『雪月花黙示録』恩田陸
「行くわよ、フランシス」
「ええ、ジュヌヴィエーヴ」
「一回、こういうのやってみたかったのよね」
「月に代わっておしおきよ(二人でハモる)」
のっけから妙な会話を引用してしまいましたが。
映画公開でも話題になった『蜜蜂と遠雷』でお馴染み恩田陸さんの作品『雪月花黙示録』を読みました。
『蜜蜂と遠雷』の映画、良さそうですよね。
亜夜役の松岡茉優、マサル役の森崎ウィン、明石役の松坂桃李と、よくぞここまでハマった配役をしてくれたというものです。
まぁ明石役はもうちょっと年長者でも良かったかなと思わなくもないですが。
そのせいか、最近当ブログの中でも『蜜蜂と遠雷』に良く似た恩田陸作品である『チョコレートコスモス』のPVが伸びています。
さらに、恩田陸のもう一つの代表作である『夜のピクニック』に引きずられてか、それに似たデスゲーム系のホラー小説『死のロングウォーク』の記事も妙に見られるようになっていたり。
やはり映画や原作を読んだ人たちが、あの感動や興奮を味わいたいと『蜜蜂の遠雷』に似た恩田陸作品を探しているのでしょうね。
だからというわけではないのですが、恩田陸作品を読みました。
まぁ、、、ところが……。
冒頭の引用文を読んで嫌ぁな感じをした人もいるのではないかと思うのですが。
悪い予感はまさしく大当たりでした。
和風アクション×SF
物語はミヤコと呼ばれる都市を舞台としています。
冒頭から蘇芳と萌黄という二人の少女が突然竹刀で打ち合うような展開から始まり、登場人物たちは古き良き日本の武を重んじるような世界なのだという事がわかります。
彼女たちが通うミヤコの最高学府、光舎では会長選挙が始まります。
光舎の会長選挙はミヤコ全体の権力者を決定する伝統的なイベントでもあるそうです。というのもミヤコは後者で学問を究める若者たちを中心に自治権が発達し、その周囲に町が発展する形でこんにちの姿を築き上げてきたから、という謎ロジック。
会長選挙には蘇芳と萌黄と同じ春日家から、現職の紫風という少年が立候補し、連覇を狙います。他には改革派から1人と、帝国主義者に近いと噂される及川道博。
道博はほぼ同名の某タレントをイメージしてか、派手好きなアイドル風の自意識過剰少年であり、女子生徒から黄色い声援を集める一方で、蘇芳には積極的にアプローチを掛けていたりします。
紫風の屋敷が襲撃を受けたり、立会演説会では紫風が刺客に襲われたり。
蘇芳が竹藪の中で謎のダイオードロボット(≒今でいうVR的なもの?)に襲われたり。
道博はUFO型の乗り物に乗って空を飛びまわったりもします。
まぁとにかく蘇芳を中心に、SF的近未来世界の中で女子高生が剣を持って大暴れするような和風ファンタジーものなのです。
恩田陸はシンプルなものを読め
↑が全てですね。
恩田陸作品には当たりハズレがあります。
それもかなり。
『蜜蜂と遠雷』や『夜のピクニック』のように最初から最後までうまくまとまるものもあるのですが、張り巡らされた伏線が最後まで回収されずに放り捨てられてしまったり、詰め込み過ぎた要素がまとまりきれずにとっ散らかったままになってしまったり、昭和の漫画やBLものを彷彿とさせるような作者の趣味に走り過ぎてしまったり、といった作品も多いのです。
本書は上記のような恩田陸の悪いところを集約してしまったかのような作品でした。
ミヤコを中心とした都市、という設定からまず無理がありましたし、帝国主義との対立構造についてもいまいちピンと来ないまま。ミヤコの中で彼らがどうして剣の道に重きを置いているのかや、発達しているはずの近代科学との関係性といったものも説明のないままに物語だけがぐいぐい進められてしまいます。
やたらと昭和のアイドル的なキャラクターを演じる及川道博を初め、登場人物たちもステレオタイプを切って貼ったかのような記号的な人物ばかり。主人公格である蘇芳はやたらと酒を愛し、酒を欲しがるという一体どこを狙ったか理解しかねるようなキャラクター造形も。
SFであったり、剣であったり、色々と盛り込み過ぎてしまった結果、収まりが付かずに破たんしてしまったようにしか思えません。アマゾンのレビューなどでは「ラノベ」などと悪い意味で切って捨てているものも見受けられますが、昨今のラノベ界のクオリティの高さを考えると、「ラノベ」と呼ぶのも憚られます。
強いて挙げれば勢いで書き出して勢いで書き上げた「なろう小説」といったところでしょうか。
ちょっと悪く書き過ぎてしまったかもしれませんが、一つだけ言えるのは恩田陸作品に関しては「シンプルなものを読め」という事。
『蜜蜂と遠雷』=ピアノコンクール
『チョコレートコスモス』=演劇オーディション
こういうシンプルなものほど、恩田陸の良さは発揮されると感じます。
そこに超能力やSF、ミステリといった要素が複合的に加わってくると、どうもまとまりきれずに破たんしてしまう傾向にあるように思えます。
『蜜蜂と遠雷』でも感情移入しやすい明石や亜夜に比べ、ちょっと神秘的なニュアンスを取り入れた風間塵のエピソードは浮いている感じがしましたし。
とはいえまだまだ恩田陸作品の全てを読んだわけではないですからね。
既に積読もありますし。
また他の本も読んで、良いものがあればご紹介したいと思います。