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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』山口悟

あれ? おかしいなこれ? ハッピーで追放、バッドで死ぬって……カタリナ・クラエスにハッピーなエンドがなくない? バッドオンリーなんですけど!?

今回読んだ本は山口悟著、その名も『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』という長ったらしい名前のライトノベルです。

尚、レーベルは一迅社文庫アイリスというあまり聞かない名前。

ざっくり調べてみると、元々は漫画の月刊誌などから始まった会社みたいですね。

 

2008年5月にライトノベルレーベル「一迅社文庫」を創刊し、同年7月に少女向けライトノベルレーベルとして「一迅社文庫アイリス」を創刊とまぁ……女の子向けのレーベルだったようです。

だったようです、というのには理由がありまして、レーベルのホームページを見れば一目瞭然。

 


ピンク~紫基調のカラーリングにどことなく女の子っぽさを感じられるだけで、並んだラインナップは最近流行りのライトノベルに他なりません。

多分読んでいるのも男性読者が多いんじゃないかなぁ、と。

 

もう一方の男の子向けライトノベルレーベルとされる「一迅社文庫」の方はというと……

 


やはり、大差ないような感じがしちゃいますね。

まぁライトノベルにも種類が豊富過ぎて書くレーベルカラーが出しにくくなっているのも周知の事実。いずれは一つに統合されたりしそうな匂いがぷんぷんしますが。

 

ここまでは余談として、本題に入る……前に、まずは一旦、自分のためにも整理しておきたいと思います。

 

 

最近よく聞く悪役令嬢モノってなんぞ?

本書を読んだ理由は、上記の通り。

 

悪役令嬢モノってなんぞ?

 

という点です。

最近よく見るんですよね。書店で棚を見ていてもそうですし、TwitterのTLにも書籍やらWEB投稿サイトまでとにかく悪役令嬢モノが多い。

 

ライトノベルというと異世界転生・ハーレム・チートといった題材が多く散見されるのですが、昨今では悪役令嬢と名の付く作品の方が多いのではないか、と思えるぐらい爆発的に増加している印象を受けます。

 

もはやWEB上には悪役令嬢モノの定義から歴史までさまざまな考察が語りつくされているようですので詳しくは省きますが、ざっくり言い表したのが下記の通りになろうかと思います。

 

「前世でプレイした乙女ゲームor愛読していた少女漫画の世界に転生した主人公が、自分はヒロインをいじめる悪役の立ち位置にいることに気がつき、シナリオで予定されたバットエンドを回避するため東奔西走する」

 

……まだちょっとわからないですね。

わかりやすい例を挙げれば、シンデレラの姉に転生した主人公がバッドエンド回避に奔走する感じでしょうか。

 

主人公自身は物語の大筋を理解しているため、要所要所に立ちふさがるフラグを頑張ってへし折っていく。

シンデレラをイジメないとか、お城の舞踏会に行くシンデレラを上手くアシストして心証をよくする、とか。

 

とはいえ実際に読んでみない事にはわからない。

悪役令嬢モノのテンプレ、代名詞的な作品ってなんだろう? と調べてみたところ、本書『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』が上がって来たのです。

 

何せ本作はテレビアニメ化もされた大ヒット作品ですからね。

 

流行りの悪役令嬢モノがどんなものなのか、この目で確認してみたいと思います。

 

 

オーソドックスな悪役令嬢モノ 

 

主人公はカタリナ・クラエス

公爵の一人娘というお嬢様……つまり令嬢です。

まだ幼い彼女の周りには王国の第三王子や第四皇子、伯爵の子息といった王子様クラスの美男子キャラがずらりと揃っていて、やがて学園に上がると、本来の乙女ゲームの主人公となる少女が現れ、少女と美男子達による恋愛趣味レーションが幕を開ける事になります。

それこそが乙女ゲー『FORTUNE・LOVER』の世界。

 

しかし、実際にはカタリナ達は幼く、学園に上がる前――つまり『FORTUNE・LOVER』のゲームが始まる前の段階なのです。

 

そんな折、カタリナ・クラエスは唐突に思い出します。

自分は元々現代日本を生きる女子高生で、連星したこの世界は自分が死ぬ直前までやっていた乙女ゲー『FORTUNE・LOVER』だと。

 

さらに重要なのは、カタリナ・クラエスはゲーム内における悪役令嬢――主人公キャラと男の子たちの恋愛に妨害工策を仕掛ける悪役であり、どんなルートを辿ったとしても、最終的にカタリナ・クラエスはバッドエンドを迎えてしまうのです。

全てを思い出した彼女は、どうにかしてバッドエンドを回避しようと企みます。

しかしそれは追放された時に備えて剣や魔法の腕を磨こうといった不可思議なもので、魔力の源との対話が必要と聞いた彼女は、土の魔法の源となる大地と対話するために農作業を始めたりと見当はずれなものばかり。

 

そう……本書の主人公カタリナ・クラエスはド天然キャラなのです。

 

しかしやって来た第三王子ジオルドは、農民のような姿の彼女にかえって気を惹かれてしまいます。

王家に近づきたいクラエス家側から婚約などと言い出してくるのではと警戒していたジオルドは、自ら婚約を申し出るという思い切った行動にでてしまいます。

そうしていつの間にか、彼女は時分に向かうはずだった破滅フラグを知らず知らずのうちに解決してしまうのです。

 

天然キャラの主人公が謎行動を取った結果、ことごとく事態が好転してしまうというラノベにありがちなご都合主義展開です。

 

しかもラノベにありがちという意味ではもう一つ……こんな形で彼女は、次々に出会う登場人物と本来生まれるはずだった確執まで解消してしまいます。

対立軸までねじ曲がり、いつの間にか主人公の攻略対象となるべき男性キャラや、敵対関係にあるはずの相手からも、彼女に向けられるのは好意ばかり。

 

天然キャラの主人公が天真爛漫に振る舞った結果、意図せず好感度が上がってしまうというラノベにありがちなハーレム展開です。

 

つまるところは『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』に代表される従来のライトノベルの舞台を悪役令嬢に差し替えただけであり、物語の構造としては異世界ハーレムや学園ハーレムと大きく違うものではありません。

極論すれば本書は『やはり私の乙女ゲーはまちがっている』みたいなものだと言っても過言ではありません。

 

悪役令嬢モノ、悪役令嬢モノと常日頃から耳にはしていましたが、ようやくそういう事だったのかと刮目した気分です。

他の悪役令嬢系の作品も似たり寄ったりのようですし。

これですっきりです。

 

 

わかりやすい≒クドい

本書を読む上で賛否両論あるのがその構成。

主人公目線で本編進行後、章の最後に相手のキャラクター目線でもう一度回想という、あまり見ない形で各章が構成されています。

 

一般的に一人称の作品の場合、どうしても主人公以外の心情というのは測りかねる部分があります。

「〇〇は目を丸くしていた」という表現により相手が驚きに目を見開き、呆然としている様子は浮かんだとしても、具体的に何に対して驚いていたのかは、想像の域を出ません。

呆然としている間に、相手の胸に膨らんだのは好意かもしれないし、逆に悪意かもしれない。その辺りは前後の話の流れから読者が推測するしかないんですね。読んだ読者全員がすんなりと同じような情景を思い浮かべられるかどうかは、一重に作者の力量次第とも言えます。

その曖昧な部分を、本書は後から相手目線でもう一度振り返る事によって、きっちりとと描き出しているというわけです。

 

これはある意味では親切丁寧でわかりやすいと言えますが、反面、非常にしつこく、クドさを感じる事もあります。

別に回想されずとも、重々理解している場面も多々ありますからね。

 

テレビでよく見られる手法で、「彼女の正体とは?真実とは?」なんてさんざんヒキを作っておきながらCMに入り、CM明けた後にもう一度最初からおさらいされてイライラする事ってありますよね? いやそれさっき見たやつ! さっさと正体教えて! なんて。

またはお笑いグランプリ系のコンテストで、優勝後にもう一度同じネタをVTRで見せられるとか。

あれに近いクドさ、と言えばおわかりいただけるでしょうか?

 

わかりやすいのはわかりやすいんです。

きっちり詳細まで描きたいという気持ちもわからないでもないですし。

ただ一般的に言ってしまえば、新人賞なんかでこれをやってしまうと間違いなく落とされますよね。

 

意図してぼかしたり、描かなかった心情や事象を後々モノローグとして回想する事で穴埋めするというのであれば良いのでしょうが、毎度毎度お決まりパターンでやるというのは、基本的にはご法度かと。

実際、本シリーズの後半になればなるほど、クドい、しつこいといった感想が増えてくる事にも表れています。

 

自分で小説を書くという人も、本書のような物語の構造は真似したとしても、構成については真似しない事をおすすめします。

 

今回はこんなところで。

 

 

 
 
 
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