『チョコレートゲーム』岡嶋二人
「なんでも、みんなジャックのせいだ、とか言っていたらしいです。妹が聞いた言葉ですがね」
「みんなジャックのせいだ……」
岡嶋二人『チョコレートゲーム』を読みました。
岡嶋二人作品を読むのは『クラインの壺』、『99%の誘拐』以来です。
東野圭吾の『パラレルワールド・ラブストーリー』が間もなく公開という事で話題を呼んでいますが、『クラインの壺』はパラレルワールドを描いた作品としては間違いなく『パラレルワールド・ラブストーリー』よりも数段上の作品ですので、ぜひ読んでみて下さいね。
岡嶋二人の最高傑作として挙げる人も少なくありませんよ。
その他、岡嶋二人作品としてはデビュー作の『焦茶色のパステル』をはじめ競馬もの、そして誘拐ものが有名ですが、今回読んだ『チョコレートゲーム』はその中でも異色の青春もの。
とある中学校の3年A組の生徒に間に起こる連続殺人をテーマとした、第39回日本推理作家協会賞長編部門受賞作です。
大ざっぱなあらすじ
主人公は小説家の近内泰洋。彼には中学三年になる一人息子の省吾がいますが、ある日、妻から不登校が始まっていると知らされます。
学校に行くと家を出ても、実際には行っていなかったり。さらに、体に大きなアザを作ったり、食事も摂らなかったりと、不審な行動が続いています。心配する両親に、省吾はかえって苛立ちをぶつけるばかり。
そんな中、省吾のクラスメートである貫井直之の殺人事件が報じられます。
全身に多数の打撲を負い、学校近くの工場の空き地で遺体となって発見されました。
ちょうどその夜は、省吾が家に帰らなかった日と重なっています。
さらに浅沼英一が死亡。
やはりその近くでも省吾らしき姿の目撃証言が出ます。
省吾の潔白を信じ、身を案じる近内をよそに、遂には省吾もまた、遺体となって発見。
それまでの二つの事件とは異なり、自殺らしき死に様に、全ての事件は省吾の手によって行われたものとして処理されます。
しかしながら、納得のいかない近内は周囲から「殺人者の親」として煙たがられながらも、たった一人で真相解明に臨みます。
とにかく巧み
解説にも触れられているのですが、とにかく推理小説として上手。
直之が持っていたという二百万円もの現金。
直之が死の直前、震えながら繰り返していた「みんなジャックのせいだ」という言葉。
生徒たちがひた隠しにしようとする「チョコレートゲーム」の謎。
散りばめられた数々の伏線や謎をフックにぐいぐいと物語を読み進めさせ、登場人物たちは読者の興味や疑問、期待といった感情を裏切る事なく、一つ一つしっかりと解き明かしていってくれます。
最終的に全ての謎が解明してみると取り立てて“驚愕のトリック”があるわけでもなく、物語全体の印象としては凡庸な推理小説と言わざるを得ませんが、とにかく構成力が抜群でした。
他にもこの時期の本格推理小説にありがちのやや機械的な人物描写といった難点もありますが、推理小説としては読んでいて楽しいものです。
犯罪者の息子を持つ父親の葛藤や苦悩、中学三年生という年齢相応の複雑な人間模様……なんてところまで望んでしまうのは高望みしすぎかな。
最近冷めつつある読書熱にはちょうど良いバランスの良書でした。