『密室殺人ゲーム・マニアックス』歌野晶午
「ただし、ここにいる四人は真相解明を放棄したわけだけど、そっちいるおたくたちは意思表示をしていませんよね。ワタクシのアリバイ崩しに興味がありますか? 傍観するだけでは物足りませんか? それではどうぞ、かかってらっしゃい。」
第10回本格ミステリ大賞を受賞した歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』のシリーズ三作目、『密室殺人ゲーム・マニアックス』です。
一般的に一作目に比べると二作目である『密室殺人ゲーム2.0』は評価が低く、三作目となる本書はさらに落ちるとされています。
まぁ「実際に犯した殺人を題材に謎解きを行う」という『密室殺人ゲーム王手飛車取り』から始まったストーリーはあまりにもセンセーショナルであった反面、回を重ねるごとに新鮮味が薄れてしまうのは仕方のない事なのかもしれませんね。
ましては『密室殺人ゲーム2.0』の文庫版あとがきには「『密室殺人ゲーム・マニアックス』については当初の想定外の作品であり、「2.5」とでも呼ぶべき位置づけ」というような事が書かれており、正直読む側としては
それを言っちゃあおしめえよ!
と言いたくなってしまいます。
つまり番外編・外伝的位置づけ……と書かれてしまうと、「じゃあ本シリーズよりは落ちるって事だよね?」と勘繰らずにはいられませんよね。
かもしれませんが……一ファンとしてはシリーズが無事終結するまで見届けないわけにはいかないでしょう。
“どんなところが番外編なのか”という点こそがむしろ本作の見どころ・読みどころなのかもしれません。
尚、第一作・第二作のブログは下記の通りです。
極力ネタバレしないように書いているつもりですが、意図せず漏らしてしまっているケースもあるかもしれませんので、未読の方にはあまりおすすめしません。
これまで通り始まるいつもの5人組
三作目となる『密室殺人ゲーム・マニアックス』も、基本的な構造はこれまでと同様です。
ダースベイダーやジェイソン等、様々な姿に扮装した“頭狂人”、“044APD”、“aXe(アクス)”、“ザンギャ君”、“伴道全教授”という5人が、インターネット上のチャットを通して殺人事件の推理ゲームを行う展開です。
こうして5人揃って始まってしまう時点で、第一作目『密室殺人ゲーム王手飛車取り』を読んだ人間からすると謎かけが始まってしまっていたりするんですけどね。
今回もまた、「六人目の探偵士」「本当に見えない男」「そして誰もいなかった」という3つの章、3つの謎かけが用意されています。
一つ一つの謎の内容・解答については、ある意味では本書の“おまけ”みたいなものですので詳しくは触れませんが、第一章の冒頭、出題者である“aXe(アクス)”が当ブログの最上部で引用したような言葉を発したところから、第三作目としての新たな展開が始まります。
それではもう一度
「ただし、ここにいる四人は真相解明を放棄したわけだけど、そっちいるおたくたちは意思表示をしていませんよね。ワタクシのアリバイ崩しに興味がありますか? 傍観するだけでは物足りませんか? それではどうぞ、かかってらっしゃい。」
……もうおわかりですね?
“aXe(アクス)”は明らかに、5人とは「別のだれか」に向けて語りかけています。
つまり……
これまでは「選ばれた5人のお遊び」だった密室殺人ゲームが、インターネットを通じてその他不特定多数の人間に向けて発信されてしまうのです。
彼らの動画はネット上に公開され、実際にそれを見た嵯峨島・三坂という二人の男が、彼らの残した謎を解こうとする様子が合間合間に挿入されていきます。
ええと……
先に「前二作に比べると劣る」と書いてしまいましたが、これって
めっちゃ面白くないですか?
第一作目である『密室殺人ゲーム王手飛車取り』はあくまで5人の間だけの秘められたゲームでした。
第二作目である『密室殺人ゲーム2.0』では、第一作目の5人の映像が流出してしまい、世間に広まってしまう事で新たな展開を見せました。
さらに第三作目である本書『密室殺人ゲーム・マニアックス』では、自分たちの犯罪と謎かけを自ら発信してしまっているのです。
絵に描いたような正常進化ですよね。
手がかりだらけの映像を公開した彼らがどうなるか。
彼らの謎を追いかける嵯峨島や三坂たちがたどり着いたのは。
書いてるだけでものすごく面白そうです。
以下、余談
先に書いておきますが、あとは読んでも読まなくても良い内容です。
本書には直接関係のない話ですので。
何せ推理小説って、何を書いてもネタバレになりそうで感想が書きにくい。
正直上に書いたような内容も、知らないで読んだ方が楽しめるはずですし。
そういう意味では推理小説って、面白さを他人に広めるのが難しい題材ですよね。
リアル書店やネット書店でも、時たま「叙述トリック特集」とか「どんでん返しフェア」みたいな特集組んでたりして、うんざりしてしまいます。
そうと知って読む推理小説ほど、つまらないものないんですけど。
「この小説は叙述トリックがすごい作品です」なんて先に知ってしまったら、穴が空くほど文章とにらめっこしてしまいますよね。
この“私”って女っぽく書いてあるけど本当に女?
ちょっと待って。この“彼”ってどっちの“彼”?わざとわかりにくく書いてない?
そんな風に勘繰りながら読む小説ってすごくつまらないし、最終的に読み終わった後も「騙された」と悔しく思うばかりで「びっくりした」「予想外だった」みたいな本来の楽しみは味わえない気がします。
とはいえ、SNSなんかでも普通に「叙述トリック系の面白い本でした」みたいに100%悪意なくネタバレ感想垂れ流しちゃってる人がいたりして、もうそれに関しては交通事故にでも遭ったと思うしかないわけなんですが。
時々改めて、綾辻行人の館シリーズを何の予備知識もなく読めた僕は幸せだな、なんて思ったりします。