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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『天地人』火坂雅志

「あまり、事を急がぬほうがいい。急げば、足元をすくわれることもある。天の時、地の利、人の和、この三つが合わさったとき、はじめて物事は動くものだ」

2009年大河ドラマ天地人』の原作小説を読みました。

妻夫木聡主演でかなり人気のあった大河ドラマだという認識はあるのですが、いかんせん、全く観ていません。

なので事前知識としてあるのは「直江兼続上杉謙信の子孫・上杉景勝の右腕」という事に加え、先日読んだ山岡荘八伊達政宗』から「米沢の上杉と仙台の伊達でかなりバチバチやりあっていたらしい」という知識ぐらい。

一通り信長・秀吉・家康と続く戦国時代については司馬遼太郎を中心に読んだはずなのですが、いまいち同時代における上杉家や直江兼続って印象にないんですよね。

 

ちなみに、武田信玄上杉謙信についてもほぼ触れていません。

伊達政宗も先日ようやく読んだぐらいですし、基本的に戦国時代において蚊帳の外に置かれていたっぽい東日本の武将に関しては触れてこなかったと言ってよいかもしれません。

 

上杉家の衰退

本書は上杉家のライバルである武田軍が、織田・徳川連合軍に大敗を喫した長篠の戦のあとから始まります。

信玄の跡を継いだ武田勝頼はこの敗戦をきっかけに多くの武将を失い、周辺国からの圧力にも捺され目に見えて勢力を失いつつあるのです。

謙信を御館様に据える上杉家ではそんなかつてのライバルの衰退を横目に、日増しに勢いづく織田信長を敵対視。将軍家である足利家を敬う姿勢が見られます。

 

「信長の行為は、義にあらず」

 

武力を持って天下を治めようとする信長を、謙信はそう断じます。

 

人が人であることの美しさ

 

上杉家の家訓とも言える“義”を貫き、謙信は足利家に忠心を誓おうというのです。

 

 

しかしやがて、上杉家も不幸に見舞われます。

御館様である謙信の死。

それにともない、景勝と景虎という二人の息子による家督争いというお家騒動の勃発。

 

景虎には北条・武田が支援を表明し、追い詰められた景勝のためにと、兼続が打ち出した起死回生の奇策こそが宿敵である武田との和睦

それぞれが危うい立場に立たされた息子たちは歩み寄りを見せ、危機を乗り越えた後には景勝と勝頼の妹、菊姫との婚姻が結ばれるほどの蜜月関係へと転じます。

景虎は滅び、上杉景勝はついに家督相続を成し遂げます。それとともに、兼続は若干二十一歳にして家老に就任。さらに名家である直江家に婿入りする事で直江の名跡も継ぎ、景勝の右腕として、上杉家の大黒柱としての長い活躍の日々が始まるのです。

 

しかし、そう時を置かずして織田信長の手により武田家が滅亡。

かつて栄誉を誇った武田家が呆気なく消滅してしまった事に、上杉家でも危機感を募らせます。

信長は武田に次いで、当然の如く上杉家にも侵略の手を向けます。

圧倒的な武力を持つ織田軍の侵攻に、上杉家は苦しい戦いを強いられます。追い詰められ、万事休すに思われたその時、天下は突如揺るがされる事となります。

明智光秀謀反による、信長の死。

 

狼狽を隠せない織田軍は潮が引くように撤退し、上杉家はあと一歩のところで幸運にも難を逃れる事ができました。

さらに、光秀を討ち果たしたのは大方の予想に反して羽柴秀吉織田家の筆頭家老であった柴田勝家を差し置いて、天下は秀吉の手中へと転がり込みます。

 

目の前で二転三転する天下の情勢の最中、兼続は上杉家の存続へ向けて思案し続けます。そこへ対比するように描かれるのが、真田昌幸をはじめとする真田家。周囲を北条や武田、徳川に囲まれた小国真田家は生き残るために、風見鶏のように主君を変えてきた御家柄。義を重んじる上杉家とは対照的な存在です。

そんな真田家は、徳川から軽んじた扱いを受ける事に耐え兼ね、対抗策として上杉家との同盟を企てます。しかし、義を重んじる上杉が真田を信用するはずがない。そうとしった昌幸は、息子である幸村を人質として上杉家に差し出す事で、同盟を成立させるのです。

そんな幸村を手厚く遇する上杉家の“義”を、幸村自身も感化されていきます。

 

もうおわかりでしょうが……幸村がここで学んだ“義”こそが、豊臣家の家臣として最後まで戦い抜いた幸村の“義”に繋がっていくわけです。

 

理想論者から現実主義者への転換

ここからは大きく割愛しますが、“義”を掲げていたはずの上杉景勝も、自ら越後までやってくる秀吉の人たらしによって丸め込まれ、大阪城へ参謁、豊臣家に臣下の礼をとる事となります。

しかし秀吉が死に、家康と豊臣家への間に不穏が空気が流れはじめると、再び戦乱の世に。

上杉家は家康に対して断固として抵抗し、豊臣家への義を貫く姿勢を表明。兼続は秀吉亡き後、豊臣家の実務を掌握する石田三成と親交を深め、ともに徳川を討とうと企てます。

 

そんな上杉家に対し、家康は討伐の兵を向けます。ところが、上杉に目が向いた隙を見て石田三成が動いたことから、事態は急変。対上杉のために集められた軍勢は一転して西へと向けられます。

上杉と徳川との戦が始まった後、呼応して決起するはずであった三成の動きに「早すぎる!」と嘆く兼続でしたが、持ち前の機転を利かせ、今こそ好機であると景勝に進言。

今徳川の背後を突けば、徳川は西と東に大きく戦力を割く事となり、家康を仕留める絶交の機会となり得るというのです。

ところが景勝は首を縦に振りません。

退却する敵の背後に矢弾を撃ちかけるのは、義に背くというのです。

これまで阿吽の呼吸を見せていた主従はここで初めて意見の相違を見せ、兼続は忸怩たる思いで景勝の意に従います。

 

結果、徳川軍と豊臣軍とは関ヶ原に相まみえ、僅か一日にして西軍は惨敗。

石田三成を下した徳川家康は天下を手中に収めます。

混乱のさ中、福島において伊達軍を撃退した上杉軍は、このまま上方へ上って徳川を討とうと俄かに活気づきますが、景勝は家臣たちを諌めます。もはや天下が決したとして、徳川に和議という名の恭順を申し出るのです。

最後まで徳川に反旗を掲げた上杉家は当然の如く減封。会津から米沢へと再び異封を余儀なくされるのです。とはいえ、兼続の奔走もありお家断絶は免れ、ぎりぎり家臣も養える三十万石を確保する差配ぶり。

 

以後、上杉家は徳川家に従い、大阪冬の陣・夏の陣においても徳川の武将として大阪城の攻め手に加わります。

一方で、真田幸村らは豊臣への忠義を貫くべく、冬の陣においては真田丸にて奮戦し、敗北の決していた夏の陣において華々しく討ち死にを遂げます。

 

本書において、夏の陣の直前に幸村と兼続とが人知れず邂逅を果たします。

“愛”を掲げる兼続に対し、幸村がその意を問うというもの。

 

「それは、民を深く憐れむ心。すなわち仁愛だ」

 

兜の前立てにまで“愛”を掲げた戦国武将として直江兼続は知られていますが、その昔、上杉謙信から受け継いだ“義”はある意味理想論のようなもの。日々刻々と変わる戦国の世の中で、直江兼続は“義”ではなく“愛”を第一に貫くことで上杉家を存続させる事に成功しました。

“義”と“愛”とは、ある意味では理想と現実のようなものなのかもしれません。

誰しもが若い内には夢や希望といった理想に向かって生きようと志しますが、歳を負うに従い、目の前の現実に沿った生活へと変化していくものです。

直江兼続の生き様も、まさにそれと同じなのではないでしょうか。

 

織田信長の家臣であったはずの秀吉に下り、家康に就き従い、それでも上杉家を存続させようとした兼続は、“義”を捨て“愛”に生きた、理想論よりも現実論を取ったと言えるでしょう。

 

 

直江兼続に人気がない理由

しかし直江兼続という武将、大河ドラマが始まるまでは知らないという人も多かったと思います。

かくいう僕もそのうちの一人です。

 

仮に真田幸村と比べてしまえば、圧倒的に幸村の方がファンが多く、書籍や映像、演劇といった創作物への展開も多いでしょう。

世の中には判官びいきという言葉がありますから、戦国の世をうまく渡りきった直江兼続よりは、戦国武将として華々しく散った幸村に人気が集まるのは仕方のないところです。

 

しかしながら、比較対象として伊達政宗はどうでしょう?

米沢・仙台と同じ東北の武将であり、いずれも信長・秀吉・家康といった三傑に反目しながら天下を夢見、最終的には彼らの軍門に下ったという似たような境遇にありながら、傾奇者として名をはせた政宗に対し、兼続には地味なイメージがあります。

というものやはり、最初から功利に聡い存在として周辺各国の侵略に精を出し、時には恥を忍んで頭を下げ、と自らをさらけ出して戦国に向き合った政宗には裏表のある狐狸のような印象を持ちつつも、実に人間味臭い魅力があります。政宗は最初から利用できるものはなんでも利用してやろうという狡猾さがあふれ出ています。

それにに対し、“義”という理想論を掲げたにも関わらず最終的になし崩しに軍門に下ってしまう上杉家の変心ぶりは、真面目一徹な人間が汚職を犯したような不快感が伴ってしまいます。不快とまでは言い過ぎかもしれませんが、「口ではうまい事言っていたけど結局みんなと一緒だよね」という幻滅。

 

幕末において、最後まで徳川家に忠義を尽くし敗れた会津藩と、有事のための親藩であるにもかかわらず早々と降伏した徳川御三家に近いものを感じます。

政治家なんかでも、特に何事もなく任期を満了して引退した人間よりも汚職や権力闘争に関わった人間の方が後世にもてはやされたりしてますし、「成功」と「後の世の扱い」は必ずしもイコールではない、といったところでしょうか。

 

前に青葉城跡にも行ったし、今度は米沢神社にでも行ってみようかな。

あ、ゴールデンウィーク中は除きます。

ゴールデンウィークはせいぜい山登りに行くぐらいかなぁ。

 

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#天地人 #火坂雅志 読了#nhk大河ドラマ 原作。大河化されたのは今から10年前なんですねー。僕は見たことがないし直江兼続についてもほとんど知らないままの読書でしたが、なかなか楽しめました。とはいえ当初は上杉謙信から教わった「義」を唱えていたはずの兼続や景勝が時代の流れとはいえ、結局は秀吉に折れ、家康に下りと現実路線でお家の存続に奔走する様はちょっとがっかりかな。最終的には上杉家の捕虜時代に「義」を学んだ真田幸村が一番「義」を貫いて討死するという。そりゃ幸村人気出るわ。兼続歴史に埋もれるわ。という感想。基本的には謙信以後の上杉家没落の物語なんだよなぁと改めて認識しました。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。