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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『かもめ達のホテル』喜多嶋隆

だから、宣伝のたぐいは、一切していない。インターネットで検索しても、出てこない。そんなうちのホテルにやってくるお客の中には、世間の目をのがれて、という場合も少なくない。ヨットのかげで風を避けているカモメたちのように……。

喜多嶋隆『かもめ達のホテル』を読みました。

 

たまたま石ノ森章太郎の『ホテル』のように、一つの施設を舞台として様々な事件が巻き起こるような連作短編ものを探していたところ、検索結果に引っ掛かったのがこちらでした。

葉山の海の側にある、隠れ家のような小さなホテル……なかなか惹かれるではありませんか。

 

初めて見る作家さんだったのでざっくり調べてみたところ、喜多嶋隆氏は1981年(昭和56年)著作 『マルガリータを飲むには早すぎる』 で小説現代新人賞受賞。以来四十年に渡り数々の作品を残して来た大ベテランだという事で、安心して読んでみる事にしました。

惜しいかな、せっかく契約したKindle Unlimitedには登録がありませんでしたので、代わりにebookjapanで半額クーポンを利用し、319円での購入となりました。

 

さて、内容に触れていきましょう。

 

 

舞台は女手一つで経営するプチホテル

舞台となるのは、葉山の海の側にある小さなホテル……とは名ばかりの、民宿・ペンション的な宿泊施設です。

元々は現在のオーナーである美咲のひいお爺ちゃんが旅館として開業したものを、祖父がホテルに建て替え。さらに父親が修行先だったホノルルのリゾートホテルを模して改装を施したというもの。

部屋数は海側・山側にそれぞれ4部屋ずつの計8室と言うのですから、ホテルというよりはまさしくペンションです。イメージ的には、一昔前に流行った“プチホテル”を名乗るペンション、もしくは別荘地によくある“オーベルジュ”といったところ。

 

従業員もオーナーである美咲の他には、昔からの友人であるマイが客室係のアルバイトとしてお手伝いしてくれるだけ。料理やサービスといった接客は、全て美咲一人でこなしているようです。

ですので物語は必然的に美咲と利用客、そこにマイを加えた三人の関係性から生まれるものとなります。

 

 

3人の訳あり客

本書の中身は三話の連作短編形式をとっていますので、例によって各章ごとにあらすじをご紹介します。

 

『たとえ18歳に戻れなくても』

最初にやってくるのは、何やら謎めいた男。大沢、と記名する様子を見ただけで、美咲は相手が偽名を使っていると察します。

さらに偽名・大沢は、葉山の海際にあるホテルでわざわざ山側の部屋を希望。ますます怪しさが募ります。

どうやら誰かを待っているのではないか、という美咲とマイの予想通り、彼は自分がゴシップ誌のスクープカメラマンであり、交際が噂される芸能人カップルを待ち伏せしている事を明かします。

そんな彼も、最初からスクープカメラマンを目指していたわけではなく、元々はもっと純粋な気持ちでカメラマンを目指していた時代があり……という一人のカメラマンの葛藤を描いた作品。

 

 

『心の翼が折れた時』

次にやってくるのは小久保という男。以前プロゴルファーを目指していたマイは、彼をひと目見るなり現役の著名なプロゴルファーであると見抜きます。

本来であればツアーを回っているはずの時期にも関わらず、ひと目を避けるように滞在を続ける小久保。

彼はクラブをうまく振れなくなるという、誰にも言えない心の病気を抱いていました。

しかもそのきっかけは、大事な大会の前、妻と事に及ぼうとした際にうまく行かなかった事――つまりインポテンツを発症したのをきっかけに、クラブを振れなくなってしまったというのです。

原因を知ったマイは「わたしが彼を治してあげる」と自信満々に言い出し、美咲もまた、「彼を誘惑するの?」と応じます。

計画は成功し、マイは小久保の部屋に泊まり込むようになります。結果として、小久保の病気は――というなかなか大胆なお話です。

 

 

『この夏も、いつかは思い出』

三人目の客は真希。同じ葉山町内に住む30代半ばの女性。

彼女は米軍基地で働くマイクとともに、度々泊りがけのデートにやってきます。

真希は米兵に日本語を教える講師の仕事をしていて、生徒としてやってきたマイクと恋に堕ちたのです。

しかし真希には、離婚調停中の夫がいました。

きっかけは夫の浮気でしたが、夫は警察に兄を持ち、少しでも自分に有利な条件を引き出すため、真希に男の気配がないかチェックしています。

真希とマイクは夫の目から逃れる隠れ家として、ホテルを利用していたのでした。

しかしある日、外国人によるコンビニ強盗事件が発生。マイクは容疑者の一人として疑いを掛けられてしまいます。

事件があった当日の夜、ホテルに泊まっていたマイクのアリバイを証明できるのは美咲と真希のみ。しかしそれは、同時に警察を通じて夫に真希の交際を教える事になってしまいます。

果たして、真希の下した決断とは――。

 

 

ex.美咲の恋人裕作の行方

三つの物語の合間合間に挿入されるのが、オーナーである美咲自身の抱えた悩み。

ホテルには度々、顔見知りと見られる警察がやってきます。美咲は冷たくあしらいますが、一体何があったのか、という点が連作短編の主題として存在しているのです。

 

美咲には昔から同じ葉山で生まれ育った恋人の裕作がいますが、彼は勤務先の上司に汚職事件の罪を被せられ、捜査の手から逃れるためにマグロ漁船を乗り継ぎ逃亡を続けています。

パスポートを使って外国に逃げたわけではないので、警察はまだ裕作が国内にいるものと信じ、きっと恋人の美咲の下へやってくるだろう、もしかしたら美咲は裕作の行方を知っているにも関わらず、隠匿しているのないかと疑いを掛けているのです。

美咲と裕作は一体どうなるのか。裕作に対する嫌疑が晴れ、美咲の下に帰って来る日は来るのだろうか、という点も見逃せないところ。

 

それ以外にも、友人であるマイの生い立ちやプロゴルファーを目指した経緯等々、短編作品のメインである宿泊客のエピソードの合間に、美咲やマイのエピソードが混ざり込んで来たりします。

それがまぁ、なかなかの分量がありまして……本作の半分は、彼女達の過去に関する話と言っても良いかもしれません。

 

 

……で、どうなの?

小説を読んだ感想で一番大事なのって、面白いか、面白くないか、という点に尽きると思います。

じゃあ本作はどうなのかというと……正直微妙でした。

 

Amazonの数少ないレビューにも散見されるのですが、やはり一番は主人公である美咲の人間性

客に対し平気でため口を使い、食事を提供した横で、それが当然の事であるかのように自分も食事を始める。マイまで引き込んで一緒になって酒を酌み交わす。客に対する態度というよりは、泊りにきた友達の相手をしているかのような振る舞いです。

外国のゲストハウスのようなイメージを書きたかったのかもしれませんが、それを葉山でやるのはちょっと違和感しかないですよね。せめてもう少し歳を重ねたマダム的な主人公ならば許されるかもしれませんが……20代そこそこの女の子の接客としてはあまりにもリアリティーを欠きます。

にも関わらず、広告もなしに芸能人が有名人が次々とやって来るという謎の人気ぶり。と言っても常に部屋は半分も埋まらず、閑古鳥が鳴くような状況。

……このホテル、なんで経営成り立ってんの? と。

 

追いかけている芸能人カップルがこのホテルに来るはずだ、と狙いを定めたカメラマンの根拠も不可解ですし、二話目に至っては、妻がいるという客に対して従業員(オーナーの親友)が公然と言い寄り関係を結ぶという目茶苦茶な倫理観。三話目に至っては、離婚協議中で夫の監視下にあるにも関わらず若い男と関係を結ぶ節操のなさ。相手が若い外国人男性である必然性もなく、おそらくその方がファッショナブルだからというイメージのみで形成されたキャラクター設定としか思えません。

別に不倫が駄目、浮気は許せない! などと声高に騒ぐつもりはないのです。江國香織の『東京タワー』はじめ、素晴らしい作品も多数ありますし。

 

ただし、本書で描かれる不貞関係はあまりにも軽いノリで、馬っ鹿じゃねーの! と悪態をつきたくなるぐらい、登場人物達は安直に禁忌を犯します。

相手が有名人だからといって、既婚男性を相手にする場合には多少なりとも葛藤や躊躇を抱いて欲しいのです。「インポが原因かもしれないから私が一発やって治るか確かめてみるわ」「頑張れー」じゃあ、今時十代二十代の若い子達でもドン引きです。

イケメン外人にいい感じに迫られたからってホイホイ身を任せるようじゃ、遅かれ早かれ旦那にバレたんじゃないの? それをあたかも悲劇の主人公かのような顔をされても、自業自得としか言いようがありません。

 

秘め事が面白いのは秘め事だからであって、公然と明るく行われても何の味わいもないのです。

 

著者の年齢が年齢だから仕方がないのかもしれませんが、全体的に時代錯誤な倫理観と昭和のファッショナブルさに彩られた、1980年代テイストの物語と理解して読むべきなのかもしれません。

 

文章の癖

喜多嶋氏の書く文章は初めて読んだのですが、非常に癖が強いという点も留意が必要かと。

 

偽名・大沢の方は、食事つきで予約していた。夕食は、6時半から。わたしは、5時半頃に厨房に入った。彼は、和食を予約していた。わたしは、小坪の漁港からきた食材で準備を始めた。きょう、メニューの中心は、天プラ。

 

短文。そして目につくのは小刻みな句読点。

なんだか片言の日本語みたいで、読みにくくないでしょうか?

 

エンジン音が消えた。運転席から、1人の男がおりてきた。若い。まだ二十代だろうか。とにかく背が高い。白いポロシャツ。ベージュのコットンパンツをはいている。彼は、あたりを見回しながら、ゆっくりと歩いてくる。ホテルの玄関を入って来た。わたしは、受付カウンターの中にいた。

 

この不思議な文章が、最初から最後まで続きます。

人によるのかもしれませんが、僕の場合はこのせいで一連の動きが頭の中で滑らかな映像にならず、コマ送りの四コマ漫画みたいになってしまいました。

特徴的な文章を書く作家さんは多数いれど、その中でも間違いなく上位に入る癖のある文章だなぁと感嘆してしまいました。

 

 

ebookjapan

さて、最後に今回初めて利用した電子書籍サービス「ebookjapan」について触れておこうと思います。

数ある電子書籍サービスの中で、「ebookjapan」はyahoo系列に属し、支払いにpaypayも利用できたりします。ほぼ日常的にクーポンが配信され、paypayの大型イベントpaypayジャンボの対象サービスになったりするのも面白いところ。

 

 

 

本書に興味は持ったけれど、Kindle Unlimitedには収録されてないし、定価で買うのはちょっと抵抗があるなぁ……と思っていたところ、ちょうど半額クーポンを持っていたので、試しに使ってみたのです。

 

そしたらまぁ驚く事に……

 

すこぶる操作性が悪い!怒

 

電子書籍アプリといえばKindle青空文庫しか使った経験がなく、マーカーを引けたり、栞を挟めたりとむしろ実本より使い勝手がいいんじゃないかぐらいに感心していたのですが、このebookjapanのアプリは全然違いましたね。

 

とにかくレスポンスが悪い。

1ページめくるごとにカクカクする。

 

これは僕が読書用に使っている旧端末のスペックが良くないせいもあるのかもしれませんが、Kindleは平気なんです。

性能の問題なのだとすれば、テキストのみのビューアーにどんだけのスペックを求めるの?

 

しかもピンチアウト・ピンチインで自由にフォントサイズを変えられるKindleと違い、フォントサイズは固定で選べるのは行間の幅と縦・横の表示。あとは背景の色のみ。

Kindleになれた身からすると、目茶苦茶使い難かったです。

 

なので今後はあまり使う事もないだろうと思います。

半額クーポンは魅力的なんですけどね。

今回同様、どうしても読みたい本がKindle Unlimitedに収録されていない場合に、使用を検討するレベルかと思います。

 

あーebookjapanで連載されている『キン肉マン』は大ファンですのでそちらは欠かさず読み続けますが。

ジェロニモ、今度もまた噛ませ役なのかなぁ。

 

 

 
 
 
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