きょうとへむかって、いちごうせんを……にきろ、ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら
最近では『騙し絵の牙』で俳優の大泉洋さんを「あてがき」し、実際に本人をキャストに迎えての映画化が話題の塩野武士さん。
ある意味では本書『罪の声』が出世作と言えるのではないでしょうか?
第7回山田風太郎賞を受賞し、週刊文春ミステリーベスト10でも第1位を獲得。さらにこのミステリーがすごい!で第7位、第38回吉川英治文学新人賞候補と、数々の賞に食い込んだうえで、本屋大賞2017の第3位にも入賞しています。
ちなみにその年の本屋大賞第1位は未だヒットが続く恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』です。
ちょっと割を食った感は否めませんが、それでも尚、注目を集めていたと言えます。
昭和最大の未解決事件、グリコ森永事件の真相を描き切った会心作
あまりにも有名で改めて説明する必要もないかもしれませんが、本書はグリコ・森永事件を題材としています。
1984年と1985年に西日本を舞台として食品会社を狙った脅迫事件で、当時の江崎グリコ社長を誘拐して身代金を要求したのを皮切りに、脅迫を繰り返し、実際に江崎グリコ社屋に放火したり、製品に薬物を混入させたりしたうえ、マスコミ宛に「グリコの製品にせいさんソーダいれた」といった挑戦状を「怪人二十面相」の名で送ったりと、企業ばかりではなくマスコミや消費者を巻き込んだ一大事件へと発展しました。
「キツネ目の男」と呼ばれる犯人の似顔絵は誰もが一度は見覚えのあるイラストに違いありません。
現実の事件については丸大食品・森永製菓・ハウス食品・不二家・駿河屋と次々とターゲットを変えて繰り返され、最終的には犯人側からの終息宣言を最後に犯人の動きは途絶え、そのまま時効を迎えてしまったのでした。
まぁ、改めて僕がかいつまんで説明するよりはwikipediaに詳しく書かれていますので興味がある方は下記のリンクをご確認下さい。
事件を追う二人の主人公。鍵は子供の声
本書には二人の主人公が登場します。
一人は新聞記者である阿久津。
阿久津は元々文化部の記者でしたが、年末企画として同事件(本書の中ではギン萬事件)を追う事になります。
もう一人は京都でテーラーを営む二代目店主曽根敏也。
敏也はある日、自宅から一冊のノートとカセットテープを発見します。
カセットテープに収められていたのは冒頭の引用と同じ子供の声……それはギン萬事件で犯人側が使用したメッセージと同じものでした。
さらに敏也は、重大な事実に気づきます。
誘拐事件に使われた子供の声は、紛れもなく自分の幼少時代のものだったのです。
亡き父なのか、それとも……自分が事件に関係していたのかもしれないという恐怖に突然襲われる敏也。
敏也もまた、ノートとカセットテープを手掛かりに事件を追い始めます。
坦々と進む捜査
急にざっくり切り捨ててしまいますが、以降はただ坦々と二人が事件を解き明かしていく様子を交互に描いていくのみです。
あまり物語に起伏もなく、手掛かりを追うと新たな手掛かりにたどり着き、さらにそこから次の手掛かりに……と一種の謎解きゲームのような具合です。
特に驚くような事実が現れてびっくり仰天……なんて展開もありませんし、正直言うと捜査の流れはご都合主義的なものです。
30年以上未解決に終わってしまった事件が、そんなにサクサク順調につながってしまうもんなの? と。
確かに真相は納得のいく内容ではありますが、物語としてどうかというと、うーんと首をひねらざるを得ません。
リアリティを追求し過ぎてなんの面白みもないというかなんというか。
事件に巻き込まれた子供がその後どんな人生を送ったのか、事件に子供を巻き込むという事がどういう事なのかという点を主軸として描いた点については文学的と評価できるかもしれません。
なんだかいまいちな感想だな、とお思いかもしれませんが、実際そんな読後感でした。
とにかく物語に起伏もスピード感もないのでただただ記録を読まされている感じで良く言えば読み応えがあるものの、悪く言えばさっぱり読書も進まず……元新聞記者さんの書く作品とは相性が良かったはずなのですが、本書については残念ながら合いませんでした。
評価も高いはずの話題作なだけに、残念なばかり。
本書の後で話題の『騙し絵の牙』や『盤上のアルファ』を読もうと思っていたのですが、ちょっと躊躇してしまいました。
どちらかというと僕たちの世代よりは実際に『グリコ森永事件』に接した世代の方が読む方が思い入れが強いのかもしれませんね。