『成功のコンセプト』三木谷浩史
僕はこの年、1997年に、楽天市場を開設した。
本書『成功のコンセプト』は今や東証一部上場企業となった巨大IT企業の創業者であり現役社長、三木谷浩史の作品。
書かれたのは2007年。
楽天市場を開設してちょうど十年後。
今から遡る事十年以上前の作品です。
5つのコンセプト
本書には三木谷浩史が「ビジネスにおいてもっとも重要だと思う5つの項目」がまとめられています。
- 常に改善、常に前進
- Professionalismの徹底
- 仮説→実行→検証→仕組化
- 顧客満足の最大化
- スピード‼スピード‼スピード‼
それでは、個人的に気になったところをかいつまんでまとめていきます。
常に改善、常に前進
第一のコンセプトは『常に改善、常に前進』。
過去十年間のインターネット環境の激変を鑑みて、三木谷浩史は
未来へのビジョンを立てるのが難しいのは、未来が不確定だからだ。未来を予測することができても、未来を見ることはできないのだ。
と言います。
その上で、不確定な未来に対する戦略は大きな2つのタイプに分けられるとする。
とにかく種をばらまいて、目を出したものだけ育てる
(=ダーヴィニアン・アプローチ)
バージョンアップと細かく重ねながら、少しでも先行者に追いつき、
最終的には大きな成功を手に入れる。
Window OSのように、まずはリリースした上で細かく改善を重ねながら、少しでも先行者に追いつき、最終的に大きな成功を手に入れる。
たとえ毎日1%の改善でも、1年続ければ37倍になる。
1.01の365乗は37.78.
毎日1パーセントの積み重ねが、一年で大きな飛躍につながるのです。
Professionalismの徹底
ビジネスで成功するかどうかの鍵は、結局のところ、仕事を人生最大の遊びにできるかどうかだ。
本章に関しては上の一文に尽きます。
一般的に「素人のかなわない特殊な技術を持つ人」という意味を指すプロフェッショナルという言葉に、三木谷浩史は別の定義を与えます。
そして楽天という会社は、そんなプロフェッショナルの集団を目指すと言う。
面白い仕事があるわけではない。
仕事を面白くする人間がいるだけなのだ。
仮説→実行→検証→仕組化
問題解決には以下の2つの方法がある。
- 仮説・実行・検証
未知の問題に直面した時の人間の基本的な行動パターン
- 模倣・学修
他の誰かが見出した解決法を模倣する
ビジネスの現場において、特に新入社員時代には後者に偏りがちである。ところが、
一所懸命に仕事の勉強をしているうちに、自分の頭で考えて問題を解決するという方法があることを忘れてしまう。
……思わずハッとしてしまいますね。
現代においては「勉強」=「試験で良い点数を採る事」という教育が長い間続いていたために、余計にそんな側面が強いのではないでしょうか。
もっとも最近では、答えを学ぶ勉強から考える力をつける勉強へと、教育の現場も変わりつつあるようですが。
確かに今から10年前とはいえ、その頃には既に「指示待ち人間」という言葉が生まれていたようにも思えます。
ではどうすれば良いかというと……
どんな仕事の時でも、“そもそもこの仕事は何のためにするのか”を考える。
最近よく聞かれる「物事の本質を捉える」という言葉と一緒ですね。
本質がわかれば、改善の仮説も自然に湧いてくるのです。
では、楽天はというと、一例として楽天市場オープン時の仮説が挙げられています。
当時先行していたECサイトはモール側に主導権があり、ユーザーとコミュニケーションをとるのはモール側だった。
しかしそこに、三木谷浩史は疑問を感じます。
本当に売りたい商品を消費者にPRするのは出店者自身の方が説得力があるはず。また、消費者の生の声も出店者自身に届けたい。
楽天市場はそうして、出店者自身にユーザーとコミュニケーションをとってもらうことになります。
これこそが楽天市場の大きな差別化ポイントになり、オープン初月には18万円しかなかった楽天市場が毎月400億円を超える急激な成長を遂げました。
これが楽天市場のいちばん革新的なポイントであり、今も尚Amazon等の他のECサイトとの差別化にもつながっているのです。
さて、一つだけ抜けているのが「仕組化」という言葉ですが、これについては簡単に書きに記します。
- 改善を続けられる仕組み
- 仮説・実行・検証によって到達した効率的な仕事のやり方や、新しいビジネスモデルを、組織全体で共有するための仕組化。
仮説・実行・検証したものを仕組化してはじめて意味がある、という考え方です。
顧客満足の最大化
個人をエンパワーメントすることが、僕の仕事のモチベーションだ。
ついに飛び出しました。エンパワーメント。
聞きなれない言葉ですが、実は現在も楽天という会社のあちらこちらでよく見られる言葉です。
僕がショッピングモールというビジネスでいちばんやりたいのは、インターネットを通じたエンパワーメントだ。格好良く言えば、インターネットが潜在的に持っている革命的な力を、個人商店や中小の企業に開放し、個人商店や中小の企業を元気づけることが僕たちの使命だと思っている。
それまでは良い商品・技術を持ちながらも地方の片隅で人口減少とともに疲弊していた小さな企業が、インターネットを通して世界中の人々とつながる事で、元気を取り戻すというのです。
この言葉通り、創業当時の楽天市場とともに飛躍的な発展を遂げた企業もたくさんあるのでしょう。
現在ではメルカリが、それまでは消費者でしかなかった市民一人ひとりが販売側に立てるという新たなビジネスモデルを確立しました。
民泊やカーシェアリングといった俗にいうシェアリング・エコノミーもそうかもしれません。
インターネットのなかった時代に、インターネットとともにやってきた楽天市場というサービスは、それらと同じような、もしかしたらもっともっと大きな変革を世の中にもたらしたのかもしれません。
スピード‼スピード‼スピード‼
当事者意識を持って仕事をすればスピードは自然に上がる。
5つ目のコンセプトは、ある意味ではわざわざ取り上げるほどのものでもないのかもしれませんね。
スピードは今活気のある企業には必須の能力と言えるかもしれません。
三木谷浩史はさらに、スピードを上げる方法としてこう言います。
まず最初に行うことは、目標を設定することだ。
目標を決めると、そこに至るまでの道のりが見えてくる。俯瞰して大雑把に全体を見渡したら、全体の行程をいくつかの小さな目標に因数分解する。
それらの小さな目標を一つ一つ常識的な速度で達成するのではなく、最終目標をいつまでに達成するかを決めてから逆算し、個々の小さな目標をクリアするのにかける時間を割り出す。
当然のことながら、割った時間は常識で考えればあまりに短いはずだ。
けどそれが、自分の登るべき断崖なのだ。
うひゃーという感じです。
これぞ楽天、ですね。
三木谷浩史は2000年の春ごろに、流通総額1兆円という目標を立てます。
流通総額1兆円を達成したら、イッチョウ上がりで俺はリタイアする
その目標は2006年に早々と達成してしまったものの、1兆円を目指す途中でもっと高い山の頂が見えてしまったので、引退は撤回したのだそうな。
朝令暮改も、有名な経営者にはよく見られる傾向かもしれませんね。
特筆すべきは三木谷浩史のブレなさ!
先に書いた通り、本書は2007年に書かれた本です。
それから10年以上経っているというのに、驚くのは今も昔も三木谷浩史の理念は変わっていないというところ。
今もずっと、同じ考えを貫き続けているのです。
「ワンマン」「ブレまくり」と揶揄されることも多い楽天ですが、これを読めばしっかりと芯が通っていることもわかります。
Amazonに比べて見にくい、UIが悪いと言われがちの楽天市場も、「個々の商品を売るAmazon」と「店を構えて商品を売る楽天市場」で違うのは当たり前なのです。
Amazonは見やすく、シンプルなUIである一方、出店者にとっては差別化が図りがたく、結果として値引き競争に陥りがちと言えます。同じ商品であれば、安い方を選びますよね?
ところが楽天はあのごちゃごちゃしたサイトであるからこそ、個々の店舗の個性を打ち出し、他店との差別化を図る事が可能なのです。
ある意味では「ユーザーに寄り添うAmazon」と「出店者に寄り添う楽天市場」と言えるかもしれません。
まぁ、時と場合によって使い分けるだけですが。
日本を代表するIT企業だけあってかなり極端なところも多いですが、読んでみた感想として他の有名企業とそう大きくは違わないかなぁ、という印象です。
改善もスピードも仕組化も、いろんな経営者さんやビジネスマンが唱えていますもんね。
現職ですっかり疲弊してしまい、胃が痛い毎日を過ごす中で、良い気分転換になりました。それとともに、やっぱり自分のいるべき環境について考えなおしてしまいましたね。
やっぱり僕にとっては、楽天のような今風の会社の方が性に合っているようです。
全部が全部礼賛できるわけではありませんが、こういった今時の勢いのある企業の取り組みや考え方を、地方の中小企業の経営者さん達も真似して欲しいものです。
あ、楽天の本、まだしばらく続きます。
小説に比べてまとめるのに時間がかかる分、アウトプットが遅れていてすみません。
頑張って更新したいと思います。