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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『夫以外』新津きよみ

――「夢中」とは「夢の中」と書く。何かに熱中しているあいだは夢の中にいるだけで、夢から覚めたら、そこは現実。やっぱり、一番大切なのは、目の前の現実だ。

 

新津きよみ『夫以外』を読みました

またもや短編集ですね。

しかもこちらは大人の女性たちの日常を舞台としたもの。

 

あらすじとタイトルだけでほぼジャケ買いしたので特に事前情報もないのですが、とにかく中身をご紹介していきましょう。

 

 

大人の女性たちの物語

大人ってなんぞ? という疑問が湧くわけですが、本書に収められた全6編のうち、ほとんどが中高年の女性が主人公または重要な脇役として登場します。

タイトルからは比較的若い奥さんが昼ドラ的に他の男性と関係を繰り広げるドロドロとした作品をイメージしてしまいますが、ちょっと毛色が違うようです。

ただし、別の意味でドロドロとした関係やエピソードが繰り広げられるのですが……

 

以下、ざっくりとしたあらすじです。

いつものごとくネタバレは避けているつもりですが、苦手な方は読み飛ばしを。

 

『夢の中』

 昔から何事にも夢中になった事のない主人公は、ふと、長年一緒に暮らして来た夫に対しても、夢中になった覚えのないと思い出す。そんな夫が急に無くなり、主人公は遺産相続に追われる事に。対象となるのは自分の他、既に故人である夫の妹の息子。ほとんど関わり合いのない相手に遺産を譲る必要はないと忠告する友人の言葉とは裏腹に、主人公は初めて会った瞬間から、親子ほどの歳の差のある彼に夢中になってしまう。

 

 

『元凶』

 元々亭主関白だったモラハラ夫が定年を迎え、毎日家にいる生活に苦悩する主人公。息子の嫁は、そんな義母の様子に気付き、子育てを手伝ってくれる相手が欲しいという打算もあって、義母に近づこうとする。そんなある日、自転車で移動中に主人公は転倒してしまい……。

 

『寿命』

 主人公が定年退職を迎えたその日、職場に見知らぬ少女がやってくる。後日帰省した娘に聞くと、彼女は娘の不倫相手の娘だった。娘の不義を諫めるものの、娘からは自分の過去の不始末を逆になじられてしまう。主人公もまた、人には言えぬ関係の末、シングルマザーとして娘を産んでいたのである。ただし、一度は相手と結ばれる機会もあったのだが……。

 

『ベターハーフ』

 腎臓移植に悩む女性。臓器提供は三親等以内の姻族に限定されるが、彼女が腎臓を提供しようと考えているのは、別れた夫なのだ。コーディネーターとの会話の末、彼女は臓器移植のために再び婚姻関係を結ぼうとするが、物語は逆に腎臓提供後に離婚したという一組の夫婦へと変わり……。

 

『セカンドパートナー』

 父の死から一年も経たない内に、父の友人との再婚を申し出る母。娘の美沙は嫌悪感を抱くものの、交際する相手は会社の経営者。資産家の娘になると知れば、結婚にも前向きになってくれるかもしれないと算段する。一方、再婚相手にはシングルマザーとなった一人娘がおり、四者はそれぞれが異なる思惑にぎくしゃくと歪な関係を築いていく。

 

『紙上の真実』

 両親の苗字が違う事で子どもが友人からからかわれたりと、様々な問題を抱えた事実婚の夫婦の話。義母はそんな嫁を「田中さん」と苗字で呼ぶ。そんな折、雑誌の記事用のインタビューで、「姑を放置し、餓死させた冷酷な女」とあらぬ中傷を受ける一人の女性に出会う事となる。

 

 

ミステリ

読み終えてから気付きました。

本書、ミステリだったんです。

 

最近だと様々な作品にミステリ的な謎かけやひっかけを盛り込まれるのが当たり前になって、そういうもんなのかなぁと呑気に読み進めていたのですが。

 

おや、と確信的に気づいたのは最後の『紙上の真実』を読んでからでした。

おいおい、そういう事だったんかい! と。

 

まぁ少々ツッコミどころもなくはないですけどね。

さんざん夫婦別姓の自由だの姓と名のバランスだのと理由をつけるより、何より真っ先にそこに触れるでしょうが、という。

そのせいで子どもまで気まずい想いをするとか、ちょっとなぁと首を傾げてはしまったんですが。

 

ただミステリとしては上質である事は間違いありません。

一件関連性のなさそうな濡れ衣事件のエピソードも、「名前に人生まで左右される人」という点で物語に深みを与えていますし。

 

まさかミステリだったとは、全く予想外なだけに少し得した気分になりました。

 

さて、次もまた短編集に取り掛かりたいと思います。

しばらくはラノベはないかな?

 

 

 
 
 
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