「今ここで死んだつもりで、少しの間だけおまえの命、おれにくれない?
沖田円『一瞬の永遠を、きみと』を読みました。
一時期の放置具合はなんだったのかと訝しまれるような連日の更新ですが、ライトノベル系は読みやすいのでサクサク進んでしまいますね。
本作も例に漏れずジャケ買い。
そして前記事『放課後図書室』と同じスターツ出版文庫レーベルからの作品となります。
書店で文庫の棚を見ていると、沖田円という名前は嫌でも目に入るぐらいの人気作家という印象があります。
「淡く切ない涙の恋愛物語」的なライト文芸のイメージが一番似合う作家さんなのかな、と。
ここまではどちらかというと変化球的な作品を選んでしまったかもしれませんが、本書『一瞬の永遠を、きみと』はおそらくこれぞライト文芸というべきど真ん中の作品。
しっかりと最後まで楽しんでいきたいと思います。
自殺しようとした少女は、出会った少年と海を目指す旅へ
主人公である夏海が学校の屋上から身を投げようとしたその時、背後から声を掛けられます。
彼の名は朗。
朗は海を見に行きたいから付き合ってくれ、と夏海にもちかけます。
けれど彼は一文無しで交通手段は夏海が乗って来た自転車のみ。
しかも朗は自転車に乗ったことがない、したがって自分では漕げないという変わった男。
戸惑いを見せる夏海でしたが、不思議な少年朗とともに、遠く離れた海を目指す冒険の旅へと出発する事になります。
旅の先にあるもの
夏海はどうして死のうと考えたのか。
朗は何者なのか。
大きく二つの謎をフックに、物語は進んでいきます。
特に朗は明らかに不審です。
夏でもカーディガンを羽織ったままだし、生まれてこの方アイスを食べた事もない。あまりにも浮世離れした言動が目立ちます。
そうしてたまたま立ち寄ったお店の老婆に声を掛けられ、一晩泊めてもらったりと様々な幸運や巡り合わせも手伝い、二人は少しずつ海を目指して進んでいきます。
その過程の中で、初めて会ったはずの互いを理解し、心を惹かれるようになっていきます。
ベタ&ベタ&ベタ
細かい内容はネタバレになってしまうので省きますが……簡単に言い切ってしまえば本書はベタのオンパレードです。
特に目新しい要素や展開があるわけでもなく、どこか既視感のあるストーリーを重ねて作り上げられた恋愛小説。
朗に隠された秘密については大半の人が「どうせそういう事情だろう」と想像した通りのものですし、そこから結びつくラストもほぼ予想通りと言って良いでしょう。
期待値を上回る事もなく、かといって裏切りもせず、ちょうど良いところにしっかりと着地してくれます。
ベタ&ベタ&ベタ。
定番&お決まり&テンプレート。
でも極論すればこれがライト文芸ってやつなんですよね。
個人的に、こういった「淡く切ない涙の恋愛物語」的なテンプレート型のライト文芸は、水戸黄門・暴れん坊将軍といった勧善懲悪モノの時代劇に通じるものがあると捉えています。
テレビドラマも小説も等しく余暇時間を過ごすための娯楽だとするならば、期待を裏切らない、慣れ親しんだ、自分にとって面白いと感じられると約束された作品をユーザーが選ぶのはある意味では当然であり必然な流れなのでしょう。
仮に本書が一般文芸レーベルから「これは文学です」という顔で刊行されていたとしたら感想も変わってきますが、ターゲットとする読者層とレーベルカラーにしっかりと合った作品であるという点においてはまず間違いないですし、やはりライト文芸・スターツ出版文庫のど真ん中を捉えた作品と言えるのではないでしょうか。
こういう作品は事実今売れていて、書店の棚を広げつつあるジャンルなのでしょう。
そう言い切るには、まだまだ読書量が足りていませんが。
なのでライト文芸の記事はまだ当分続きそうです。