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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『いつか、眠りにつく日』いぬじゅん

「俺の仕事は、死んだ人間を、あっちの世界に連れてゆくことだ。しかし、人間っていうのは厄介で、『死んでもしにきれない』っていう、変な感情や想いをかかえていつヤツが多い」

 

いぬじゅん『いつか、眠りにつく日』を読みました。

こちらもスターツ出版から発行されたライトノベルーーもといライト文芸作品。

 

これまでご紹介してきた作品同様、本作もケータイ小説サイト野いちごから第8回日本ケータイ小説大賞を受賞し、書籍化された作品です。

フジテレビではオンデマンド配信ですがドラマ化もされています。

 

おそらくいぬじゅんさんという作家は、以前ご紹介した沖田円さんと並ぶスターツ出版の看板作家のうちの一人なんだと思います。 

 

ライト文芸というジャンルに興味を持ち、理解を進める中で、読むべき作家・作品の一つと言えるでしょう。

 

 

死神と取り組む未練解消

主人公の蛍は高校二年生。

修学旅行に向かうバスの中で、事故に遭い、目の前に現れたのが案内人を名乗る通称クロ。

蛍があっちの世界に行くためには、この世に残した三つの未練を解消必要があるというのです。

要するに蛍は幽霊となってしまったわけで、一か月という時間の中で、対象である三人に会い、未練の解消に努めます。

 

……という、非常にライト文芸らしい、ベタ中のベタとも言える内容ですね。

 

その対象というのは、死の直前喧嘩をしてしまった親友の栞と、ずっと入院していた祖母のタキ、そして密かに想い続けていた幼馴染の蓮。

連作短編集のように、一人ひとりと会い、未練を晴らしていく蛍なのですが……本作にはちゃんと、「全部の未練を果たして成仏しました。めでたしめでたし」では終わらない仕掛けが施されています

 

最後を見届けた人は、きっと胸を打たれずにはいられない事でしょう。

 

ライト文芸です。

……ただし。

ここからは本音になりますが。

 

これまで書いてきた他のライト文芸作品の記事の中でも繰り返し主張してきた通り、ライト文芸というのは水戸黄門暴れん坊将軍にも似た「読者の期待を裏切らない凡庸に徹した作品」です。

本作はスターツ出版の看板作品の一つという事もあり、まさにその筆頭と言えます。

 

死んだ主人公が死神と未練を晴らすという設定はもちろんですし、死の直前に(他愛もない)喧嘩をしていた親友の存在や、想いを告げられないまま終わってしまった異性の存在等、どれもこれも既視感のある話ばかりです。

それだけでは終わらない仕掛けが用意されていると書きましたが、それもまた読書慣れしている人であれば読み始めた段階からすぐに気づくor疑ってしかるべき内容と言えます。

 

とはいえ色々とライト文芸作品を読む中で再認識したのは、多くの人に読まれる作品というのは構成にひと捻りも二捻りもあるという事。

 

物語を書く上では起承転結・序破急と言った構成が上げられますが、昔の古典作品ならいざ知らず、もはや起承転結では単調で味気ない作品になってしまいがちです。

昨今の漫画やアニメ、ドラマ等々も同様ですが、話題作は起承転……の後に結が来ると見せかけてひっくり返し、今度こそ終わりだと思いきやさらにひっくり返すと言った、いわば起・承・転・転・仮結・転・結型の構成が多いように感じています。

 

もうちょっとわかりやすく書くと、下記のようなイメージです。

 

 

〈起・承・転・結型〉

 

  起……男女が出会う

   ↓

  承……仲が深まる

   ↓

  転……男には重大な問題があると判明

   ↓

  結……問題を解決し二人は結ばれハッピーエンド

 

 

〈起・承・転・転・仮結・転・結型〉

 

  起……男女が出会う

   ↓

  承……仲が深まる

   ↓

  転……男には重大な問題があると判明

   ↓

  転……問題を解決したと思いきや実は彼女の方に深刻な事情が

   ↓

  仮結……やはり二人は結ばれず悲しい別れ

   ↓

  転……二人が知らない意外な事実が判明。全ての問題が解決

   ↓

  結……遂に二人は結ばれハッピーエンド

 

 

本作も一つ一つの物語や要素だけを取り上げれば凡庸で固められたような作品なのですが、上のような捻りを加える事で物語に奥行きを生み出す事で成功した好例と言えるでしょう。

死んだら死神が出てきて、未練を解消するだけの話なんて他にいくらでもありますからね。

その辺りが名作として現在も読み続けられる一因かと。

 

まぁとはいえあくまでライト文芸

前代未聞のどんでん返しを期待するような作品ではありませんので、あくまで良く出来た凡庸さを楽しみたい、裏切る事のないベタな名作を読みたいという方におススメします。

 

 

 

 
 
 
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