おすすめ読書・書評・感想・ブックレビューブログ

年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『わたし、型屋の社長になります』上野歩

「世界の三〇パーセントの金型は日本企業でつくられているんだからね」

以前読んだ『削り屋』に続いて二作目の上野歩作品になります。
『削り屋』は元々歯科医師になるために大学に通っていた主人公が友人を助ける為に大学を中退し、歯ではなく金属を削る工場に勤めるというもの。
初っ端から河川敷で大人数対主人公一人の大立ち回りという昭和漫画そのもののシーンから始まる『削り屋』は、現在僕の2018年ワースト本にダントツ首位でノミネートされています。

linus.hatenablog.jp

一方、同時に購入したこちらは同じ金属を扱う工場でも金型を作る会社になります。
五軸のマシニング等、使う機械は似たようなものなんですけどね。
こちらではプラスチックや金属の材料を流し込んで固める為の型を作っているのです。

「ええっと、鯛の形をした型に、溶いた小麦粉を流して、餡子を入れて焼いてますよね」
「あの鯛の形の型――あれが金型ね」

とまぁ、本書の表現を借りれば上記の通りとなります。

ひょんなことから実家の金型屋を継ぐことになった広告代理店勤務の女性……彼女が繰り広げる会社再建の物語こそが本書『わたし、型屋の社長になります』のお話になります。


簡単にあらすじ

主人公の花丘明希子はダイ通という広告代理店に勤務しています。
言うまでもなく、モデルは電通でしょうね。
二十九歳にして第三営業部副部長という素晴らしい肩書。
とある洋酒メーカーから全国の得意先五千軒の飲食店を紹介するガイドブックの制作を受けたと意気込んでいます。
そんな矢先、父が脳出血で倒れたという一報が。
慌てて駆け付けた明希子でしたが、父は一命をとりとめたものの後遺症が残り、企業経営を続けられる状態ではありません。
ふと寄ってみた実家の会社は暇で暇で仕方がない様子であり、不審な様子を感じ取った明希子は幼い頃から懇意にしていた新潟の同じ金型会社の社長を訪ねます。
そこで、実家の経営状態がかなり悪いという噂を耳にします。
改めて乗り込んだ実家では、やはり傾きかけた会社の実情が明らかに。
新潟の社長の後押しもあり、ついに明希子は、自分が父の代わりに社長の座につく事を決意します。

明希子の取り組み

ここからが結構ヤバめ。
明希子が最初にやるのは会社と従業員の実情を知る事。
ところが、さっそく地元のメインバンクから融資が引き上げられるという困難に遭遇します。
あちこち他の銀行を当たるも、けんもほろろ
メインバンクが引き上げるような状態の会社に、そうやすやすとお金を貸す銀行があるはずがありません。
ところがふとしたきっかけで勧められた信用金庫に当たったところ、最初こそ他行同様にすげなく断られますが、たまたま居合わせた専務理事が明希子の父親と懇意の仲だという理由だけで、突然融資を受けられる事になります。
池井戸潤が読んだらびっくりしてひっくり返りそうなご都合展開です。
そうして五千万の融資を得た明希子ですが、真っ先に行ったのは事務所のリフォーム
事務所や社長室やらを分断していた壁を取り払って、見通しも風通しも良い会社へと改造するのです。
……気持ちはわからなくもありませんが、ついさっきまで倒産しそうだと喘いでいたとはとても思えませんね。
続いては自ら会社を畳んだという元経営者の藤見を会社に連れてきて、生産管理を改革する幹部として採用してしまいます。

仕事の減少と社長の退任という危機に瀕する中で必死についてきた従業員を思えば、もっともっと大きな反発があってもおかしくないと思うのですが、反発はごく僅か。
しかし藤見はさらりと会社に馴染んでしまいます。
やがて以前の一番の取引先である自動車メーカーから仕事の依頼をもちかけられますが、会社を辞めて他の会社に移った元従業員に横取りされそうになってしまいます。
それも相手側の出来が悪くて自滅というタナボタでもう一度チャンスが巡り、しっかりと応える形で花丘製作所はハッピーエンドを迎えます。
明希子が頑張ったから、といった雰囲気ですが、読んでいてしらっとしたものを感じてしまいます。
だって大して何もやってませんからね。
最終的に困難な金型の制作に成功したのも、単に元々いた従業員が優秀だったという点が否めませんし。
なんとなく企業によくある浮き沈みの谷間に、たまたま世代交代があって訳も分からない素人の娘が社長に就いていたという風に感じてしまいます。

小学館の小説はハズレが多い

批判ばかりでなんとも微妙なブログになってしまいましたが、実際読んで面白いものでもなければ他人に勧めたくなるようなものでもないのははっきり書いておきます。
以前小学館の小説を続けて読んでみた機会があったのですが、全体的に小学館から刊行されている小説って小粒な印象です。
勿論、例外はあるのでしょうけど。
文章力にせよ、構成力にせよ、すべての面において他社から刊行される本の平均を下回っていると感じています。
本作も題材は悪くないのだから、ちょっとした違いで池井戸潤のようなエンタメ企業小説になる可能性もあったと思うのですが。
いかんせん、一つ一つのエピソードに説得力がなく、物語をつなぎ合わせる為だけに取ってつけたような章も目立ち、とにかく洗練されていないといった印象。
だったら読むな、と言われそうですが、いい加減小学館の小説はしばらく控えようかな、と思います。
削り屋にせよ型屋にせよ、小説の題材にするのは珍しいので面白い試みではあったんですけどね。
残念ながら、『削り屋』よりマシかな、ぐらいの感想で終わってしまいました。

どうせ紹介するなら面白い本の話を書きたいものです。

https://www.instagram.com/p/Bj7DYQZH8Sx/

#わたし型屋の社長になります #上野歩 読了#削り屋 に続き今度は金型屋さんの社長になる女性の話金属加工にせよ金型にせよ、小説の題材にするのは珍しいですよねただ、残念ながら本作も削り屋同様、あまりオススメできる出来ではありませんでした。全体的に #小学館 が発行する小説はいまいちが多い印象今後は出来るだけ避けたいと思います。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ.. ※今回もブログ更新しています。気になる方はプロフィールのリンクよりどうぞ。