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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『天使の囀り』貴志祐介

天使の囀りこそは、我々が待ち焦がれていた福音です。

 

貴志祐介『天使の囀り』を読みました。

貴志祐介作品を紹介するのは『青の炎』以来になります。

 


上記記事を一読いただければ一目瞭然ですが、映画化もされたベストセラー『青の炎』に関してはさっぱり僕には合いませんでした。

なのであまり貴志祐介という作家にいい印象はなかったのですが、Kindle Unlimitedで面白いホラー小説はないかと探したところ、本作を推している方が多かったようなので読んでみることにしました。

 

『天使の囀り』……正直、あまり聞き覚えのあるタイトルではありませんが。

 

 

アマゾン調査隊と不思議な猿の話

冒頭は一人の男性から送られてくる手紙形式で始まります。

男性はアマゾンの調査隊に参加しており、そこで見聞きした新鮮な驚きや感動をそのまま伝えようとしている様子。

食料は主に現地調達しているという調査隊ですが、用意しておいた食料の大半を手違いにより失ってしまい、腹を空かせているところに一匹の猿が現れます。

猿を捕まえ、分け合って食べる面々。

飾り気のない文面に記された頭だけは誰も食べなかった……という一文に、どこか薄気味悪さを感じさせます。

ところが戻って来た調査隊に対し、それまでは友好的だったはずの現地住民が突如敵対心を露わにします。

このままでは大変な事になってしまう――という大事なところで手紙は途切れてしまいました。

 

恋人の無事を祈る北嶋早苗の前に、ある日ひょっこり張本人である高梨が姿を現します。

どうやら無事帰国を遂げたようです。

しかし、久しぶりに会った彼は以前とはどこか違っていて……とんでもない量の食事を平らげる大食漢に、旺盛な性欲。さらにあんなに怯えていた死に対してさえ180°変心したような姿勢を見せます。

一体彼に何があったのか。

そして彼はどうなるのか。

ひたひたと恐怖の波が押し寄せてくるのを感じます。

 

 

天使の囀りの正体

天使の囀りとは、帰国後の高梨が見る幻覚症状に他なりません。

彼の耳には無数の天使が羽ばたくような幻聴が聞こえるのです。

そうした時、彼は甘美な陶酔感に酔いしれるようになります。

 

帰国後、異常な食欲を示す高梨は早苗と会う度に肥大化していきます。

また、彼女の職場内で性交渉を求めたりと、異常な行動も目立ち始めます。

さらには誰よりも死を恐れていたはずの高梨の書斎には、大量の自殺を扱った本や人が死ぬシーンばかりを集めた発禁の映像集まで。

やがて高梨はホスピスに勤務する早苗のデスクから、勝手に大量の睡眠薬を持ち出します。

彼は早苗の忠告も無視して大量の睡眠薬をアルコールとともに摂取し、あえなく自死を遂げてしまうのです。

 

高梨の死に違和感を抱いた早苗は、アマゾン調査隊のメンバーや主催社に連絡を取ることに。

そうして調査隊に参加したメンバーの中には高梨以外にも謎の不審死を遂げている人間がおり、さらに似たような原因不明の自殺はアマゾン調査隊には全く関連性のない市中にも起きている事を知るのです。

 

 

おぞましい

本書は角川ホラー文庫から発行されているホラーカテゴリーに分類される作品です。

しかしながら本書から得られるのは単純な怖さやスリルといったものではありません。

的確に当て嵌まる言葉をあげるとすれば、おぞましいというもの。

ただただ、とにかくおぞましい。

 

天使の囀りがなんなのか。

高梨らを死においやっている存在がなんなのか。

 

その正体を知った時点で、非常に気分が悪くなります。

終盤に向けて早苗らがその正体を突き止め、分析を重ね、彼らのアジトと思われる場所に向かう段に至っては、あまりのおぞましさにページをめくるのが嫌になるぐらいです。

 

気分が悪いと言っても、綾辻行人『殺人鬼』のようなグロテスクな気持ち悪さとはまた違ったおぞましさ。

具体例をあげれば、飲み物や食事など、今まで無意識に行っていたはずの食べ物や飲み物を口に運ぶという何気ない動作にすら、躊躇を覚えるようになります。

そこに何か、得体の知れないものが存在しているんじゃないかと怯えずにはいられないのです。

 

想像していたホラーとは全く異なりますが、このようなおぞましさを味わう事になるとは思いもしませんでした。

良い意味でまた読み返そうとは思えない、凄まじい作品でした。

貴志祐介という作者を見直した気分です。

 

このぐらいのインパクトが楽しめるのならぜひとも他の作品も読んでみたくなりますね。

 

 

 
 
 
 
 
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