ただ、恋が死んだ。ライフワーク化していた永遠に続きそうな片思いに賞味期限がきた。
2001年に『インストール』で第38回文藝賞を受賞した綿矢りささん。
当時17歳という最年少タイ記録での受賞は話題になりました。
それよりも何よりも耳目を集めたのは彼女の見た目の麗しさではなかったでしょうか。
続く2004年に『蹴りたい背中』で芥川賞を獲った時には「文壇のアイドル」と持て囃され、ストーカー被害に遭うという悲劇まで招きました。
その後、メディアへの露出が減るのと比例して作家としてはすっかり低空飛行に入ってしまい、佳作作家として細々と作品を書き続けているという印象でしたが、最近Instagramなどで目にする機会が増えたのが本作『勝手にふるえてろ』。
2017年に映画化されたのがきっかけで、発表後7年近く経って突如爆発しているようですね。
二股女性の失恋
物語は一人の女性の恋が終わるところから始まります。
彼女は相手となる男性たちをそれぞれ“イチ”“ニ”という記号のように呼ぶ一方で、失恋のショックから会社のトイレの個室に閉じこもります。
ここまでの冒頭の流れから恋愛上手なOLさんの物語かと思いきや、続いて始まる回想で事実は全く正反対である事に気づかされます。
彼女は26歳だというのに恋愛経験がないのです。
中学校時代に出会った“イチ”に想いを寄せ続ける彼女の前に現れるのが、同僚の“ニ”。
“ニ”は彼女の理想とは程遠い能天気で自己顕示欲の強い今時男子。
初めて自分を思ってくれる相手に出会い、彼女は抵抗を感じながらも“ニ”とデートを重ね、告白への回答を焦らしながらもずるずると関係を続けます。
一方で“イチ”に対する思いを忘れられず、海外留学した友人の名前を語ってSNSで当時の同級生たちと連絡を取り、ちゃっかり同窓会を企画したりします。
念願かなって“イチ”と再会する主人公。
“イチ”も同じく東京に住んでいるとわかり、上京したメンバーだけで東京で集まろうとチャンスを繋げます。
十年以上思い焦がれた“イチ”の為に、狂気じみた大胆な行動に出るのです。
現実の彼と理想の彼、そのはざまで揺れ動く主人公ヨシカの 恋の行方は……。
独特の観察眼
これまでにも何度も書いてきていますが、僕は著者独特の比喩表現が好きです。
そういう意味では朝井リョウさんは鉄板ですし、『鋼と羊の森』で初めて触れた宮下奈都さんも一気にファンになりました。
綿矢りささんも、僕の中では朝井リョウさんに負けず劣らずの感性豊かな比喩表現と独特の観察眼に溢れています。
自分で自慢をふったくせに謙遜されると、頼んでもいないのにあざやかな手つきで手品を披露された気分になる。で、隠された私のコインはどこへいったの?
イチがなにも言わずに右手を顔の横ぐらいまで上げて、こちらにむかって首をかしげる。クラスで一番可愛い女子みたいな仕草だ。毛穴という毛穴がひらき震えがつま先から登ってきて脳天までのぼりつめてから抜けた。
これは作者である綿矢さん本人そのものから生まれたものなのか、今回の主人公の根暗で独りよがりなキャラクターに合わせて導き出されたものなのかが気になります。
どちらにしても、読んでいてなんだか楽しく感じてしまう文章なのは間違いありません。
ぜひ文章も楽しんでいただきたいと思います。
劇場版主演は松岡茉優
先に述べた通り、2017年には映画化されました。
主演は今や大人気女優の松岡茉優さん。
GMTのネギガールとして出演していた頃、すっかりファンになってしまいました。
『あまちゃん』はほかにも能年玲奈や橋本愛、有村架純等の今を時めく大女優さんが多数出演していましたから、全員のファンでしたけれど。
正直映画化して、スクリーン映えする作品なのかどうかは微妙な気がしますが……主演が自分の好きな俳優さんだとやっぱり気にもなりますよね。
レンタルも開始されているようなので、近々見てみたいと思います。