を推薦した当時の島田荘司も同じような気持ちだったのかもしれません。