願いが込められた玉は落ち、込められていない玉が残る。そんなふうに、わたしたちの生きる世の中は、うまくいかないことばかりだ。
大切にすべきものが、ないがしろにされる。無法がまかり通り、きれいなものが汚される。
高倉かな『ちっぽけな世界の片隅で。』を読みました。
もういちいち説明する必要もないかもしれせんが、今回もスターツ出版文庫からのライト文芸となっております。
しかも中学二年生を主人公とした学園モノ。
またベタなライト文芸を楽しめそうな匂いがプンプンしますね。
前置きは短めにして、早速本編をご紹介していきましょう。
厨二病(女子ver)
主人公である中学2年生の八子は、簡単に言うと女子版の厨二病罹患者。
友人である明のノロケ話にはついて行けないし、彼氏と同じ野球部の男の子といちいちくっつけようとしてくるのもウザい。母親も、クラスメートも、目に映るもの全てがウザい。
もちろん自分の事が一番嫌い。
こんななかなか珍しい女子バージョンの厨二病をまざまざと描いている時点で、著者の力量は推して知るべしですね。
そんな八子の唯一の癒しは夜のラジオ。
たまたまそこで耳にしたジュウエンムイチ、というペンネームに八子はピンと来ます。
隣のクラスで、同じ塾にも通う田岡の、掠れた名札がちょうどそのように読めるのです。
ジュウエンムイチの悩みは「隣のクラスに好きな子がいる」というもの。
ジュウエンムイチの正体は本当に田岡なのか。
田岡の好きな子ってもしかして?
そんなドキドキとした年頃の女の子の心情が活き活きと描かれていきます。
月9 ✖ → 朝ドラ 〇
そんな中で八子の田岡に対する想いとならんで本書の核となっていくのが、いわゆるイジメ。
八子の目の前で、同じクラスの同級生が、同級生に虐められる。
申し訳なく想いつつも、八子には傍観する事しかできません。
どんどんエスカレートしていくイジメ。
ある日の朝、たまたま早く出てきた八子はばったり田岡と鉢合わせ。
二人が着いた教室では、見るも恐ろしいイジメが行われており、それを見た田岡は――。
そんな田岡の行動に影響され、やがて八子もまた、ある行動に出ます。
……多分ですね、高倉かなさんという作家はすごいです。
中学二年生という年代の複雑な心模様を見事に描いています。
イジメの様子も、それを見る八子の心情も、非常にリアル。
あとがきに児童文学を意識して書いたとある通り、ライト文芸というよりはそちらに近いテイストの作品になっています。
恋愛要素の扱いも好きだ、嫌いだ、運命の人だ、というラノベ的ノリではなく、主人公の中で少しずつ相手に対する印象が変わっていったり、捉え方の変化によってこれはもしかしたら恋なんじゃないかと本人自身が戸惑うといった、非常にリアリティのある描き方です。
これまで読んできたスターツ出版文庫の作品としてはある意味異色と言えるかもしれません。
ただし異色なだけに、同レーベルから出版されている他の作品に比べるとちょっと単調過ぎるかな、というのも正直な印象。
ライト文芸って、極論するとある日突然出会った(再会した)相手が運命の人で、それによって自分の人生が変わる(過去に負った傷や罪から解放されたり、本来の自分を取り戻したりする)作品が大半だと思っています。
そういう作品を求めている人にとっては物足りないだろうな、と。
月9のトレンディドラマを期待していたら、朝の連続テレビ小説だったみたいな感想になってしまいそうな予感がします。
僕はこちらのテイストの方が好きですけどね。
スターツ出版文庫からもこういう作品が出てるんだなぁ、という新鮮な驚きを感じたというのが素直な感想です。
イジメの話、多いなぁ
ただ、それを読む僕の精神状態が良くなかった。
一言で言うなればイジメものに飽いていた。
ここ最近ライト文芸が続き、間に読んだのも村山由佳の天使の卵シリーズという状況。
『天使の柩』もまた中学生の女の子が追い詰められる作品でしたが、『ぼくは明日、きみの心を叫ぶ。』や『消えない夏に僕らはいる』等、スクールカースト・いじめを題材にした作品が多かったんですよね。
学生を主人公に置いたライト文芸となるとどうしてもそういったものが題材になりがちなのかもしれませんが、どれも基本的には自分の側で起きているイジメから目を背ける、我慢できなくなって声を上げるものの今度は自分が標的に、といった内容が多い。
こういうのって読んでる側もどんどん鬱々してきちゃいますよね。
あらすじ読めば大体わかるんだから読むなよ、と怒られちゃいそうですが。
ざざざっとジャケ買いで買ってみたら、もれなく学園モノ≒イジメモノだったという感じです。
でもまぁいい加減ライト文芸にも飽きてきたかなぁ。
そろそろまた本屋に行ってみようかと思い始めたところです。
まだ積読がたくさんあるんですけどね。。。