洋食であろうが和食であろうが、出来合いのものはなんとなく味が似ている。味付けはものによってさまざまだけど、どれもわずかにピントがずれていて、そのずれ具合が同じなのだ。
すっかり間が空いてしまいましたが、瀬尾まいこさんの短編集『おしまいのデート』を読みました。
彼女の作品を紹介するのは『幸福な食卓』以来となります。
デートをテーマとした5つの短編集
本書に収められた作品は全てデートをテーマとしています。
いつもながら、下記に簡単なあらすじを記します。
『おしまいのデート』
表題作。両親が離婚し、母親に引き取られた主人公は毎月第一土曜、じいちゃんに会う。父さんの再婚を機に、相手はじいちゃんに変わったのだ。しかしそれも、今日で最後を迎える事になる。
『ランクアップ丼』
毎月二十四日の給料日、かつての恩師である上じいと学校近くの食堂で玉子丼を食べる。学生時代に上じいにごちそうになった分を返そうと、彼女とのクリスマスイブをすっぽかしてまで欠かさず繰り返される恒例行事。しかし最後となる二十一回目、上じいではない人物が主人公の目の前に現れる。
『ファーストラブ』
それまで疎遠だったクラスメイトの宝田に遊びに誘われる主人公。一緒に映画を見、宝田が作って来たという食べきれないほどのお弁当を食べる。男同士のデートに、主人公はどこかいたたまれない気持ちに襲われる。
『ドッグシェア』
三十を過ぎ、離婚を経て一人で暮らす私。彼女の日課は、公園に住み着いているポチに餌を与える事だった。ある日の事、ポチの側には大量の餃子が。あくる日にはエビチリが。誰が何のためにこんな事をしているのか。主人公は相手への接触を試みる。
『デートまでの道のり』
保育園で働く私は、カンちゃんの父親である脩平さんと密かに交際している。脩平さんは今度は三人で会いたいというものの、カンちゃんが心を開いてくれないうちはと拒む私。
上質な薬膳スープ
解説で、吉田伸子さんは本書を「上質な薬膳スープ」と言い表しています。
瀬尾さんの物語も同様、いつも、いつでも、読むと心にすぅ~と沁みて来る。胸の奥にぽっとあかりが灯ったようになる。どんな時でも、読み手をすっぽり包み込んでくれる。
まさに言い得て妙かな、と。
逆に言うと、わざわざお洒落をして出かける高級料理とは違います。
口に入れた瞬間、衝撃が脳髄まで駆け抜け、食後も陶然と酔い痴れてしまうような類のものではないのです。
興奮して夢中でページをめくるのではなく、その時の気分に任せて味わうように読み進める、そんな作品かなと思います。
一般的にはハラハラドキドキしながら一気読みさせられるような作品が注目されがちで、本書のような作品というのは評価されにくいのはわかっているのですが、飽きられにくく、長く読み続けられる作品と言えるでしょう。
話題になる作品って、どうしても一過性のブームになりがちですしね。一度読むと、一気に味が薄れてしまうものも少なくないですし。その点本書のような作品というのは、何度でも読み返す事ができます。
衝撃的なインパクトこそありませんが、表題作『おしまいのデート』の中で描かれる祖父と孫娘のほろ苦い空気感などは、じんわりと心に染み込んで消え難いものがあります。
皆さんも、たまにはこういった作品を手にしてみてはいかがでしょうか?