オイネプギプト様、是永雄一郎を殺してください。
最近妙に『密室殺人ゲーム』の記事へのアクセスが増えていたりするのですが、何かあったのでしょうか?
特に心当たりはないのですが。
……だからというわけではないのですが、今回は歌野晶午作品の中から『絶望ノート』を選びました。
一番上の『密室殺人ゲーム王手飛車取り』 の記事にも書いた通り、歌野晶午については初期作品しか読んだ事がありません。
そこから『葉桜の季節にきみを想うということ』を読み、『密室殺人ゲームシリーズ』を読み……と話題作は読んできたのですが、次に何を読むべきかがいまいちピンと来ない。
そんな中でネットで検索すると、結構な頻度でこの『絶望ノート』が出てくるんですよね。
まぁ、歌野晶午らしく賛否も両論あるわけなんですが。
願いが叶えられるノート
主人公である太刀川照音は中学三年生。
容姿に劣り、勉強や運動でも劣り、極度のあがり症で家は貧乏という恵まれない星の下に生まれてきたかのような不幸そのものの少年。
父は息子に「ショーン」という名前を付ける極度のジョン・レノンおたくで一切働こうとしない。
母は朝から晩まで働くことで、たった一人の収入で家計をやりくりしています。
特にこの父親というものが曲者。
ジョン・レノンに憧れるだけでなく、その昔は自らもバンドを組み、ジョン・レノンになりきったかのように外見を真似、他人と会う際には家の中でもサングラスを欠かせないという変人ぶり。
彼の存在が一家を貧困に貶め、息子のイジメを助長していると言っても過言ではありません。
何も見えない将来に絶望した彼は、神様どうかぼくにしあわせをくださいと祈った。何度祈ったことだろう。
しかし何も起きなかった。一度として神様は降りてこなかった。
彼はだから、新しい日記帳の表紙に「絶望」と記し、救いを求めて、日々、心の叫びを叩きつけることにした。
そんな生活の中で照音が生み出したのが、『絶望ノート』。
彼の日記にはその名前のせいで子供の頃から「タチション」というあだ名をつけられた事やカツアゲ、万引きの強制や闇サイトへの書き込み等、様々なイジメが描き込まれています。
日記の中で照音はオイネプギプト様という神様を宿した石を得、毎日石に向かって祈るようになります。
自らをいじめるクラスメートを殺してくれ、と願うのです。
そうしたある日、実際にクラスメートの身に不幸が訪れます。
絶望ノートに書かれた願いが、叶い始めるのです。
『デ〇ノート』のパクリ?
……伏せるまでもありませんね。
本作はあの人気漫画である『デスノート』と設定がよく似ています。
ノートに書かれた相手が死ぬ。
似てるというかそのままです。
正直僕も本書に対して抱いていた印象って「パクリらしい」という事だけで、であるならば逆に歌野晶午がその設定を使ってどんな物語を仕上げたかこの目で確認してやろうという、半ば興味本位で手に取ったに等しいんですが。
結果として、読んで良かったと言えます。
だって全くもって別物と言い切る事ができますから。
『絶望ノート』は推理小説である
これは歌野晶午が書いているのだから当然過ぎるのですが。
『絶望ノート』は推理小説です。
ちゃんと現実世界を舞台に書かれた物語です。
しかも推理小説の王道であるフーダニット(誰が)、ハウダニット(どうやって)はもちろん、ホワイダニット(なぜ)の謎も含んでいます。
更にノートに書かれた相手に次々と不幸が襲い掛かっていく状況というのは、杉江松恋が「ミステリの新潮流」と言うホワットダニット(何が起きているのか?)に他なりません。
フーダニット(誰が)、ハウダニット(どうやって)、ホワイダニット(なぜ)、ホワットダニット(何が起きているのか?)という全ての種類の謎を盛り込んだ全部乗せの贅沢な推理小説というのが、『絶望ノート』の正体なのです。
犯人当てという推理小説における“王将の謎”を排する事で稀有な物語が出来上がった『密室殺人ゲーム』シリーズと比べると対照的な作品になると言えるかと思います。
……で、面白いかどうか
推理小説としては前述のように面白いんですけどね。
小説=読み物としてどうなのかというと、これがまた微妙。。。
はっきり言ってしまうと、かなり退屈。
というのも、照音少年の書く日記(絶望ノート)の分量がかなり多い上、中学生が書いているという設定もあってかなりどうでも良い記述が多いのです。
単純に骨子だけを集めたら半分にも満たないんじゃないかというぐらい、読んでも読まなくても差し支えないような文章が多い。それが読んでいてわかるだけに、読み飛ばしてしまいたい気持ちをぐっと堪えながら読んでいくのがなおさら苦痛でした。
それでいて謎解きは終盤で結構呆気なく、しかも名探偵が一から十まで細かく説明するかのごとく一気にまとめて解放される為、ちょっと味気ない感じもしたり……。
やっぱり人気になる作品と比べると、落ちてしまう印象が残るのは致し方ないですね。
でも謎それぞれはなかなか魅力的だし、解答も歌野晶午らしい複雑さなので推理小説好きなら一読して損はないと思います。
あんまり書くとネタバレになっちゃうから、これ以上は書きませんけどね。