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『家守』歌野晶午

 

 

歌野晶午『家守』を読みました。

改めて書く必要もないかもしれませんが、歌野晶午といえば第57回日本推理作家協会賞と第4回本格ミステリ大賞をW受賞した『葉桜の季節に君を想うということ』や、二度目の本格ミステリ大賞に輝いた『密室殺人ゲーム』シリーズ、第146回直木賞候補にもなった『春から夏、やがて冬』などが有名です。

 

当ブログの中でも、『密室殺人ゲーム』の記事は安定してPVを伸ばしてくれる稼ぎ頭となっています。

興味のある方は下記リンクよりどうぞ↓↓↓

 

 

さて、そんな評価の高い歌野作品ですが、今回読んだ『家守』は短編集となっています。

本格ミステリに嵌まった時から、短編集は避ける傾向にあったんですけどね。なんていっても綾辻行人島田荘司京極夏彦等々、千ページを超えるような分厚い作品の中に、これでもかというような大掛かりなトリックを仕掛けるのが本格ミステリの醍醐味と思っていましたから。

 

そんな僕も、昨今では短編の面白さに目覚めつつある事は以前に書いた通りです。

 

今では本格ミステリの名手として呼び声の高い歌野晶午の短編、果たしてどんなものになるか……存分に期待して読む事にしましょう。

 

 

家をテーマに書かれた5つの短編集

 本書に収められているのはいずれも家をテーマとした短編です。

以下にざっくりとした内容を記します。

ネタバレとまでは行かないかと思いますが、苦手な方は読み飛ばして下さいますようお願いします。

 

 

『人形師の家で』

 子供の頃、見知らぬ人形師の家に出入りしていた主人公達は、かくれんぼに興じているうちに一人だけどうしても見つからない少年を置いて帰ってしまう。結果として、彼はそのまま行方不明に。人形師の家に出入りしていた事も、そこで彼がいなくなった事も、誰にも言えずに抱えていた主人公は、帰省した先で当時の幼馴染と再会する。

 

『家守』

 自宅二階の寝室で、窒息死という不可解な状況で発見された女性。玄関は施錠の上ドアチェーンまで掛けられ、窓という窓は全てロックが掛かった密室状態で起こった不可解な死。彼女は誰に、どうやって窒息に追い込まれたのか。

 

『埴生の宿』

 フリーターの主人公は、ある日突然見知らぬ男にアルバイトを持ちかけられる。死んだ弟のフリをして、痴ほう症の父の相手をして欲しいというもの。報酬に惹かれて承諾したのはいいものの、ある日パニックを起こした痴ほう症の父にほだされ、主人公は屋敷を脱走しようとし、後日無惨な姿で発見される。一体彼の身に、何が起こったのか。

 

『鄙』

 小説家の兄とともに、知人の紹介で山深い山村に旅行に来た主人公は、思いがけず殺人事件に遭遇してしまう。疑がわしき人物には犯行時刻に自分達と一緒にいたという決定的なアリバイがあり、警察の捜査の末、浮上した別の男が呆気なく自供した事で捜査は終了。しかし後日、思わぬところから事件の真相を知る事となる。

 

『転居先不明』

 遊び人の夫がネットビジネスで一山当てたのをきっかけに、中古住宅を購入して東京に引っ越して来た夫婦。しかしそこは、過去に痛ましい事件が起きたいわくつき物件で……次々と起こる怪奇現象に隠された真実とは。

 

 

いずれも古き良き本格推理小説の匂いがする作品ばかり。

『人形師の家』は綾辻行人の『囁きシリーズ』に似たものを感じますし、『鄙』や『転居先不明』の怪奇テイストも懐かしさを感じます。

 

個人的には『家守』『埴生の宿』の全盛期の島田荘司を彷彿とさせるダイナミックな仕掛けが好きです。

昨今のライトノベルで見られるような推理小説って、手垢のついたこじんまりとしたネタをああでもないこうでもないとキャラクターやトンデモ理論でこってり味付けするような傾向があるのですが、新本格推理ブームの時代って、トリックのために大掛かりな舞台装置を作ってしまうような思い切りの良さがあったんですよねー。

建物と建物の間をロープで繋ぎ、滑車でもって死体を空中遊泳させる、とかね。

 

ある意味では馬鹿馬鹿しいの一言で切り捨てられてしまいそうですが、その馬鹿馬鹿しさこそが新本格と呼ばれた推理小説ブームの醍醐味だったりしたんだよなぁと、改めて思い知らされました。

 

それからやっぱり短編集、合間合間にキリ良く読めるし、短い中でぎゅっと物語を凝縮する独特のテクニックも必要だし、面白いですね。

しばらく短編が続きそうです。

 

 

 
 
 
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