『#拡散忌望』最東対地
わたしと一緒にドロリン、しチョ?
最東対地『#拡散忌望』を読みました。
今回もKindle Unlimitedの中から何か良さげな作品はないかなと探していたところ、たどり着いた作品です。
その題名の通り、どうやらスマートフォン・SNSなどを題材としたホラー小説のよう。
実はちょうどこういう作品を探していました。
というのもホラー映画・小説の名作『リング』も発行は1991年。もう三十年も前の作品なんですね。
古くから形や名前を変えて存在してきた「呪いの手紙」を現代風(当時)にビデオテープとして置き換え、全国を恐怖に陥れた古典中の古典。
『リング』の成功は、多くの人々が現実にあり得そうな身近なものとして受け止められたのが一番の要因だと思います。実際に「呪いのビデオ」やそれに似たタイトルのオカルトビデオは次々と発売され、レンタルビデオ店では常に貸し出し中になるような盛況ぶりを見せていました。
「呪いの手紙」→「呪いのビデオ」へと時代に合わせて進化を遂げたように、今後多くの人々を恐怖に震え上がらせる作品に欠かせないものは、間違いなくスマートフォンやSNSの存在だと思います。それらの存在こそが、現代生活においては切っても切り離せない身近なツールだからです。
その一例として『スマホを落としただけなのに』も大きなヒット作品になりました。
さて、前置きが長くなりましたが、本書はそんなスマートフォンやSNSを軸に呪いが伝播していくという僕が望んでいた通りの作品。
あまり売れている様子がないのが気にはなりますが……それでは中身についてご紹介していきましょう。
呪いのツイート
カラオケボックスで盛り上がる高校生達のスマホが一斉に鳴り、それぞれに一つのツイートが送られてきます。
《ドロリンチョ@MWW779
ひ」お「s6.smq@あv7ひyw@g。つ≫
添付されているのはその中の一人透琉。
集合写真を無理やり切り抜いたようなアップの写真は、少しずつ赤味を帯びていきます。
そして――突如目、鼻、口からピンク色のどろどろした液体を吹き出す透琉。
湯気を放つそれは、透琉の脳みそや内臓などが液状化して飛び出したものなのでした。
透琉は病院に運ばれ、一命こそ取りとめますが鼻も口も溶け落ちたまま、ただ生きているだけという状態に陥ってしまいます。
数日後、今度は同じようなツイートがるいの写真とともに配信され、るいもまた、透琉と同じ無惨な姿へと変貌してしまいます。
呪いへの対抗手段
対抗手段はたった一つ。
該当ツイートを、100回リツイートさせること。
それによりツイートは消え、呪いの餌食になる事を避けられるのです。
とはいえ高校生達の間に、そう簡単に100回もリツイートをさせられるようなアカウントを持つ人間はいません。
しかし、主人公である尚には可能です。
尚が自分のアカウントで拡散すれば、すぐさまリツイート数は100を超えるのでした。
高校二年という中途半端な時期に転校してきた尚は、実は炎上アカウントの持ち主。
以前のアルバイト先で俗に「バカッター」と呼ばれるようなツイートを繰り返し、炎上してきた秘密の過去があったのです。
しかし繰り返される呪いに、次第に尚の炎上アカウントも効力を失い始めます。
さらに対象者が二度目のツイートの場合、前回リツイート数を見たした段階、つまり途中から最スタートになるというハンデを背負う事がわかります。
ドロリンチョの呪いはどうやったら解けるのか。
尚たちは、呪いが生まれた原因を突き止め、呪いそのものを止めようとします。
設定ありき、が透けて見える
……とまぁ上記がざっくりとしたあらすじでして、この後次々と犠牲者が増える中、彼らが過去に背負った罪や、隠していた裏の顔等が暴かれていくわけです。
ある意味では推理小説・サスペンス仕立てとも言えるでしょう。
ただし……はっきり書いてしまえば、面白みのようなものは皆無ですね。
リツイートで回避できる、という仕掛けもあくまで設定ありきのもので、それにより呪いが回避できる理由もこじつけ以下のレベルでしかありませんし。
SNSの仕掛けそのものが設定ありきなんですよね。
原因となる呪う側からすると、SNSを使う必然性がない。
恨みを晴らすべく怨霊となって関係者を呪うにしては、いちいち次の犠牲者を指定したり、リツイートされる間待っていてあげたりと、あまりにもまどろっこしいやり方だなぁ、と。
一番恨み深い相手からターゲットにするならともかく、大して当たり障りなさそうなモブキャラが餌食になっていくあたりもいかにもご都合主義ですし。後出しじゃんけんのごとく途中から呪いのルールが変わっていくのも、恐怖というよりはやっぱりご都合主義にしか感じられない。
主人公である尚のバカッター設定も、あくまで「呪いを回避するために強い拡散力を持つアカウント」の為に裏付けされただけであって、それ以上の深みもないですし。
ヒロインとの関係性も特に何かきっかけがあったわけでもなく、やはり設定ありきでいつの間にか相思相愛になっていたりします。
結局のところ、同級生にひどいイジメをしていた連中に襲い掛かる呪いを、転校してきた元バカッターが一緒になって立ち向かうという話に終始するだけなんですよね。
イジメた子達の間に良心の呵責みたいなものがかけらも描かれない点も見逃せないところ。
読者側からすると、彼らがどんな目に遭ったとしても、自業自得だろうなーぐらいにしか思えないのです。
誰にも感情移入する事もできないまま、ただただB級スプラッター以下の「ピンクの肉汁が目や口や鼻や耳から噴き出た!」的なグロいシーンが繰り返されるだけでしかありません。
最終的に呪いの原因そのものを解く方法としてたどり着いた結論が「被害者であるイジメられっ子に謝罪する」だったのも完全に肩透かしですし。
しかも謝罪したのはイジメた本人ではなく、まるで無関係な人間。
もしこれで「謝って貰えたから許します。もう気が済みました」なんてエンディングを迎えていたらと思うとゾッとします。
せっかく現代的な要素を取り入れたところで、こうご都合主義と浅い設定ありきになってしまうと台無しですね。
設定は決して悪くないので、そこにしっかりとした整合性や物語としての深みを生み出せれば、良作にもなり得たと思うのですが……なかなか難しいものです。
面白い現代風のホラー……読みたいなぁ。