「……と、と、友達に……なって……ください」
『千年戦争アイギス』のノベライズもついに三作目に入りました。
実はこの『白の帝国編』以外にも本来の主人公である王子を主人公として書かれた『月下の花嫁』というシリーズも全7巻で刊行されていたりするのですが、そっちはとりあえず放置しています。
アイギスといえばやっぱり『白の帝国』ですよ。
……なんてユーザーは僕以外にも少なくないとは思うんです。
ちなみに前巻・前々巻の記事はこちらとなっています↓↓↓
起承転結の転
前四作中の三作目、となれば当然ながら、起承転結でいうと転という位置づけとなります。
そのせいか本作の冒頭は、レオラという初登場のキャラクターから始まります。
研究所へ訪れ、対デーモン用のフォルテ・プロジェクトの実験体を見学するレオラ。
ところが試し斬り用にと用意していたデーモンが、意図せず暴走。
実験体六号は呆気なく粉々にされ、あわや大事故かと思いきや、実験体九号が難なく処理してしまいます。
舌を巻くレオラでしたが、実験体九号には大きな欠陥がある失敗作だと告げられます。
その欠陥とは、感情が欠落しているというもの。
しかしレオラは、引き取りを申し出ます。策士である彼女には、ある考えが浮かんでいたのです。
……というのが冒頭の滑り出しなんですが、ここまででおぉっとなりますよね。
皇帝もそれまで出てきたレギュラーメンバーも差し置いて、突然のレオラ初登場。
謎の実験体。
転にふさわしい始まりじゃないですか。
さらにこれだけにはとどまらず、本作は前二作とは大きく雰囲気が変わっていきます。
封印剣士フォルテと神樹使いソラーレ
もうおわかりかとは思いますが、実験体9号こと封印剣士フォルテこそ、本作 『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』のシリアルナンバーによって提供されるキャラクターとなっています。
↓↓↓こちらがゲーム画面上の画像
なかなか強そうですが頭のリボンが女の子らしく可愛くもあり……ですがちょっと無表情なようにも見えませんか?
このフォルテ、一作目のシャルム、二作目のハルカと異なり、「感情が欠落している」という物語の主人公としては非常に扱いにくい性質をしているのです。
「えっと、あなたの、お名前は?」
「……フォルテは、今はフォルテと名乗るらしい。軽装歩兵ということになっている」
という感じの性格で、簡単に言うと新世紀エヴァンゲリオンの綾波レイをオマージュしたような機械的キャラクター。
これまでの例であれば白の皇帝が相手役となって新キャラクターの能力や人間性を紐解いていく流れなのですが、今回は一風変わってフォルテの相手役となるのは神樹使いソラーレという少女。
彼女はまだまだ兵士としては実力も教養も足りないのですが、先日の戦いで大きな損害を被ったことから、補充要因として第十三軍に合流します。
基本的にはソラーレの視点で白の帝国軍の様子やフォルテの人間性の変化、魔神との戦いなどを描いていくというのが本作の大雑把な流れ。
なのでこれまでの皇帝中心であった物語とは大きく雰囲気を変えた作品となっています。
王子軍登場
ソラーレとフォルテの物語と併行する形で、本作では『千年戦争アイギス』の本来の主人公たる王子たちがついに登場します。
魔神たちの次の襲撃は山側の町、海側の町いずれかになると予想を踏んだ白の帝国では、対策案が講じられます。
本来であれば戦力を二分してそれぞれの警護の当たるのですが、強大な力を持つ魔神相手に戦力を割るのは得策ではない。
その結果として、敵対関係にある隣国の王子に救援を求める事を決断するのです。
応じてもらえれば幸運だし、もし拒否されれば王子を批判して英雄王の威光を削ぐ。
魔神との戦いにより王子軍が消耗すれば、それもまた白の帝国の利となる。
様々な打算を抱きながら、レオラの妹であり、従来の軍師であるレオナは王子の国へと出向き交渉してみますが……王子たちはあっさりと要請を受け入れてしまいました。しかも王子自ら、主力を率いて出陣するというのです。
王子たちのモットーは「困っている人を助けたい」という善意のみが100パーセント。その純粋さに、レオナたちは魅了されずにはいられません。
王子の下で戦う戦士たちの心酔ぶりや実力も確かなもの。
本作の半分はソラーレとフォルテの物語ですが、あとの半分は上記のような、白の帝国との駆け引きを通して王子たちの性質や実力を浮かび上がらせていきます。
魔神との戦いへ
そして物語は魔神との戦いへ突入。
多数の死傷者を出し、歴戦の勇者たちが奮戦する中を、未熟なソラーレも懸命に駆けずり回ります。
ついに、彼女も凶悪なアークデーモンと対峙し、手足を切断するという重傷を負ってしまいます。
しかしそれにより遂にフォルテは覚醒。
フォルテが真の力を発揮するために足りなかったのは、この人のために死のうと思えるような存在――つまり愛だったのです。
ソラーレと日々を過ごす中で、ソラーレこそがフォルテにとっての大切な存在となったのでした。
未熟なソラーレを軍に引き入れたのは、それを見越したレオラの策略だったのです。
そうと気づいてショックを受けるソラーレでしたが、レオラたちの手により記憶を消されてしまいます。
総力を上げて魔神ダンタリオンに立ち向かった結果、あと一歩というところで首だけになったダンタリオンを取り逃がしてしまいますが、魔神たちの襲来を撃退する事に成功した白の帝国軍は、ダンタリオンを追って魔界への侵攻を計画。
ソラーレの病室へとやってきたフォルテは、彼女が記憶を失っている事に気づきます。そして――という物悲しい場面で二人の物語はおしまい。
ひたむきで純朴なソラーレの愛らしさや、無垢なフォルテの想いの切なさに胸を打たれてしまいます。
……っていうか、こんな作品だったっけ? と唖然としてしまう程のシリアスな展開に思いがけず涙を誘われてしまいます。
女神ケラノウス登場
そして本作最後では白の皇帝の妹リィーリにも魔の手が。
彼女が暮らす隠家に、何者かの指示を受けた山賊たちが襲撃してくるのです。
イザベルに代わりリィーリに仕えていた天馬騎士クラーラは山賊に立ち向かい、瀕死の重傷を負ってしまいます。
それを見たリィーリの隠された力が覚醒。
建物もろとも、山賊たちを木っ端みじんに吹き飛ばしてしまいます。
そこへやってきたのが女神ケラノウス。
ケラノウスはゲーム上でもラスボス的な立ち位置のキャラクター。人間達の破滅を願う悪の女神です。
彼女は魔神に覚醒したリィーリを魔界へと連れ去ろうと打診します。
リィーリはクラーラを蘇らせる事を条件に、ケラノウスに従う事に。
そうしてリィーリは、ケラノウスとともに魔界へと旅立ってしまいました。
魔界へ乗り込み、魔神ダンタリオンとの最後の決戦へ臨もうとする白の帝国軍。
人知れず魔界へと連れ去られたリィーリ。
そして王子軍はどこまで彼らと行動を共にするのか。
四作目の最終巻へ向けて、盛り上がってきたところで本書は終了。to be continued……
盛り上がってまいりました
最初に起承転結の転、とは言いましたが、一気に盛り上がった感があります。
だいぶシリアスに次ぐシリアスですし、フォルテとソラーレの関係に至っては若干の百合要素はあったとしてもラノベらしからぬ切ない展開です。
巻を追うごとにエロは激減しますし、魔神との戦いが佳境に入ってきた事で女性キャラクター達も皇帝とのイチャイチャに興じている場合ではなくなってきたようです。
一巻こそ「エロゲのノベライズ」的なノリで始まりましたが、段々と骨太のライトノベルへと変貌を遂げています。
驚くべきはむらさきゆきやという作家さんの技量ですね。
ユーザーをうならせるようなゲームと小説とのリンクについてはちょくちょく触れて来ましたが、小説を読む事でゲームの世界観にもより広がりが感じられるようになるのはさすがです。
ちょい役の名前だけ登場するようなキャラクターも多いですが、活き活きと活躍する場面も多いのでほとんど使用したことのないようなキャラにも愛着が持てますし。
特にソラーレなんて原作ゲーム上のレアリティを考えれば破格とも言える主人公扱いですからね。アイギスは鉄・銅・銀・金・青・白銀・黒という順番にレアリティが上がっていくのですが、ソラーレのレアリティは銀。ガチャから出る一番下のレアリティ。
平たく言うとハズレ。ほとんどのユーザーが実戦投入する事のないユニットと言えるでしょう。
にも関わらず、本書を読めばフォルテと一緒に使ってあげたい気持ちになるのは間違いありません。
どちらも白銀や黒の今日ユニットと比べると戦力としてはかなり劣るので、高難易度では足手まといにしかならないかもしれませんが。
それでも仲良く戦わせてあげたいですよね。
ただし……。
絶版です
本書 『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』はシリーズ四作の中でも唯一絶版となっています。
アマゾンどころかKADOKAWAの公式でも品切れ。
それもこれも、付録である封印剣士フォルテを目当てとしたゲームユーザーによるものでしょう。
作者であるむらさきゆきや氏が「魔神15でも使えるキャラに」と要望したのを受け、フォルテには「出撃メンバーにいるだけで妖怪、デーモンのHPを5%、防御力を10%減少させる」という非常に優秀なアビリティが搭載されているのです。
「出撃メンバーにいるだけで」というのがミソで、こういった付録ユニットというのはガチャ産ユニットに比べると大きく性能で見劣りし、高難易度のクエストでは使い物にならないというのが正直なところです。
しかしながらフォルテの場合には出撃メンバーとして編成に入れておくだけで、敵のHPや防御を大きく減少させてくれるわけですから非常に優秀。
小説読めば、彼女に対する愛着も出るでしょうしね。
実際、なかなか可愛らしいキャラクターですし。
なので三巻だけが妙に売れてしまったのか、もう手に入らないのです。
僕も仕方なく古本で購入して読んだ次第です。
残念だなぁ。
時々Amazonなどで入荷する事もあるようなので、万が一見つけた際には迷わず購入するしかないですね。