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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『日曜は憧れの国』円居挽

「運が良ければ、一生忘れられないような体験になると思いますよ」

円居挽『日曜は憧れの国』を読みました。

久しぶりの創元推理文庫というだけで、なんだかわくわくしちゃいますね。

創元推理文庫というと、有栖川有栖や北川薫といった推理小説の名手を輩出した本格推理小説の老舗レーベルという印象があります。

 

しかも著者である円居挽さんは我孫子武丸綾辻行人、法月倫太郎といった新本格ミステリブームの旗手を多数輩出した京大ミステリ研のご出身。

創元推理文庫+京大ミステリ研というブランドが揃っただけで期待値は膨らまらざるを得ません。

 

久しぶりの推理小説という事もあって、とにもかくにも楽しみな一冊となりました。

 

 

四人の中学生が織りなす日常の謎

本書に登場するのは千鶴、桃、真紀、公子というそれぞれ違う学校に通う中学二年生。

彼女達は各々の事情から四谷カルチャーセンターの講座を受ける事になります。

トライアル5コースと言い、数ある講座の中からお試し的に5つを体験できるというものです。

 

4人は取っ掛かりとなる料理教室で出会い、意気投合したのをきっかけに、将棋教室、歴史講座、小説教室と一緒に各講座に参加する事になります。

その教室ごとに、ちょっとした事件が起きるというのが本書の基本構成。

 

料理教室では別グループの主婦の鞄にあったはずの財布がいつの間にか千鶴達のテーブルの下に落ちていました。

将棋教室では、彼女達の多面差しの相手を務めた小学生の女の子が突如泣いて飛び出してしまいます。

歴史教室では途中で倒れてしまった講師が、何をテーマにするつもりだったかについて四人が考えを巡らします。

小説教室では、講師である作家自身を投影したと思われる課題について、最適解を見つけるべく悩みます。

そして第五章では、それぞれが一枚ずつのチケットを使って別々の講座をヒントにしつつ、一つの謎を解こうとバトンリレー形式で推理を繰り広げます。

 

ラノベ

創元推理文庫日常の謎というと真っ先に北村薫が思い浮かんでしまいますが、本書は主人公となる少女達の年齢やキャラクターから、全体的にライトノベル感が漂っています。

千鶴は真っすぐだけどどこか抜けている主人公ポジションですし、桃は明るく元気な女の子、真紀はちょっと斜に構えた感じで、公子は物静かで生真面目なお姉さんポジション。

まるでプリ〇ュアを彷彿とさせるようなキャラクター設定ですね。

 

各話で提示される謎もまた、日常の中でもかなり些細なものばかりです。

料理教室こそ窃盗という明確な事件ですが、全体的には対象となる人物の頭の中を探るようなばかり。

後半になればなる程、明確な犯人当てではなく、作者の考える模範解答を提示されて終わり、という感が強まります。

 

それもざっくり言ってしまえば、「書を捨てよ、町に出よう」的な道徳観の繰り返し。

本書がどのあたりの年代に向けて書かれたのか定かではありませんが、子どもにはちょっと高尚過ぎる思想な気がするし、僕達のような大人には押し付けがましいような気もします。

 

もっと最初の料理教室並の小規模なわかりやすい事件を期待したかったんですけどねー。人の感じ方、考え方を推理小説のお題にされてしまうと、それって本当に最適解かなぁ?と首を捻ってしまいます。

 

また、ラノベというにはちょっと勢いというか、面白みが足りないように感じられたり。

創元推理文庫の作品としては、逆に砕け過ぎているようにも感じられたり。

 

ちょっとどっちつかずな印象を覚えてしまいました。

 

個人的に一番引っ掛かったのは真紀の口調。

「適当だネー」

「だったら先生が店開いたらウチら行くヨ」

「と思うヨ。あ、どうせこの玉ねぎも後で一緒に煮るから心配しないでネ」

細かい事かもしれませんが、彼女のカタカナで記される「ネ」「ヨ」のイントネーションというか、口調のイメージがつきかねて、最後まで違和感を持ったまま読み終えてしまいました。

 

昭和の漫画に出て来る片言の外国人の感じ? それともギャル? どういう話し方をする子なのでしょう???

 

表紙イラストに描かれる真紀も、ショートカットに眼鏡という活発そうな印象ではあるものの、ギャルというわけでもないですし。

 

些細な点ですけど、読み終わってもすっきりせず、もやもやしたままになっています。

 

プ〇キュア的な四人の女の子がわいわい謎に立ち向かう感じは良かったんですが、後半に進むについれてしりすぼみになってしまったのが残念な点。

続編も刊行されているのが気にはなりますが、同じようなティーンエイジャーを主人公とした日常の謎だと、米澤穂信を読んでしまうかなぁ。

 

うーん、あと一歩惜しい。

 

 

 
 
 
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