失くしたものを追い求めるより、今、手のひらに残っているものを大事にすればいいんだって
2017年本屋大賞ノミネート作品『ツバキ文具店』を読みました。
先日発表された2018年本屋大賞では錚々たる顔ぶれの中、辻村深月『かがみの孤城』が見事大賞を受賞しましたが、今を遡ること一年前、2017年の本屋大賞も森絵都・小川糸・村山早紀・原田マハ・西加奈子・森見登美彦・村田沙耶香と圧巻の顔ぶれでした。
最終的には恩田陸『蜜蜂と遠雷』が受賞を勝ち取りましたが、本作『ツバキ文具店』も四位に入っています。
2018年は本作の続編となる『キラキラ共和国』が同賞の10位に収まりましたから、小川糸さんが本屋大賞に輝く日も近いのかもしれません。
『かがみの孤城』『蜜蜂と遠雷』については以前にブログに記していますので、そちらもご覧ください。
尚、本屋大賞について詳しくは下記のホームページをご覧になってみてくださいね。
代筆屋、というお仕事
主人公は鎌倉の町で商うツバキ文具店の女性主人です。タイトルから文房具店のお話かな、と思い読み始めましたが、半分は当たりで半分外れ。
主人公は文房具店でありながら、文章や文字の代理を請け負う代筆屋でもあるのです。
そしてそれは主人公を育てた先代(=祖母)から続く生業でもあります。
鎌倉の町ならではというべき風変りの住民たちの中で暮らす主人公の元には、日々代筆の依頼が舞い込みます。
その中には一筋縄ではいかないような、難しい問題も。
それこそが本作『ツバキ文具店』のストーリーなのです。
お洒落な街のお洒落なお話
ここ数年、いつの間にか鎌倉の人気がすごい事になっていませんか?
僕の周りだけかもしれませんが、鎌倉が好きで定期的に旅行に行くという人が増えているように感じています。
また、「鎌倉に行ってきたけど良かったよ」という感想もよく聞く気がします。
今年の年末年始には『DESTINY 鎌倉ものがたり』も公開されましたしね。
実際に劇場にも足を運びましたが、鎌倉の伝統と怪しさが存分に発揮されていてとても面白い映画でした。
堺雅人の味のある演技はもちろん、高畑充希の演技力も素晴らしかったですよ。
そんなわけで、昨今では間違いなく観光客や実際に移住して住み着いてしまう人々も多いと感じている鎌倉という町……流行りのお店にも似た口コミの良さを感じさせます。
本作もまた、そんな鎌倉の町を舞台にした物語。
伝統と洗練を感じされる様々な店が作中に登場します。
読めば一度は鎌倉に行ってみたいと思わずにはいられません。
勿論文房具だって……
しっかりと登場します。
代筆屋たるもの、筆記具にもこだわるのです。
主人公は依頼に合わせて、紙や筆記用具、封筒や切手に至るまでどんなものが依頼主や手紙の内容にふさわしいか細部まで想いを馳せ、選び抜きます。
登場するのもパーカーの万年筆や羊皮紙、ガラスペンにシーリングワックスとなかなか普段ではお目にしないようなものも。
文具店のタイトルにふさわしい文房具のお話だってしっかりと楽しめます。
ただし、やっぱり好みとしては男性的というよりは女性的かな。
小川糸という作者を知っていれば、男性的であろうはずはないとわかるとは思いますが。
一応、違和感をひとつ
蛇足になるかもしれませんが、作中の違和感を一つだけ。
代筆をお願いする依頼者の中の一人に、過去に好きだった女性に手紙を送りたいという男性が現れます。
男性はすでに結婚していて、奥さんも子供もいて幸せな家庭を築いている。
自分でもそれをよく理解しているものの、その上で昔愛した人に「今の自分は幸せである」、そして「相手にも幸せであって欲しい」という手紙を送りたいというのです。
しかも文字は女性文字で。
理由は相手も結婚しているから、男性から届いたラブレターのような手紙を万が一にも夫に見られたら気まずい思いをするのではないか、と配慮するのです。
元々男性とも女性ともとれる名前だから、知らない人が見たら同姓からの手紙だと思われるように。
だけど、中身を読めば相手はきっと自分だと気づいてくれるはずだ、と……。
気持ちはわかるんですよねー。
そうしたくなる気持ちはわからないでもないです。
でも、それを実行してしまう気持ちはわかりません。
しかも女文字でって……つまり誰かに書かせていると相手にも丸わかりなわけですし。
しかも代筆しているのはどこの誰ともわからない女なわけですし。
過去にどんな関係があったにせよ、受け取った相手の女性は喜んでくれるんですかね?
鳥肌が立つぐらい薄気味悪くしか感じられないじゃないでしょうか?
どうにもその点については違和感しかないです。
これは僕が男だから???
女性の目線ではまた受け取り方が違うのでしょうか???
一日で一気読みするぐらい面白い作品だったのですが、この点だけは唯一気になって仕方がなかったので、一応記しておこうと思います。
とにかく、鎌倉に行きたくなる本です。
ご注意を。