「――夢は外からやってきて」
石清水がぽつんと呟いた。
「どこへ行くんでしょうね」
恩田陸『夢違』を読みました。
当ブログにも登場機会の多い恩田陸作品です。
直木賞や映画化で話題の『蜜蜂と遠雷』をはじめ、本屋大賞を受賞した『夜のピクニック』。綾辻行人『another』をインスパイアしたという『六番目の小夜子』等話題作には書かないベストセラー作家ですね。
ただし過去の記事にも書いた通り、佳作・凡作も多い作家だと認識しています。
今回の『夢違』はどちらに属する作品になるか……楽しみですね。
過去の記事については下記のまとめをどうぞ。
夢判断と夢札
本書の一番の題材が夢札と呼ばれる先端技術。
誰かが見た夢を映像として具現化する事ができ、それにより解析を行う夢判断という仕事が生まれています。
主人公の野田浩章はそんな夢判断に携わる技術者の一人。
野田はたまたま図書館で目にした一人の女性に、驚きます。
彼女は野田の兄の婚約者古藤結衣子であり、予知夢を見ることができる能力を認められた日本で最初の人物でした。
結衣子は上司の葬儀に参列するために北関東へ車で出かけた時に、サービスエリアで起きた火災に巻き込まれて焼死したはずなのです。
ある日の事、とある小学校の1クラスで、集団ヒステリーのような事件が起こります。
全員が突然教室を飛び出して、校庭で嘔吐した生徒もいた事から集団食中毒かに思われましたが、全員は不明。
野田達は生徒達の夢札を引いて調べる事に。
野田は夢の中で、古藤結衣子らしき人物を見つけてしまいます。
さらに同様の事件は表ざたになっていないだけで、全国の様々な学校で起こっている事が判明。
一体何が起こっているのか。
古藤結衣子の関係とは。
死んだはずの彼女の消息とは。
序盤から恩田小説らしい謎の畳みかけで、物語はぐいぐい進んでいきます。
当たり外れの多い恩田作品の中から当たりを選ぶ一つの指針
恩田小説の特徴というのは、とにかく縦横無尽に謎やら手がかりといったフックをばら撒きまくるんですよね。
一つの謎が解けない内に、次々と新たな謎を登場させるのです。
それらが最終的に綺麗に着地すれば良いのですが、最後までぶん投げっぱなし、謎残りっぱなしの消化不良で終わる事も珍しくないという作風……。
もっとも推理小説でもない限り、全てが理路整然と説明される必要もないのですが。
特に本書のような超常現象を題材とする場合、説明しきれない事象というものも存在してしかるべきでしょう。
こう前置きすると嫌な予感しかしないかもしれませんが……本書がどうなのかというと、まぁなんとも、微妙なところですね。
おそらく著者は、夢現の境のような曖昧で幻想的な世界を描きたかったのだと思います。本書においてそれは、おおよそ狙い通りに働いたのではないでしょうか。
しかしそれが読者にとって望ましいものか、好ましいものかというとまた別問題。
様々な謎に対し、著者なりの答えのようなものを用意してはいるのですが、曖昧で幻想的なものであるが故に、肩透かしと感じる方も少なくないと思います。
モヤッとする感じ、と書けばお分かりいただけるでしょうか。
分類すると本作は『常野物語』や『六番目の小夜子』のような怪奇・幻想小説にカテゴライズされると思うのですが、恩田作品の中でもこの系統の作品には消化不良ものが多い気がしますね。
『蜜蜂と遠雷』や『夜のピクニック』、『チョコレートコスモス』のようにストレートな人間同士の物語の方に、名作が多いような気がします。
今後恩田作品を選ぶ上の大きな指針になるかもしれません。
なんだか次を選ぶのが楽しみになってきました。