「よく確かめるのだ! ありえん、六花の勇者が七人いるなど」
皆様明けましておめでとうございます。
あまり季節感のない当ブログですが、2021年最初の更新となります。
例によってライトノベルですね。
こちらもテレビアニメ化もされたという人気作。
とはいえ『ソードアートオンライン』や『転生したらスライムだった件』などの大ヒット作に比べると一般的な認知度は低いように感じています。
アニメも一期のみで止まっていますし、小説の方も2011年から始まり、2015年に第六巻が出版されて以降は打ち止めとなってしまいました。
昨今では二ケタを数えるシリーズものも少なくないラノベ業界においては、比較的小粒と言われても仕方ないかもしれません。
ただし六巻の時点ではまだ全ての問題や伏線が解き明かされたとは言えないため、ファンの間では続編を望む声も少なくないようです。逆に言うと、打ち切りなの?といった不安の声も。
……と書いていくと打ち切りされた不人気作?と思われてしまいそうですが、本作の卓越した点についてご紹介したいと思います。
運命の神に選ばれた6人の勇者……でも集まったのは7人⁉
上記が全てと言っても過言ではありません。
魔神復活を前に、運命の神に選ばれた6人の勇者が終結。
ところが集まった勇者の数は7人。
誰か一人が偽者……つまり敵であると判断した勇者たちは、互いに疑心暗鬼になりながら偽者探しに奔走する。
……という内容。
いやもう、この時点で面白そうって思いますよね?
しかも冒頭は主人公であるアルフレッドが、仲間であるナッシュタニアに追われる場面から始まります。
つまり――主人公アルフレッドこそが偽者だと仲間たちに命を狙われているのです。
アルフレッドはどうやって事態を潜り抜けるのか?
本当の偽者は誰なのか?
数々の謎をフックに、物語はぐいぐいと進んでいきます。
既視感あると思ったら、ハイ・ファンタジーのような皮をかぶってはいますがこれってWhat done it (ホワットダニット)――何が起こっているのか?という立派なミステリーじゃないですか!!!
密室!!!
しかもしかもですが、本作には本格ミステリーの華である密室も登場します。
勇者たちが集まる直前、凶魔を追って神殿へとたどりついたアルフレッドが封印された扉を開くと、敵を閉じ込めるはずの夢幻結界は作動させられた後でした。
しかし扉は一度開けられれば再度封印する事は不可能。
最初に開けたのは間違いなくアルフレッド。
密室内で殺害された被害者の第一発見者が容疑者の最右翼として疑われるのと同様に、勇者たちはアルフレッド以外に夢幻結界を作動できる人間はいないという結論に至るのです。
アルフレッドは仲間たちに追われながら、誤解を解く術を考えます。
偽者はどうやって密室内の夢幻結界を作動させたのか。
そのトリックさえ見破る事ができれば、自分の無実を証明できる。
つまるところアルフレッドは自らが犯人であるという無実の罪を着せられた探偵役という事になります。
アルフレッドが戦う相手は他の6人の勇者であり、本来戦うはずの凶魔や魔神もほとんど登場しません。
物語の軸となるのはあくまで「誰が偽者か」という点。
その意味でもやはり本作はハイファンタジーの皮をかぶったミステリと言えるかもしれません。
いまいち爆発しなかった理由
大筋を聞いただけで絶対に面白いと確信できる本作なのですが、冒頭に書いた通り不人気アニメの汚名を着せられていたりと、いまいちパッとしないのが実情だったりもします。
確かに原作も、読んでいて謎に惹き付けられる部分は大きいのですが、それ以外の物語としての面白さみたいなものには欠けているように感じてしまうんですよね。
その要因の一つが、キャラクターが味気ない事にあるように思いました。
主人公アルフレッドは努力によって力を身に着けた一般人であり、小細工と策を弄して相手の裏をかくような戦い方が中心となります。
逆に言うと、他の六人に比べると物足りないように感じてしまいます。
かといって他の六人がどうかというと……ヒロイン格とされるフレミーも陰鬱な感じで外見的な愛らしさはあまり感じられません。対してウサ耳の姫ナッシュタニアも、周囲に感化されやすい単純一辺倒のお嬢様といった印象。モルゾフはそんな彼女に従うだけの悩筋お供。自分の考えらしきものは何一つ見られません。
チャモなんかはなかなか良いキャラクターかと思ったんですけどね。子どものような外見には似つかわしくない情け容赦ない残酷さとか。ただし、だとすればどこか人間味のようなものも見せて欲しかったというのが残念なところで、一作目だけではチャモには感情移入しようがありません。
一番のリーダー格であるモーラも同様ですね。偉そうにみんなにああだこうだと指図するものの、頭からアルフレッドが偽者だと決めつけている様子であったり、やや強引なやり方には首をひねらざるを得ません。彼女なりの理屈や正当性が上手く描けていれば良かったのですが。
なので基本的に登場人物全員が感情移入しがたいキャラクター造形であり、その言動についても理解しかねる点が多いのです。
仮に推理小説であるとするならば、もっとそれぞれが独自の推理を働かせ、警戒したり、手を結んだりが繰り返される中でさらなる事件やどんでん返しが起こったりするんですけどねー。
最終的に解き明かされる密室の謎も、カタルシスをもたらすかと言えばそれほどでもなく……まだまだ続くシリーズだからと言えばそれで終わりですが、一作目を読んだだけでは理解できない謎も多いですし。
つらつら書いてきましたが、何よりも最大の理由として暗い。
これに尽きます。
なんだか出て来るキャラクター全員が暗くて、最初から最後まで暗いムードが支配しています。
これ、ちなみに表紙や挿絵が暗い感じなのも助長しているように思えなくもないのですが。
アルフレッドとフレミーの間に恋愛関係も見られたりはしますが、やっぱりこれも暗くて、気持ちよくわくわくする事ができない。作品を読んでいく中で、どうも二人がこの先一般的なハッピーエンドを迎えるとは思えないんですよね。
魔神を倒した後、二人は結婚して幸せに暮らしました……という想像ができない。
これって意外と重要な要素な気がします。
物語の読者って、感情移入した登場人物たちが最終的に幸せになるところを見届けたいと思っているんですよね。
だからこそ鬼滅の刃のように仲間が次々と死んでいくと、衝撃も大きいわけで。
無惨を倒して欲しいと読者が見守るのは、世界に平和を戻すためというよりは、炭次郎達自身に幸せになって欲しいというという想いがあればこそ。
無惨を倒せば世界は救われる。でも炭次郎達も幸せにはなれそうにない。そんな作品だったら、鬼滅の刃も今のような人気を博してはいなかったでしょう。
六人の勇者のはずが七人いた。偽者は誰だ。
取っ掛かりの謎としては卓越していますが、残念ながらそれが作品の全てであり、出オチだったというのが正直な感想です。
『11人いる!』萩原望都
さて、長々書いてきましたが最後に本作に似た作品をご紹介。
萩原望都『11人いる!』
大体「〇人のはずが一人多いぞ!」系の作品の元ネタを追うと、本作にたどり着きます。
名門大学の最終テストとして外部からのコンタクトが遮断された宇宙船に10人の受験生が乗り込んだはずが、船内にいたのは11人。
さらにアクシデントが重なり、11人はそれぞれ疑心暗鬼になりながらも事態の収拾に奔走し……と「選ばれた〇人」「一人多い」「それによってもたらされる疑心暗鬼の人間ドラマ」な点でほぼ『六花の勇者』と共通したような内容です。
ただしこちらは少女漫画ですし、物語の雰囲気や仕掛けも異なってきます。
クスリと笑える、ほほえましいようなオチも名作とされる所以でしょう。
『六花の勇者』を気に入ったという方は、『11人いる!』についても手に取ってみる事をお勧めします。
ただし1975年の作品と言う事で、相応の時代感があるのは大目に見ていただきたいと思います。