『放課後図書室』麻沢奏
「記憶違いだったら悪いんだけど」
「うん」
「俺達、付き合ってた?」
「…………」
麻沢奏『放課後図書室』を読みました。
前回読んだのは新潮文庫nexというレーベルですが、こちらもスターツ出版文庫というライト文芸レーベルからの出版作品です。
スターツ出版について簡単に整理すると、ケータイ小説サイト『野いちご』を運営しており、過去には『恋空』で100万部を超える大ヒット作も打ち出した出版社です。
……と書けば、同じライト文芸という括りの中でもなんとなくレーベルカラーが見えてくる気がしますね。
どちらかというと女性向け、恋愛色の強いレーベルという印象でしょうか。
図書委員に選ばれたのは、三年前に付き合っていた二人
高校二年に上がってすぐ、果歩は同じクラスの早瀬君と図書委員に選ばれます。
図書委員とは、簡単に言えば放課後の図書室のカウンター業務を担当する係。
しかしながら実はこの二人、三年前の中学二年生の当時、彼氏彼女という関係になったはずの間柄でした。
ところが中学二年生という年代にありがちな話で、友達を通じて告白し、付き合う事になったものの、直接には会話すら一度も交わす事なく自然消滅したというのが実際のところ。
あれは付き合ったと言えるのか。
相手は自分の事をどう思っていたのか。
自分はどうだったのか。
図書委員をきっかけに三年の月日を越え、なんとなく消化不良のまま胸の奥にしまい込んでいた過去と、もう一度向き合うようになるのです。
うーん、なかなか面白い設定。
少女漫画風味
まぁレーベルカラー的にも仕方ない事ですけれど。
基本的には少女漫画を小説化したような作品です。
主人公の果歩は内向的で、高校二年生にもなったというのに化粧っ気もなく、男子とうまく会話もできないという純情少女。
クラスメイトの友人たちは何かと恋愛の話題で盛り上がり、果歩にも積極的に恋愛するよう勧めますが、果歩にはあまり興味を持てず……。ですが一たび合コンに参加してみれば、男子や周囲からは「可愛い!」「素質がある!」と絶賛される隠れ(?)美少女だったりします。
一方、相手役となる早瀬はサッカーのクラブチームに所属し、絵も得意、さらに勉強もできる上、結構な頻度で女の子に告白されるという絵に描いたようなイケメン王子様。
クラスでは目も合わさない彼は、図書委員の時だけ果歩と積極的に会話してくれます。
しかも一緒に帰った別れ際に、果歩の手に口づけをしてみたり、目を瞑ってとキスを連想させるような素振りを見せては、赤面する果歩をからかって笑うという思わせぶりな態度を取りまくります。
完全に自分がイケメンだとわかった上で、女心を手玉に取るタイプですね。
果歩は早瀬の思惑通り、その度にドキドキするわけです。
早瀬君、何を考えているのかな?なんて。
いやいやいやいや、YOUたち付き合っちゃいなよ!!!と思わず言いたくなるようなもどかしい間柄。
ですが本書はそんな二人の行く末を、ヤキモキしながら見守る事を醍醐味とした書かれた作品だと言えるのでしょう。
余計な要素やキャラクターを盛り込むわけではなく、ただただ二人の関係だけに焦点を当てて作り上げられる純な恋愛小説に徹底している点は、非常に好感触です。
ネット小説でした
短い章立てで連作短編のように物語が続き、空き時間にもちょっとずつ読み進められるような作品構成と、読んでいる途中で、なんとなくそんな気がしたんですけどね。
本書は先にもご紹介したケータイ小説サイト『野いちご』で連載され、書籍化された作品でした。
わざわざ買わなくても無料で読めたんですよ。
確かに活字慣れしていない高校生~大人の女性が気軽に読むにはもってこいの作風だと感じました。
非常にわかりやすい、ある意味ではライト文芸の一つの典型例ともいえる作品かもしれませんね。
ただし、これ一冊でスターツ出版・ライト文芸についてわかった気になるのも危険ですし、もう少し他の本にも手を出していきたいと思います。