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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『#拡散忌望』最東対地

わたしと一緒にドロリン、しチョ?

 

最東対地『#拡散忌望』を読みました。

今回もKindle Unlimitedの中から何か良さげな作品はないかなと探していたところ、たどり着いた作品です。

 

その題名の通り、どうやらスマートフォンSNSなどを題材としたホラー小説のよう。

 

実はちょうどこういう作品を探していました。

というのもホラー映画・小説の名作『リング』も発行は1991年。もう三十年も前の作品なんですね。

古くから形や名前を変えて存在してきた「呪いの手紙」を現代風(当時)にビデオテープとして置き換え、全国を恐怖に陥れた古典中の古典。

 

『リング』の成功は、多くの人々が現実にあり得そうな身近なものとして受け止められたのが一番の要因だと思います。実際に「呪いのビデオ」やそれに似たタイトルのオカルトビデオは次々と発売され、レンタルビデオ店では常に貸し出し中になるような盛況ぶりを見せていました。

「呪いの手紙」→「呪いのビデオ」へと時代に合わせて進化を遂げたように、今後多くの人々を恐怖に震え上がらせる作品に欠かせないものは、間違いなくスマートフォンSNSの存在だと思います。それらの存在こそが、現代生活においては切っても切り離せない身近なツールだからです。

その一例として『スマホを落としただけなのに』も大きなヒット作品になりました。

 

さて、前置きが長くなりましたが、本書はそんなスマートフォンSNSを軸に呪いが伝播していくという僕が望んでいた通りの作品。

あまり売れている様子がないのが気にはなりますが……それでは中身についてご紹介していきましょう。

 

 

呪いのツイート

カラオケボックスで盛り上がる高校生達のスマホが一斉に鳴り、それぞれに一つのツイートが送られてきます。

 

《ドロリンチョ@MWW779

  ひ」お「s6.smq@あv7ひyw@g。つ≫

 

添付されているのはその中の一人透琉。

集合写真を無理やり切り抜いたようなアップの写真は、少しずつ赤味を帯びていきます。

そして――突如目、鼻、口からピンク色のどろどろした液体を吹き出す透琉。

湯気を放つそれは、透琉の脳みそや内臓などが液状化して飛び出したものなのでした。

 

透琉は病院に運ばれ、一命こそ取りとめますが鼻も口も溶け落ちたまま、ただ生きているだけという状態に陥ってしまいます。

 

数日後、今度は同じようなツイートがるいの写真とともに配信され、るいもまた、透琉と同じ無惨な姿へと変貌してしまいます。

 

 

呪いへの対抗手段

対抗手段はたった一つ。

該当ツイートを、100回リツイートさせること。

それによりツイートは消え、呪いの餌食になる事を避けられるのです。

 

とはいえ高校生達の間に、そう簡単に100回もリツイートをさせられるようなアカウントを持つ人間はいません。

しかし、主人公である尚には可能です。

尚が自分のアカウントで拡散すれば、すぐさまリツイート数は100を超えるのでした。

 

高校二年という中途半端な時期に転校してきた尚は、実は炎上アカウントの持ち主。

以前のアルバイト先で俗に「バカッター」と呼ばれるようなツイートを繰り返し、炎上してきた秘密の過去があったのです。

 

しかし繰り返される呪いに、次第に尚の炎上アカウントも効力を失い始めます。

さらに対象者が二度目のツイートの場合、前回リツイート数を見たした段階、つまり途中から最スタートになるというハンデを背負う事がわかります。

ドロリンチョの呪いはどうやったら解けるのか。

尚たちは、呪いが生まれた原因を突き止め、呪いそのものを止めようとします。

 

 

設定ありき、が透けて見える

……とまぁ上記がざっくりとしたあらすじでして、この後次々と犠牲者が増える中、彼らが過去に背負った罪や、隠していた裏の顔等が暴かれていくわけです。

ある意味では推理小説・サスペンス仕立てとも言えるでしょう。

 

ただし……はっきり書いてしまえば、面白みのようなものは皆無ですね。

リツイートで回避できる、という仕掛けもあくまで設定ありきのもので、それにより呪いが回避できる理由もこじつけ以下のレベルでしかありませんし。

SNSの仕掛けそのものが設定ありきなんですよね。

原因となる呪う側からすると、SNSを使う必然性がない。

恨みを晴らすべく怨霊となって関係者を呪うにしては、いちいち次の犠牲者を指定したり、リツイートされる間待っていてあげたりと、あまりにもまどろっこしいやり方だなぁ、と。

 

一番恨み深い相手からターゲットにするならともかく、大して当たり障りなさそうなモブキャラが餌食になっていくあたりもいかにもご都合主義ですし。後出しじゃんけんのごとく途中から呪いのルールが変わっていくのも、恐怖というよりはやっぱりご都合主義にしか感じられない。

主人公である尚のバカッター設定も、あくまで「呪いを回避するために強い拡散力を持つアカウント」の為に裏付けされただけであって、それ以上の深みもないですし。

ヒロインとの関係性も特に何かきっかけがあったわけでもなく、やはり設定ありきでいつの間にか相思相愛になっていたりします。

 

結局のところ、同級生にひどいイジメをしていた連中に襲い掛かる呪いを、転校してきた元バカッターが一緒になって立ち向かうという話に終始するだけなんですよね。

イジメた子達の間に良心の呵責みたいなものがかけらも描かれない点も見逃せないところ。

読者側からすると、彼らがどんな目に遭ったとしても、自業自得だろうなーぐらいにしか思えないのです。

誰にも感情移入する事もできないまま、ただただB級スプラッター以下の「ピンクの肉汁が目や口や鼻や耳から噴き出た!」的なグロいシーンが繰り返されるだけでしかありません。

 

最終的に呪いの原因そのものを解く方法としてたどり着いた結論が「被害者であるイジメられっ子に謝罪する」だったのも完全に肩透かしですし。

しかも謝罪したのはイジメた本人ではなく、まるで無関係な人間。

もしこれで「謝って貰えたから許します。もう気が済みました」なんてエンディングを迎えていたらと思うとゾッとします。

 

せっかく現代的な要素を取り入れたところで、こうご都合主義と浅い設定ありきになってしまうと台無しですね。

設定は決して悪くないので、そこにしっかりとした整合性や物語としての深みを生み出せれば、良作にもなり得たと思うのですが……なかなか難しいものです。

 

面白い現代風のホラー……読みたいなぁ。

 

 

 
 
 
 
 
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『天使の囀り』貴志祐介

天使の囀りこそは、我々が待ち焦がれていた福音です。

 

貴志祐介『天使の囀り』を読みました。

貴志祐介作品を紹介するのは『青の炎』以来になります。

 


上記記事を一読いただければ一目瞭然ですが、映画化もされたベストセラー『青の炎』に関してはさっぱり僕には合いませんでした。

なのであまり貴志祐介という作家にいい印象はなかったのですが、Kindle Unlimitedで面白いホラー小説はないかと探したところ、本作を推している方が多かったようなので読んでみることにしました。

 

『天使の囀り』……正直、あまり聞き覚えのあるタイトルではありませんが。

 

 

アマゾン調査隊と不思議な猿の話

冒頭は一人の男性から送られてくる手紙形式で始まります。

男性はアマゾンの調査隊に参加しており、そこで見聞きした新鮮な驚きや感動をそのまま伝えようとしている様子。

食料は主に現地調達しているという調査隊ですが、用意しておいた食料の大半を手違いにより失ってしまい、腹を空かせているところに一匹の猿が現れます。

猿を捕まえ、分け合って食べる面々。

飾り気のない文面に記された頭だけは誰も食べなかった……という一文に、どこか薄気味悪さを感じさせます。

ところが戻って来た調査隊に対し、それまでは友好的だったはずの現地住民が突如敵対心を露わにします。

このままでは大変な事になってしまう――という大事なところで手紙は途切れてしまいました。

 

恋人の無事を祈る北嶋早苗の前に、ある日ひょっこり張本人である高梨が姿を現します。

どうやら無事帰国を遂げたようです。

しかし、久しぶりに会った彼は以前とはどこか違っていて……とんでもない量の食事を平らげる大食漢に、旺盛な性欲。さらにあんなに怯えていた死に対してさえ180°変心したような姿勢を見せます。

一体彼に何があったのか。

そして彼はどうなるのか。

ひたひたと恐怖の波が押し寄せてくるのを感じます。

 

 

天使の囀りの正体

天使の囀りとは、帰国後の高梨が見る幻覚症状に他なりません。

彼の耳には無数の天使が羽ばたくような幻聴が聞こえるのです。

そうした時、彼は甘美な陶酔感に酔いしれるようになります。

 

帰国後、異常な食欲を示す高梨は早苗と会う度に肥大化していきます。

また、彼女の職場内で性交渉を求めたりと、異常な行動も目立ち始めます。

さらには誰よりも死を恐れていたはずの高梨の書斎には、大量の自殺を扱った本や人が死ぬシーンばかりを集めた発禁の映像集まで。

やがて高梨はホスピスに勤務する早苗のデスクから、勝手に大量の睡眠薬を持ち出します。

彼は早苗の忠告も無視して大量の睡眠薬をアルコールとともに摂取し、あえなく自死を遂げてしまうのです。

 

高梨の死に違和感を抱いた早苗は、アマゾン調査隊のメンバーや主催社に連絡を取ることに。

そうして調査隊に参加したメンバーの中には高梨以外にも謎の不審死を遂げている人間がおり、さらに似たような原因不明の自殺はアマゾン調査隊には全く関連性のない市中にも起きている事を知るのです。

 

 

おぞましい

本書は角川ホラー文庫から発行されているホラーカテゴリーに分類される作品です。

しかしながら本書から得られるのは単純な怖さやスリルといったものではありません。

的確に当て嵌まる言葉をあげるとすれば、おぞましいというもの。

ただただ、とにかくおぞましい。

 

天使の囀りがなんなのか。

高梨らを死においやっている存在がなんなのか。

 

その正体を知った時点で、非常に気分が悪くなります。

終盤に向けて早苗らがその正体を突き止め、分析を重ね、彼らのアジトと思われる場所に向かう段に至っては、あまりのおぞましさにページをめくるのが嫌になるぐらいです。

 

気分が悪いと言っても、綾辻行人『殺人鬼』のようなグロテスクな気持ち悪さとはまた違ったおぞましさ。

具体例をあげれば、飲み物や食事など、今まで無意識に行っていたはずの食べ物や飲み物を口に運ぶという何気ない動作にすら、躊躇を覚えるようになります。

そこに何か、得体の知れないものが存在しているんじゃないかと怯えずにはいられないのです。

 

想像していたホラーとは全く異なりますが、このようなおぞましさを味わう事になるとは思いもしませんでした。

良い意味でまた読み返そうとは思えない、凄まじい作品でした。

貴志祐介という作者を見直した気分です。

 

このぐらいのインパクトが楽しめるのならぜひとも他の作品も読んでみたくなりますね。

 

 

 
 
 
 
 
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『ヴンダーカンマー』星月渉

 でも、北山君が言う通り、郷土資料研究会が、唯香のヴンダーカンマーなのだとしたら……。

 もしかしたら、唯香は人殺しを集めていたんじゃないだろうか?

 

星月渉『ヴンダーカンマー』を読みました。

出版元は竹書房といいます。

あまり聞かない名前だな、と思ったら、元々は麻雀雑誌の出版から始まった割と後発かつニッチなジャンルの雑誌・漫画・小説等幅広い形式で出版している会社だそうです。

 

上にニッチと書きましたが、竹書房が力を入れているジャンルの一つにホラーが挙げられるようです。

竹書房怪談文庫なるレーベルも立ち上げていまして、その名の通り古くから伝わる怪談やいわゆる怖い話を集めた短編集等々、かなりの数の本を出版しているようです。

角川や新潮といった大手出版社は本格的なホラーから手を引き始め、昨今ではホラーとは名ばかりのあやかし系ライトノベルばかりが書店の棚を占めるようなイメージだったのですが……そういう隙間産業に入り込んでいくあたりが、小さな出版社の面白いところですね。

 

最近山登りに関する怪談系の作品を読んでいたので、ホラーつながりでKindleUnlimitedのおすすめに出てきたのでしょう。

ちょっと調べてみたところ本書、小説投稿サイト「エブリスタ」上で行われた第1回最恐小説大賞なるコンテストの受賞作だそうです。

 

……エブリスタか。

 

以前5分シリーズなる短編集を読み、良くも悪くも玉石混交の印象がありましたので、受賞作とはいえ期待値としては上がりも下がりもしないのですが……とにもかくにも、読んだ感想を記していきたいと思います。

 

 

ヴンダーカンマーとは?

まずは内容に入る前に、題名の意味からご説明したいと思います。

ヴンダーカンマーとは、ドイツ語で「驚異の部屋」を意味するそうです。

 

驚異の部屋 - Wikipedia

 

様々な珍品を集めた博物陳列室。

簡単に言えば、コレクターズルーム的意味だと思えばいいでしょうか。

 

自分のお気に入り、または気になったものだけを集めた蒐集部屋。

その意味するところについては、本書を読み進めるに従って次第に明らかになる事でしょう。

 

 

六人六章立ての物語

本書の章立ては、なかなか物珍しいものがあります。

 

  1. 北山浩平
  2. 東陸一
  3. 南条拓也
  4. 西山緋音
  5. 渋谷美香子
  6. 渋谷唯香

 

章のタイトルとなった六人それぞれの視点で、物語は紡がれていきます。

1章である北山少年は、”みなさん”と誰かに向けて語り掛けます。

そこで明かされるのは彼自身の凄惨な生誕の経緯と、渋谷唯香が何者かに殺され、集められたそれぞれと何かしらの秘密を抱えていただろうという事です。

 

渋谷唯香を殺したのは誰なのか。

彼女との間に、一体何があったのか。

 

それぞれの視点から追っておく半オムニバス形式の作品となっています。

 

 

不快感全快のイヤミス

本書をカテゴライズするのであれば、イヤミスと言う事になるのでしょう。

後味悪く、読んで嫌な気持ちになるミステリー。

 

本書で描かれる六人は、彼らを取り巻く人々も含めて、非常に特殊な環境に置かれています。

その最たるものとして南条拓也を例に挙げれば、彼の唯一の身寄りであり、母親は知的障がい者です。

しかも彼女は、売春によってお金を得、日々の生活の糧としています。

誰かに騙されたり、嫌々ながらというわけでもなく、彼女自身がセックス好きで、楽しんでやっているのです。

母親が仕事をしている間、拓也は押入れの中で終わるのを待ちます。

母親が知らぬ男に抱かれ、歓びの声をあげるのを暗闇の中で聞き続けるのです。

 

……ね? すごく嫌でしょ(笑)

 

登場人物達はみな高校生ぐらいの年頃ですが、描かれる嫌らしさの大半は性に関するものです。それがまた悩ましい。

物語全体のテーマとして性に触れないわけにはいかないのですが、やはりなんとも気分が悪いものです。

 

ですから本書は最恐小説大賞受賞作と言ってもオバケやオカルト的なホラー小説ではありません。

ひたすらに不快感だけで埋め尽くされたイヤミス、というのが本来の姿なのです。

 

 

そこからもたらされるもの

イヤミスである以上、問題となるのは不快感と引き換えに読者にもたらされるのは何なのか、という点でしょう。

鮮やかな謎解きであったり、ざまぁみろと快哉を叫びたくなるようなどんでん返しであったり、そういったカタルシスがあるからこそ、不快感に意味がある。

 

ところが本書……困った事にそれがない。

読んだからといって何もないのです。

 

登場人物が順々に過去を語っていきます。

どれもこれも、目を覆いたくなるような最悪の事態です。

全員、生まれながらにして不幸を運命づけられたとしか思えません。

もちろんそれこそが作者の狙いだったのでしょうけれど。

 

しかし最終的に渋谷唯香の口から全てのエピソードが語られたところで、バラバラだった時系列や出来事がなんとなく繋がったかなぁという感想に終わるだけ。

イヤミス、とは言いましたが、犯人の手がかりは全くなく、読者側で犯人探しを楽しめるような作品でもないですし。

 

あぁ、そうだったんですね。なるほどねー。

 

としか感想の述べようがないのです。

 

 

目立つ現実離れとちぐはぐさ

読んでも何もない……と書きましたが、そもそもどれもこれもが現実離れし過ぎている、という点も見過ごせません。

これは第二章である東陸一の時点から察する事ができます。

名家の御曹司として将来を約束され、周囲からはリッチーと呼ばれるという恵まれた環境に生まれ育った少年。

そして彼の姉である園美。

 

しかしながら陸一にも園美にも、全くもってそのプロフィールに見合うような人間性が伝わって来ません。

まずそんな家柄の少年は、自分の姉を「ねえちゃん」とは呼びませんしね。

特に家柄の良さを彷彿とさせるような場面もありません。

著者にとっては「日当たりのよい十二畳の部屋」と「シャインマスカット」が裕福の象徴なのでしょうか?

 

ホストに貢ぐように、ただ好きだからと理由だけで唯香に数百万の金をつぎ込む園美はただの愚か者にしか思えません。名家の娘で見た目も美しいようなのですが、高校を卒業して社会人になるぐらいまでの人生の中で、恋愛経験は一度も無かったのでしょうか。どうしてそこまで唯香という一人の同性の少女に溺れてしまったのでしょうか。そのあたりの説得力も皆無です。

 

なんだか特別な理由がありそうな〈郷土歴史研究会〉も名前として登場するだけで活動は特になし。

ただ唯香が他の四人と母親である教師を所属させるためだけに作ったようです。

それがヴンダーカンマー???

同好会に所属させるのが???

いまいち意図が掴めません。

 

本書、上記のように現実離れした設定や人物像、意味がありそうで全くないフレーズ等々があまりにも多すぎて、読んでいてちぐはぐさを感じます。

さらに登場人物達は「そうはならんやろ!」と思わず突っ込みたくなるような言動をするので、読めば読む程混乱してしまうのです。

 

あんまり書くとネタバレになってしまうので難しい所ですが……あまりにも不可解な点も多かったため、再整理の意味も含めて下記にまとめていきたいと思います。

完全にネタバレの内容を含みますので、未読の方、これから読もうという方はご注意下さい。

 

※↓↓↓以下ネタバレ※

 

 

『北山耕平』

 初めに登場するのは北山耕平。

 彼は”みなさん”、と誰かに向かって語り掛けます。

 その口から語られるのは、彼と東陸一、南条拓也、西山緋音の四人は、渋谷美香子に誘われて〈郷土資料研究会〉なる同好会に所属していたこと。

 さらに彼らを誘った張本人である渋谷美香子は既に校内で何者かに殺害されたことがわかります。四人はその場に立ち会っており、東はその容疑者として、警察に拘束されている。

 衝撃的な事に、渋谷美香子は妊娠中であり、子宮がとり除かれるという無惨な殺され方をしていました。

 北山は渋谷の遺した手帳を餌に”みなさん”を呼び出しました。

 そうして彼は、自らの出生の秘密を語ります。

 彼の母もまた、身籠っているさ中殺害され、彼は殺害犯によって胎内から取り出される事で生を受けたというのです。おそらく、彼の父親の手によって。

 母と美香子の殺され方に類似性を見た北山は、全ての真実を知りたいという想いだけで、“みなさん”を呼び出したのでした。

 

 

『東陸一』

 第二章は東陸一。

 地域の中でも名家の御曹司である陸一は、生まれながらにして跡を継ぐ事が決められています。

 そんな彼が慕ってやまないのが姉の園美。

 彼女は高校を卒業した後、父のコネによってジュエリーショップに就職。品行方正で慎ましい性格の園美でしたが、ある日一人暮らしがしたいと両親に持ち掛けます。

 陸一は度々理由をつけては姉の部屋を訪れますが、どうやら恋人がいるらしいと察し至り、ショックを受けます。

 ところがほんの数ヶ月で、預金通帳に蓄えられていたはずの大金を使い込んでしまい、両親は激高。使った先を問われても、園美は頑として口を割りません。

 迎えた中学校卒業式の日――帰宅した陸一が見たのは、脇差で自らの腹を切り裂いた血だらけの姉の姿でした。

 しかし世間体を気にした両親は姉の死を公にせず、駆け落ちして姿を消した事にする、と陸一に告げます。

 

 園美が死んだ理由を探る陸一は姉が腹違いの子どもだった事を知り、渋谷唯香と何らかの関わりがあった事を知ります。

 唯香のスマホを盗み、中身を調べようとする陸一ですが――唯香には全てお見通しでした。

 陸一は唯香の口から、唯香こそが園美の恋人であったと知らされます。

 さらに園美が死んでいるという秘密すらも唯香は知っているというのです。

 陸一に対し、唯香は一つの動画を見せます。

 それは園美の死の一部始終が撮影された動画でした。

 その中には発見した陸一や、その後園美の遺体をバラバラにする両親の姿が残っていたのです。

 弱味を握られた陸一達家族は、その日以来唯香に這いつくばる奴隷と化したのでした。

 

 

『南条拓也』

 特待生である拓也は、父親も他の身寄りもない中で、知的障害の母親一人の手によって育てられたという異色の生い立ちを持っています。

 しかも母親のしいちゃんは、売春によって生活を成り立たせているのです。

 障害を持つしいちゃんは売春に対する罪悪感など全くありません。他の売り子のようにNGもないため、グループの中では常にナンバーワンの人気を誇っています。

 さらに子供のような無邪気さで、セックスそのものが好き。

 そのため拓也が生活保護の需給を訴えても、どんなに辞めさせようとしても、しいちゃんは売春をやめようとはしません。

 そんなしいちゃんを止めるために、拓也は決意を固めます。

 自ら母親であるしいちゃんの相手となるのです。

 

 そうしてしいちゃんは売春を辞めるのですが……ある日、売春仲間の女の子カオリンが遊びにやって来ます。

 数日後、新入生代表としてあいさつに立った少女の顔を見て拓也は驚きます。

 彼女こそカオリン――渋谷唯香だったのです。

 やがて拓也は再びしいちゃんが売春を再開した事に気付きます。拓也が大学に進学したら、しいちゃんを捨てて家を出ると誰かに吹き込まれたようです。

 口論の末、拓也は衝動的にしいちゃんの首を絞めて殺害してしまいます。

 そこに現れたのは唯香。

 呼びつけた二人の男女に命じ、お風呂場でしいちゃんの遺体をバラバラに解体させます。

 そうしてしいちゃん殺害の事実は、闇に葬られてしまったのでした。

 

 

『西山緋音』

 緋音の母は、西山家の後継ぎとして緋音に婿をもらうよう常々言っています。

 なぜか娘がブラジャーを着けているのが気に食わず、ブラジャーを見つけるとハサミで切り裂いてしまうという不思議な思考の持ち主です。

 なんとかしてブラジャーを手に入れたいと考えた緋音は、万引きによってブラジャーを手に入れるようになります。

 いつものようにブラジャーを選んでいたところ、知らない女の子に声を掛けられる緋音。その相手こそ、渋谷唯香です。

 万引きGメンに狙われているのに気づき、緋音を助けてくれたのでした。

 唯香からアルバイトを持ち掛けられた緋音は、早速援デリのやりとり代行等をするようになります。

 そんなある日の事、帰り道でクラスメイトに強姦される緋音。相手は母が婿養子にと望み、緋音が常日頃から毛嫌いする本家の三男坊でした。

 それからは緋音自身も売春に手を染めるようになります。

 自分よりも人気だというしいちゃんに嫉妬し、「息子は大学に行くからしいちゃんなんて捨てられる」と吹き込んだのも緋音でした。

 ある日ブラジャーを探して母の部屋へ忍び込んだ緋音は、タンスの中から母の日記を見つけます。それは緋音の生理の周期等について細かくチェックした恐るべき記録でした。

 緋音が強姦された日には、排卵日の文字が。それにより本家の三男坊に緋音を襲うようけしかけたのは、緋音の母親だったと気づきます。

 激昂した緋音は、寝ている母親を殺害し、ネットで買ったという大型の冷凍庫の中に隠します。

 

 

『渋谷美香子』

 彼女は同じ教師であった英雄と出会います。英雄は彼女が教員免許を持たずに教壇に立っているという秘密を握っており、半ば強引に美香子と関係を結びました。

 美香子が嫁いだ渋谷の家は、嫁を人とも思わぬ鬼のような姑のいる家でした。

 三年子なきは去れ。

 子供が欲しいと願う美香子ですが、なかなか身籠る事ができません。

 そんな美香子の前に、突然英雄が一人の赤ん坊を連れ帰ります。

 自分の子どもだから、うちで育てようというのです。

 それが唯香でした。

 その後美香子自身も身籠りますが、姑は「明日始末しなさい」と言い放ちます。唯香がいればそれでいい、というのです。

 計三度も堕胎し、四度目の妊娠になった頃には姑も始末しろとは言わなくなりました。唯香が姑の思う通りに育たなかったからです。

 今度こそ産めると喜んだ美香子でしたが、唯香はわざと階段にリンスをぶちまけ、美香子を転倒させることでお腹の中の子どもを殺します。

 

 美香子と唯香の、歪んだ母娘関係が明らかになります。

 

 やがて英雄の失踪を気に、美香子は渋谷の家を出ると決めます。しかし、唯香もまた、一緒に連れて行けとせがみます。

 断る美香子を、唯香は「だったらあの子を殺す」と脅します。

 後に自ら命を絶った東陸一の姉――陸一とは腹違いの姉だという彼女の母親こそが、美香子なのです。

 美香子は陸一の父・世一と関係を結び、子どもを産みましたが結婚は許されませんでした。東の家に取り上げられた園美を影ながら見守るため、という理由で美香子はこの町にやってきたのです。

 

 唯香の死後――自分達を呼び出した北山耕平に対し、美香子は驚きの事実を告げます。唯香と耕平は、二卵性双生児だというのです。

 耕平の母親である鈴子の腹から取り出されたのは、耕平だけではなく唯香も一緒だった。そのうち唯香だけを、英雄が家へ連れ帰ったのだろう。

 さらに美香子は、唯香を殺したのは耕平であり、唯香の子の父親もまた、耕平だと指摘します。DNA鑑定でバレるのが怖くて、腹を切り裂いたのだと。

 

 

『渋谷唯香』

 唯香は一度目にした光景をそっくりそのまま記憶するカメラアイという特殊能力を持ち、さらに、一度記憶したものは決して忘れることはないという才能を持っています。

 胎児の頃から記憶を有する彼女は、自分達を生んだ母親鈴子が自らの意で自分達を宿したのではない事を知っています。彼女はむしろ英雄の子である双子を生みたくない、どうにかして殺したいと願っていたのです。しかし英雄はそれを許しませんでした。

 陣痛に襲われた鈴子は恐怖のあまり首を吊ります。死体の腹から二人の赤ん坊を取り出したのは、英雄です。

 彼は自分のこどもをどんな形でもいいから沢山この世に残したいという事だけを生きる目的にしていたのでした。

 生まれる前から母親の殺意に晒されてきた唯香にとって、「お母さん」と呼べる存在は初めて自分に愛情を向けてくれた育ての親――美香子でした。

 初めて美香子に抱かれたその日から、唯香の生きる目的は「お母さんと一緒にいること」になったのです。

 

 成長した唯香は「お母さん」こと美香子の実子である園美に近づきます。

 園美の気持ちを弄び、一方で援デリの顧客である銀行関係者から東の家に園美の無駄遣いを吹き込む事で、園美の心を追い詰めていきます。

 

 ここで一旦、唯香としいちゃんが出会った過去へと遡ります。

 鈴子の腹から唯香を取り出した英雄は、美香子の前にしいちゃんに育てられないか掛け合っていたのです。

 しいちゃんであれば、英雄の他のこどもに関する手がかりを持っているかもしれないと考えた唯香は、自ら援デリに加わる事でしいちゃんと懇意になります。

 やがて唯香は自らが援デリの元締めとなり、しいちゃんのアパートの隣の部屋を待機所として借ります。

 そしてしいちゃんの冷蔵庫の中から、英雄のコレクションの記録を探し当てます。英雄には六十人ほどの子どもが存在する事がわかりました。

 その中に、園美の弟である東陸一の名前も見つけるのです。

 これが唯香中一の冬の事でした。

 

 リストから英雄の子どもを探すサンプルとなったのが西山緋音。

 万引きを止めるのをきっかけに、緋音に近づいた唯香は、その裏で緋音の母親にも近づきます。

 緋音をこの町に釘付けにしたい母親の希望をくみ取り、緋音が嫌う本家の男に緋音のGPS情報を送るよう促したのも唯香の仕業でした。

 

 東陸一に近づいた唯香は、園美の話を持ち出します。

 陸一は動揺を示し、園美は既に死んでいると確信を抱いた唯香は、自分が作った〈郷土歴史研究会〉に陸一を引き入れます。

 おそらく園美は「死ぬところが見たい」と言った自分のために、なんらかの記録を残している。唯香の予想通り、園美が死んだ蔵の中から唯香はビデオカメラを発見。それと陸一の出生の秘密(=父親が英雄)をダシに、東家を掌握します。

 拓也が殺したしいちゃんを始末したのは、唯香に弱味を握られた陸一の両親だったのです。

 

 迎えたその日――唯香は北山耕平に呼び出されます。

 彼は唯香の父親が自分の父親であり、自分達が兄妹であると気づいたのです。

 DNA鑑定を勧める耕平に、唯香は既に手遅れであると告げます。自分のお腹の中には、耕平の赤ちゃんがいると。

 産みたいと言った唯香を、耕平は階段から突き落とし、殺してしまいます。

 

 薄れゆく意識の中、最後に明かされる唯香の秘密。

 それは小学校六年生のある日、自分のベッドにもぐりこんできた父の英雄の記憶でした。

 鈴子の腹から取り出された赤ん坊のうち、唯香だけを連れ帰ったのは、唯香にも自分の子を産ませようと考えたからだったのでした。

 しかし、事態に気付いた母・美香子がバッドで英雄を殴り殺してしまいます。

 英雄の死骸は、唯香がバラバラにしてたくさんのホルマリン漬けにしました。それは今も、唯香と美香子が住む家に隠されているのです。

 

 自分が死ねば、あのホルマリン漬けも英雄を殺したのも自分のせいという事にできる。

 唯香は最後まで「お母さん」である美香子を想いながら、死んでいきました。

 

 

致命的な欠点

こうして読み返していくと、いくつもの欠点が浮かび上がります。

まずは緋音ですね。

彼女のエピソードは全て、本作には必要がない。無くても成立するという完全な蛇足です。

殺した母親を冷凍庫にしまう、というのも目茶苦茶です。

何もしなくても彼女は二三日後には間違いなく逮捕されてしまいますもんね。冷凍庫を注文する前に、自分で気づきそうなものですが。

それこそ陸一の両親にバラして貰えば良かったのに、そうしなかったのが不思議でなりません。

 

家庭環境等々、非常に不快感の伴う場面が多いのですが、実際に登場人物達が殺人を犯すシーンや動機に関しては、意外とあっさりとしているのも謎です。えー、そんな事で殺しちゃうの?死んじゃうの?と。

園美にしても蔵の脇差で割腹自殺は流石に選ばんでしょ。ましてや保険金目当てで。

もうちょっと事故に見せかけるとか、苦しまずに死ぬ方法を考えると思うんだけどな。

拓也がしいちゃんを殺す経緯なんて唐突過ぎてびっくりしてしまいました。そこで殺してやるーとはならんでしょ。

 

感嘆に唯香に屈する陸一の両親なんて、アニメもびっくりのお粗末な展開ですよね。

いや弱味握られたからって女子高生相手にそう簡単に奴隷化はしないでしょ。

ましてや殺人の片棒担がされたりするぐらいなら、唯香自身を始末しようとか考えると思うのですが。

その辺りの逡巡や葛藤が全くないまま、あっさり奴隷化してしまうのは流石にご都合主義が過ぎますよね。

 

そして一番致命的なのは――何といっても渋谷唯香の生きる目的や、そこへ向かうプロセスの意味不明さでしょう。

ここに説得力がないのが、物語を最高に陳腐化してしまっている。

全ての発端である渋谷唯香自体が「いや、そうはならんやろ」というツッコミの塊みたいな存在なので、そこから派生する数々のエピソードが絵空事にしか感じられないのです。

「お母さんと一緒に暮らしたい」→「親父の隠し子集めてウンダ―カンマー作ろう」って言う時点でもう理解の範疇を軽く超えているという。

 

唯香で言えば本当に一人か?と疑わしく思えるほど同時進行的にあまりにも多くの事をやり過ぎているのも気になるところですが……この辺でやめておきましょう。

 

面白いとか面白くないとか抜きに、いったん設定から書き直してみませんか、というのが僕の結論です。

ここまで混沌としていると言う事は、おそらく著者の中でも時系列やストーリーが明快でないまま書き終えてしまったのではないか、と邪推します。

そうしてしっかりと骨太な枠組みから組み直せば、遥かに優れた作品に生まれ変わる事でしょう。

そうでない限り……無料のネット小説として流し読みし、雰囲気だけ楽しむのが一番かな。

 

 

 
 
 
 
 
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『恋する山ガール』御堂志生

「お前に惚れてる。全部欲しい」

 

御堂志生『恋する山ガール』を読みました。

Kindle Unlimitedで何か山登りに関連した小説ってないかなと検索したところ、引っかかったのが本書でした。

 

形式が電子版のみで単行本や文庫本といった実本としては出版されていないようだし、パブリッシングリンクなんて出版社聞いた事がないなぁと思ったら、電子書籍専門の出版社だったんですね。

なるほど、今の時代はそういうのもあるのか、と感心しました。

 

以前にも触れた通り、漫画やアニメ界隈では登山やキャンプといったアウトドアを題材としたゆるい作品が人気な一方、小説業界においては硬派な山岳小説ばかりなのが実情です。

ゆるキャン△』に触発されたライトノベルとかありそうだけど、意外とないんだなーというのが個人的には不思議。

 

そんな中見つけたのが、明らかにラノベの雰囲気がプンプン漂う作品が本書。

電子のみの発行というのが引っかかるところですが……まぁ内容を読んでみる事にしましょう。

 

 

山コン⇒遭難で救助騒ぎへ

主人公は藤沢蘭。

高校の頃にアルバイトをしていた飲食店にそのまま就職したという、21歳。

女子大生のアルバイトめぐみに合コンに誘われ出掛けてみたところ、着いたのはとある山の登山口。

合コンは合コンでも、山登りをしながら合コンするという一時期流行った山コンというものでした。

 

ところが早々にリタイヤ者が出たり、別ルートで下山したいというカップルが現れ、蘭もまた、来た道を戻ろうという一人の男と一緒に山を下る事に。

途中、当たり前のように男にキスを迫られ、走って逃げたところ、山の中へ迷い込んでしまい……日も暮れ、雨が降り出して、彼女は本格的に遭難してしまうのでした。

 

そんな彼女を助け出してくれたのが、静岡県警山岳レスキュー隊。

副長である御﨑は、蘭の不用意さを声を荒げて糾弾します。

反発心を覚えつつも、自らに非があるだけに言い返せず堪える蘭。

これが彼らの出会いとなります。

 

後日蘭は、蘭を合コンに誘っためぐみとともに、富士の五合目にあるという山岳救助隊の基地にお礼を言いに行く事に。

しかし、ワンピースのようなひらひらした格好で現れた蘭は、再び御﨑に叱られます。

しかも御﨑は既婚で子どももいると聞かされ、ショックを受ける蘭。

 

蘭は御﨑を見返すためにスポーツショップへ行き、店員に行って登山用品計20万円分を購入します。

そして初心者向けの登山ツアーに参加するために、再び富士山を訪れるのです。

 

 

ゆるい≠いい加減

まぁ、想像はしていたのですが……はっきり言って、クオリティーは低いですね。

登山を題材にとは言いますが、山コンや山岳救助隊という文言をダシに使われたようなもので、まるで経験も取材もしないままイメージだけで書いたのが丸わかりです。

 

店員に二十万円分もの登山用品を買わされるなんてあまりにも非現実的ですし、その中身がなんなのか確認も試着もしないまま、そっくりそのまま持って山登りに来るなんて無頓着にも程があるでしょう。

寝袋が寝袋だとわからないまま、リュックに入れて持ち歩いているんですよ? 漫画に毛が生えたようなラノベとはいえ、いくらなんでも目茶苦茶過ぎませんか?

 

どうやら著者的にはそういうぶっ飛んだ人間を「おっちょこちょいで可愛らしい」ぐらいに感じているようで、失敗や嬉々に直面する度に、白馬の王子様役である御﨑が助けてくれる……というラブコメが本書のキモです。

全く山である必然性はないのです。

本書の中には、山登りの楽しさや魅力のようなものは一切登場しません。

山に関わるのは、名もなき詐欺店員や、同行するツアー客を嘲って楽しむような嫌らしい人間ばかりです。

ヒーロー役である山岳救助隊の人間離れしたカッコ良さを描くためだけに、山が存在するのです。

 

処女喪失でハッピーエンド

あまりにも馬鹿馬鹿しいのですが、本書のクライマックスは主人公の処女喪失。

蘭と御堂の間にあった勘違いが解消され、両想いだと判明した途端、二人は一目散にホテルへ。

戸惑う蘭に、御堂はすぐさま事に及ぼうとするものの……彼女が処女である事に気付き、己の性急さを詫びます。そしてもう一度、今度は優しく、丁寧に彼女を抱くのです。

二人は無事結ばれ、後日、今度は仲良く連れだって富士山に登る二人の姿が……というハッピーエンド。

 

……控え目に言って、クソですね。

 

上述したクライマックスの濡れ場は、読んでいて恥ずかしくなる程安っぽいものです。

まるで思春期の中学生の頭の中を文章にしたような、今時エロ本でも見ないような描写やセリフが目白押しです。

 

「あっあん、やぁん」

「綺麗なピンクだ。花びらも……本物のランの花のようだな」

 

まさかこのクソ寒いセリフを言わせたいがために主人公の名前を蘭にしたわけじゃないだろうな。

せっかく読み始めたのだからせめて最後までは読み切ってやろうという使命感すらも、全てを無に帰す絶望に打ちひしがれずにはいられません。

 

僕はまだKindle Unlimitedの無料枠の中で読んでいたのが救いですが、もしこれをお金を払って読んでいたらと、想像しただけでぞっとします。

まぁでも中学生ぐらいまでならもしかしたらエロ本感覚で楽しめる……かも?

 

そういう嗜好の方にのみ、おすすめしておきたいと思います。

綺麗なピンク(笑)

すげーパワーワードwww

 

 
 
 
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『パッとしない子』辻村深月

「子供の頃は、あの子、パッとしない子だったんだよね。『銘ze』でデビューして、うちの小学校の出身だって聞いても、『え? あの子が?』って思っちゃったくらい。あの代だったら、目立ってたのはもっと別の子たちだったんだけど」

辻村深月『パッとしない子』を読みました。

 

こちら、元々は『嚙みあわない会話と、ある過去について』という短編集に収録されている作品らしいのですが、KindleではKindle Singlesというとして1話のみで切り売りされています。

切り売り、という表現にはネガティブイメージもあるかと思いますが、音楽に例えれば短編集=CDアルバム、短編=曲のようなもの。現在の音楽業界は月額聞き放題のサブスクか、または一曲ごとの販売が基本となっていますから、小説業界も同じような流れになって行くのかもしれませんね。

実際にKindle Singlesは米国で「電子書籍リーダーを買うべき最大の理由」と評価されたそうですよ。

 


……とまぁいきなり脱線してしまいましたが、このKindle Singlesに収録されている作品も、僕が登録しているKindle Unlimitedでは無料(月額定額)で読む事ができるのです。

 

と言っても本音では一話こっきりの読み切り短編とか、あんまり読む気がしないなぁと思わないでもなかったのですが。

 

ちょうど時間が空いたので、隙間時間にさっくり読んでみようと思った次第です。

 

 

人気タレントの昔は「パッとしない子」だった

主人公は小学校で教員を務める松尾美穂。

彼女の勤務先に、かつての教え子であり、現在はアイドルグループとして活躍する高輪佑がやって来ます。

よくある母校訪問的なテレビの企画です。

 

厳密には美穂が担任していたのは佑の三つ年下の弟なのですが、兄である佑も知らないわけではありません。運動会の入場ゲートのデザインで迷っていた佑の背中を押してあげたというのが、美穂の持つ唯一のエピソード。

 

そして佑について聞かれる度、美穂が常套文句のように口にするのが「パッとしない子」だったというもの。

佑は昔は目立つ子ではなく、今のようなトップアイドルに登り詰めるなんて想像できなかったというのです。

 

やがて撮影当日を迎え、高輪佑が学校にやって来ます。

テレビに出るのは美穂とは別の教師が受け持つクラスです。しかし撮影が終わり帰り間際、美穂の姿を見つけた佑は自ら美穂に近づき、少しだけ二人きりで話す時間を取って欲しいと持ち掛けます。

 

娘が大の佑ファンである事も手伝い、ドキドキした気持ちで二人きりの面談に臨む美穂。

しかし佑は、思いも寄らない質問を美穂にぶつけます。

 

 

※以下ネタバレ注意※

 

 

鈍感と繊細の狭間から生まれるもの

本書で描かれる人間模様は、あまりにも残酷で、あまりにも醜いものです。

そして教師とはどれほどまでに因果な商売なのかと、考えさせられずにはいられません。

 

美穂はおそらく、そう常識外れな教師ではないでしょう。

誰もが既視感のある、どこの学校にでも一人はいそうな、一般的な教師像の一つです。

若く美しい時分、憧れのお姉さんのように子供たちからチヤホヤされ、そんな自分に対して無意識にほんのちょっとだけ天狗になっていた。自分をチヤホヤして周囲に群がってくる子供たちが可愛くて、彼らばかりが目に入ってしまい、その影で悩みや痛みを抱えていた子どもに気付いてあげる事ができなかった。気付こうとしていなかった未熟な自分。

 

そんな若き日の自分を、当時の教え子から徹底的に非難され、糾弾される。

 

どちらが正しくて、どちらが悪いとか、どちらに感情移入するかといった話は抜きにして、あまりにも美穂は報われないように感じてしまいます。彼女を慕い、彼女に憧れて教師になるような子だって、ちゃんといるのです。

でももしこんな目に遭ったとしたら、次の日以降も教師を続ける自尊心やモチベーションは、完全にすり減って無くなってしまうのではないでしょうか。

もちろんそれこそが、佑の目的だったのかもしれませんが……。

 

一方で僕には、佑や弟の気持ちもよくわかります。

僕の小学校二年生の時の担任は、何故か僕に対してだけ非常に当たりが強いように感じる先生でした。同じような失敗や悪戯に対しても、みんなの前で徹底的につるし上げるような真似をされた記憶があります。

どうして僕にだけあんな風に強く当たったのか、何が原因だったのか、当時も今も、僕にはとんと見当もつきません。

唯一心当たりがあるとすれば、「きっとあの先生は僕が嫌いだったんだろうな」という点だけです。

 

もしかすると事実は異なるのかもしれませんが、意外と子供の頃って、大人のそういう不平等さみたいなものに敏感なのかもしれません。

学校に限らず、兄弟との関係なんかでも、子どもってよく口にしがちですもんね。「なんで僕だけ」「私だけ」って。常に自分だけが貧乏くじを引いているような被害妄想。

 

でもそうして一年や二年、苦手な先生と過ごす時間って意外と後々まで引きずるんだろうなと思います。僕もまだ鮮明に覚えていますし、関係性の度合いによっては、恨み骨髄に死ぬまで引きずる事だってあり得ると思います。

本書に出て来る佑や、その弟のように。

 

 

他者の否定

あとは表題にも関わるところですが、知人について聞かれた時、マイナスイメージが付くような言葉は避けるべきなのだと、本作を読んで改めて再認識させられました。

結構ありますよね。「前に一緒に働いていた〇〇さん、知ってる?」と前職の同僚について聞かれたり。

そういう時、皆さんはどんな風に答えますか?

真っ先に口をついて出るのは、相手の長所?

それとも短所?

 

相手による、と言いたくなるところでしょうが、意外とこれ、質問に答える人物の人柄が現れやすいタイミングに思います。

あくまで僕の経験上ですが、知人について聞かれた際、「あの人はとっても優秀な人ですよ」と肯定的に語る人には人格者が多いように感じます。

対して「あの人は色々と問題が多くて」と否定的な話をする人は、決まってニヤニヤと嫌らしい笑顔を見せるか、表情を曇らせ、語るのも嫌だというような苦虫を噛み潰したような顔を見せます。本人は気づいていないのでしょうが、いずれも非常に醜い表情です。

 

教え子や知り合いに対して「パッとしない子だった」と答える美穂は、同じように醜い顔つきだったのではないでしょうか。

 

若い頃ならばいざ知らず、ある程度の年齢になったからには、誰かの事を尋ねられた際には十分に配慮した返答をするように配慮したいですね。どう回り回って当事者の耳に入るかわかりませんし、相手を貶めているつもりで、より以上に自分の心証を悪くしているかもしれません。

美穂は何よりも公職にある身なので、誰よりも気を付けるべきだったのでしょうが、教職とはいえ人間ですからね。すっぽり気が抜け落ちてしまう事だってあるのでしょう。

 

 

短編と侮らず読むべし

ここまでつらつらと思い付くままに書いて来ましたが……間違いなく言えるのは、短編一つでここまで色々と考えされられる作品というのも非常に稀有だという事です。

本作に対し、Amazonのレビュー等々では「後味が悪い」という感想が非常に多いのですが、単なるバッドエンドですっきりしないという後味の悪さとは大きく意を異にしています。

 

誰が正義で、誰が悪なのか。あるいは何が正義で、何が悪なのか。

どこまでが許されて、どこからが許されないのか。

 

きっと読者一人ひとりにとって答えは違っていて、そもそも明確な答えすら一人では導き出す事のできない問題を、あまりにも鮮やかに浮き彫りにしているのです。

その結果、読み終えた後も正解を見出せないまま、もやもやと自分の胸の内に生まれた割り切れない思いと向き合う事になります。

 

長編小説やせめて中編ならともかく、僅か42ページの短編でここまでもやもやさせられるとは……げに恐ろしきは辻村深月の技量。

短編だからと侮らず、ぜひ一度は呼んでみる事をおすすめします。

 

電子書籍代の202円を払う価値はある作品だと、断言しておきましょう。

 

また、「どうしても実本じゃないと読みたくない」という方は、下記の短編集『嚙みあわない会話と、ある過去について』をどうぞ。

 

 

 

『かもめ達のホテル』喜多嶋隆

だから、宣伝のたぐいは、一切していない。インターネットで検索しても、出てこない。そんなうちのホテルにやってくるお客の中には、世間の目をのがれて、という場合も少なくない。ヨットのかげで風を避けているカモメたちのように……。

喜多嶋隆『かもめ達のホテル』を読みました。

 

たまたま石ノ森章太郎の『ホテル』のように、一つの施設を舞台として様々な事件が巻き起こるような連作短編ものを探していたところ、検索結果に引っ掛かったのがこちらでした。

葉山の海の側にある、隠れ家のような小さなホテル……なかなか惹かれるではありませんか。

 

初めて見る作家さんだったのでざっくり調べてみたところ、喜多嶋隆氏は1981年(昭和56年)著作 『マルガリータを飲むには早すぎる』 で小説現代新人賞受賞。以来四十年に渡り数々の作品を残して来た大ベテランだという事で、安心して読んでみる事にしました。

惜しいかな、せっかく契約したKindle Unlimitedには登録がありませんでしたので、代わりにebookjapanで半額クーポンを利用し、319円での購入となりました。

 

さて、内容に触れていきましょう。

 

 

舞台は女手一つで経営するプチホテル

舞台となるのは、葉山の海の側にある小さなホテル……とは名ばかりの、民宿・ペンション的な宿泊施設です。

元々は現在のオーナーである美咲のひいお爺ちゃんが旅館として開業したものを、祖父がホテルに建て替え。さらに父親が修行先だったホノルルのリゾートホテルを模して改装を施したというもの。

部屋数は海側・山側にそれぞれ4部屋ずつの計8室と言うのですから、ホテルというよりはまさしくペンションです。イメージ的には、一昔前に流行った“プチホテル”を名乗るペンション、もしくは別荘地によくある“オーベルジュ”といったところ。

 

従業員もオーナーである美咲の他には、昔からの友人であるマイが客室係のアルバイトとしてお手伝いしてくれるだけ。料理やサービスといった接客は、全て美咲一人でこなしているようです。

ですので物語は必然的に美咲と利用客、そこにマイを加えた三人の関係性から生まれるものとなります。

 

 

3人の訳あり客

本書の中身は三話の連作短編形式をとっていますので、例によって各章ごとにあらすじをご紹介します。

 

『たとえ18歳に戻れなくても』

最初にやってくるのは、何やら謎めいた男。大沢、と記名する様子を見ただけで、美咲は相手が偽名を使っていると察します。

さらに偽名・大沢は、葉山の海際にあるホテルでわざわざ山側の部屋を希望。ますます怪しさが募ります。

どうやら誰かを待っているのではないか、という美咲とマイの予想通り、彼は自分がゴシップ誌のスクープカメラマンであり、交際が噂される芸能人カップルを待ち伏せしている事を明かします。

そんな彼も、最初からスクープカメラマンを目指していたわけではなく、元々はもっと純粋な気持ちでカメラマンを目指していた時代があり……という一人のカメラマンの葛藤を描いた作品。

 

 

『心の翼が折れた時』

次にやってくるのは小久保という男。以前プロゴルファーを目指していたマイは、彼をひと目見るなり現役の著名なプロゴルファーであると見抜きます。

本来であればツアーを回っているはずの時期にも関わらず、ひと目を避けるように滞在を続ける小久保。

彼はクラブをうまく振れなくなるという、誰にも言えない心の病気を抱いていました。

しかもそのきっかけは、大事な大会の前、妻と事に及ぼうとした際にうまく行かなかった事――つまりインポテンツを発症したのをきっかけに、クラブを振れなくなってしまったというのです。

原因を知ったマイは「わたしが彼を治してあげる」と自信満々に言い出し、美咲もまた、「彼を誘惑するの?」と応じます。

計画は成功し、マイは小久保の部屋に泊まり込むようになります。結果として、小久保の病気は――というなかなか大胆なお話です。

 

 

『この夏も、いつかは思い出』

三人目の客は真希。同じ葉山町内に住む30代半ばの女性。

彼女は米軍基地で働くマイクとともに、度々泊りがけのデートにやってきます。

真希は米兵に日本語を教える講師の仕事をしていて、生徒としてやってきたマイクと恋に堕ちたのです。

しかし真希には、離婚調停中の夫がいました。

きっかけは夫の浮気でしたが、夫は警察に兄を持ち、少しでも自分に有利な条件を引き出すため、真希に男の気配がないかチェックしています。

真希とマイクは夫の目から逃れる隠れ家として、ホテルを利用していたのでした。

しかしある日、外国人によるコンビニ強盗事件が発生。マイクは容疑者の一人として疑いを掛けられてしまいます。

事件があった当日の夜、ホテルに泊まっていたマイクのアリバイを証明できるのは美咲と真希のみ。しかしそれは、同時に警察を通じて夫に真希の交際を教える事になってしまいます。

果たして、真希の下した決断とは――。

 

 

ex.美咲の恋人裕作の行方

三つの物語の合間合間に挿入されるのが、オーナーである美咲自身の抱えた悩み。

ホテルには度々、顔見知りと見られる警察がやってきます。美咲は冷たくあしらいますが、一体何があったのか、という点が連作短編の主題として存在しているのです。

 

美咲には昔から同じ葉山で生まれ育った恋人の裕作がいますが、彼は勤務先の上司に汚職事件の罪を被せられ、捜査の手から逃れるためにマグロ漁船を乗り継ぎ逃亡を続けています。

パスポートを使って外国に逃げたわけではないので、警察はまだ裕作が国内にいるものと信じ、きっと恋人の美咲の下へやってくるだろう、もしかしたら美咲は裕作の行方を知っているにも関わらず、隠匿しているのないかと疑いを掛けているのです。

美咲と裕作は一体どうなるのか。裕作に対する嫌疑が晴れ、美咲の下に帰って来る日は来るのだろうか、という点も見逃せないところ。

 

それ以外にも、友人であるマイの生い立ちやプロゴルファーを目指した経緯等々、短編作品のメインである宿泊客のエピソードの合間に、美咲やマイのエピソードが混ざり込んで来たりします。

それがまぁ、なかなかの分量がありまして……本作の半分は、彼女達の過去に関する話と言っても良いかもしれません。

 

 

……で、どうなの?

小説を読んだ感想で一番大事なのって、面白いか、面白くないか、という点に尽きると思います。

じゃあ本作はどうなのかというと……正直微妙でした。

 

Amazonの数少ないレビューにも散見されるのですが、やはり一番は主人公である美咲の人間性

客に対し平気でため口を使い、食事を提供した横で、それが当然の事であるかのように自分も食事を始める。マイまで引き込んで一緒になって酒を酌み交わす。客に対する態度というよりは、泊りにきた友達の相手をしているかのような振る舞いです。

外国のゲストハウスのようなイメージを書きたかったのかもしれませんが、それを葉山でやるのはちょっと違和感しかないですよね。せめてもう少し歳を重ねたマダム的な主人公ならば許されるかもしれませんが……20代そこそこの女の子の接客としてはあまりにもリアリティーを欠きます。

にも関わらず、広告もなしに芸能人が有名人が次々とやって来るという謎の人気ぶり。と言っても常に部屋は半分も埋まらず、閑古鳥が鳴くような状況。

……このホテル、なんで経営成り立ってんの? と。

 

追いかけている芸能人カップルがこのホテルに来るはずだ、と狙いを定めたカメラマンの根拠も不可解ですし、二話目に至っては、妻がいるという客に対して従業員(オーナーの親友)が公然と言い寄り関係を結ぶという目茶苦茶な倫理観。三話目に至っては、離婚協議中で夫の監視下にあるにも関わらず若い男と関係を結ぶ節操のなさ。相手が若い外国人男性である必然性もなく、おそらくその方がファッショナブルだからというイメージのみで形成されたキャラクター設定としか思えません。

別に不倫が駄目、浮気は許せない! などと声高に騒ぐつもりはないのです。江國香織の『東京タワー』はじめ、素晴らしい作品も多数ありますし。

 

ただし、本書で描かれる不貞関係はあまりにも軽いノリで、馬っ鹿じゃねーの! と悪態をつきたくなるぐらい、登場人物達は安直に禁忌を犯します。

相手が有名人だからといって、既婚男性を相手にする場合には多少なりとも葛藤や躊躇を抱いて欲しいのです。「インポが原因かもしれないから私が一発やって治るか確かめてみるわ」「頑張れー」じゃあ、今時十代二十代の若い子達でもドン引きです。

イケメン外人にいい感じに迫られたからってホイホイ身を任せるようじゃ、遅かれ早かれ旦那にバレたんじゃないの? それをあたかも悲劇の主人公かのような顔をされても、自業自得としか言いようがありません。

 

秘め事が面白いのは秘め事だからであって、公然と明るく行われても何の味わいもないのです。

 

著者の年齢が年齢だから仕方がないのかもしれませんが、全体的に時代錯誤な倫理観と昭和のファッショナブルさに彩られた、1980年代テイストの物語と理解して読むべきなのかもしれません。

 

文章の癖

喜多嶋氏の書く文章は初めて読んだのですが、非常に癖が強いという点も留意が必要かと。

 

偽名・大沢の方は、食事つきで予約していた。夕食は、6時半から。わたしは、5時半頃に厨房に入った。彼は、和食を予約していた。わたしは、小坪の漁港からきた食材で準備を始めた。きょう、メニューの中心は、天プラ。

 

短文。そして目につくのは小刻みな句読点。

なんだか片言の日本語みたいで、読みにくくないでしょうか?

 

エンジン音が消えた。運転席から、1人の男がおりてきた。若い。まだ二十代だろうか。とにかく背が高い。白いポロシャツ。ベージュのコットンパンツをはいている。彼は、あたりを見回しながら、ゆっくりと歩いてくる。ホテルの玄関を入って来た。わたしは、受付カウンターの中にいた。

 

この不思議な文章が、最初から最後まで続きます。

人によるのかもしれませんが、僕の場合はこのせいで一連の動きが頭の中で滑らかな映像にならず、コマ送りの四コマ漫画みたいになってしまいました。

特徴的な文章を書く作家さんは多数いれど、その中でも間違いなく上位に入る癖のある文章だなぁと感嘆してしまいました。

 

 

ebookjapan

さて、最後に今回初めて利用した電子書籍サービス「ebookjapan」について触れておこうと思います。

数ある電子書籍サービスの中で、「ebookjapan」はyahoo系列に属し、支払いにpaypayも利用できたりします。ほぼ日常的にクーポンが配信され、paypayの大型イベントpaypayジャンボの対象サービスになったりするのも面白いところ。

 

 

 

本書に興味は持ったけれど、Kindle Unlimitedには収録されてないし、定価で買うのはちょっと抵抗があるなぁ……と思っていたところ、ちょうど半額クーポンを持っていたので、試しに使ってみたのです。

 

そしたらまぁ驚く事に……

 

すこぶる操作性が悪い!怒

 

電子書籍アプリといえばKindle青空文庫しか使った経験がなく、マーカーを引けたり、栞を挟めたりとむしろ実本より使い勝手がいいんじゃないかぐらいに感心していたのですが、このebookjapanのアプリは全然違いましたね。

 

とにかくレスポンスが悪い。

1ページめくるごとにカクカクする。

 

これは僕が読書用に使っている旧端末のスペックが良くないせいもあるのかもしれませんが、Kindleは平気なんです。

性能の問題なのだとすれば、テキストのみのビューアーにどんだけのスペックを求めるの?

 

しかもピンチアウト・ピンチインで自由にフォントサイズを変えられるKindleと違い、フォントサイズは固定で選べるのは行間の幅と縦・横の表示。あとは背景の色のみ。

Kindleになれた身からすると、目茶苦茶使い難かったです。

 

なので今後はあまり使う事もないだろうと思います。

半額クーポンは魅力的なんですけどね。

今回同様、どうしても読みたい本がKindle Unlimitedに収録されていない場合に、使用を検討するレベルかと思います。

 

あーebookjapanで連載されている『キン肉マン』は大ファンですのでそちらは欠かさず読み続けますが。

ジェロニモ、今度もまた噛ませ役なのかなぁ。

 

 

 
 
 
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『琴乃木山荘の不思議事件簿』 大倉崇裕

「山には、その手の怪談が付きものなんだ。この山域も、決して多くはないが、人が亡くなっている。霊気のようなものが、溜まるんだな」

大倉崇裕『琴乃木山荘の不思議事件簿』を読みました。

著者の大倉氏は1997年に第4回創元推理短編賞佳作を受賞し、『三人目の幽霊』で作家デビューを果たして以来、「このミステリーがすごい!」や「本格ミステリ・ベスト10」にも度々名を連ねるミステリ作家。

とはいえ本作で初めて名前を知った、というのが正直なところです。

 

本書を読むに至った理由も、前記事『ほま高登山部ダイアリー』同様、Kindle Unlimitedのおすすめに出てきたから、というもの。こうして全く知らなかった作品に触れられるというのも、Kindle Unlimitedに登録したメリットと言えそうです。

 

それでは、内容についてご紹介していきましょう。

 

登山×日常の謎=ライトミステリ

舞台は竜頭岳の麓にある琴乃木山荘。

主人公はそこで働く棚木絵里。

山荘には日々様々な人が訪れ、数々の不思議な出来事に見舞われます。おっとりとした性格ながら人望の厚いオーナーや、探偵役である同じスタッフの石飛とともに、事件の謎を解き明かしていくミステリ短編集。

登場する謎は登山にまつわる小話といったところで、人が死んだりするわけではありませんので日常の謎カテゴリに分類されるのでしょう。

 

早速下記に簡単な概略を記します。

 

第一話 彷徨う幽霊と消えた登山者

 ある夜、同僚のまゆみが森の中で人魂のような光を見たと言います。また、小屋の近くの森の中で連日同じ男を見た、とも。人魂と男の正体は?

 

第二話 雪の密室と不思議な遭難者

 誰もいないはずの離れの小屋の中に、光が見える。絵里達が駆け付けてみると、高熱に苦しむ一人の男が寝込んでいた。施錠されていた小屋に勝手に入れるはずはなく、周囲の雪には足あとも見当たらない。男の正体とは?

 

第三話 駐車場の不思議とアリバイ証明

 友人とともに登山から戻ってみると、駐車場に停めた車の位置が来た時とは変わっていたという男。一体誰が、なんのために、どうやって車を動かしたのか?

 

第四話 三つの指導標とプロポーズ

 小屋の裏で一人、プロポーズをするはずの相手が来ないと嘆く男。一方で絵里は、石飛から指導標の一つに悪戯がされていると教えられる。石飛が言うには、去年も一昨年も、三つある別の指導標が同じように悪戯されていたらしい。

 

第五話 石飛匠と七年前の失踪者

 琴乃木山荘を訪れた三人の男女。七年前、彼らと一緒にとあるテント場でキャンプをしていた河内が、テントも荷物もそのままで行方を晦ましてしまった。河内は三人を架空の投資話で騙しており、三人は河内の行方を捜しているのだという。

 

第六話 竜頭岳と消えた看板

 ある夜石飛が見上げると、小屋の上部に掲げられていた琴乃木山荘の看板がなくなっていた。巨大な木の板で作られたもので、大の男が数人がかりでようやく運び上げたようなものだ。絵里は石飛とともに、消えた看板の謎を追う。

 

第七話 棚木絵里と琴乃木山荘

 琴乃木山荘で働く絵里の元に、江島健人がやってくる。彼の妻里水は絵里の元上司で、小さな出版社を経営していたが、不幸な事故によって急逝していた。現在は他の出版社で働く江島は、絵里に自分の下で働くよう決断を促しにやって来たのだ。一方絵里は、事故の直前に里水から送られてきたメールの謎が解けずに引っ掛かっていた。

 

……とまぁ、全部で七話。

語り手である棚木絵里の、ベールに包まれていた下界での生活についても最終話で明かされ、物語としては大団円といったところです。

一方、石飛についてはまだまだミステリアスな点も多いのですが……物語の完成度を損なうようなものではありませんし、次回作を書く上での材料も残したかったのかもしれません。

 

 

 

ミステリとしては……

そもそも本書、レーベルはヤマケイ文庫こと山と渓谷社という、推理小説としては似つかわしくない版元から発行されています。

元々は山岳雑誌『山と溪谷』に連載されていたものをまとめたそうです。

そういう意味で色々と異端な点が多い作品だったりします。

 

言い換えると、中途半端な面も多かったりして……。

 

山岳小説として考えた場合、これは間違いなく物足りないでしょう。架空の舞台である竜頭岳の舞台設定もいまいち伝わって来ません。場所はある程度曖昧にボカすにしても、険しい山なのか、ビギナー向けの山なのか、周囲の山やルートとはどんな位置関係にあるのか、その多くが曖昧です。

それに伴い、琴乃木山荘の山小屋としての役割もいまいち伝わって来ません。

これはちょっと説明すると長く、くどくなってしまうので割愛しますが……山小屋って山頂付近だったり、長い縦走ルートの中途だったり、もしくはすぐ側で温泉が湧いていたり、いずれもそこにある理由や必然性があったりするんですが、琴乃木山荘に関してはどうもそれが感じられない。

先代が好きで、その場所に山小屋を建てて営業を始めたら、続々と好きな人が集まってくるようになった……という、山小屋というよりは旅館のようなノリに感じてしまうのです。

肝心の山小屋業務についても、調理・受付といった言葉で触れられるのみで、具体的な働きぶりが見えて来ません。また、客についてもモブとして描かれるのみで、どんな過ごし方をしているのか触れられる事はありません。

ですから余計に琴乃木山荘という施設の特徴のようなものが見えてこないのです。

その場所に絵里や石飛が惹かれて集まってくるような、もう少し説得力のある魅力を伝えて欲しかったな、というのが残念な点です。 

 

また、推理小説として読んだ場合ですが――これも残念と言わざるを得ないでしょう。

ネタバレを承知で、第一話を例に挙げます。

読みたくないと言う方は、読み飛ばして下さいね。

 

第一話の謎は、夜に森の中を彷徨う白い光と毎日見る男の正体ですが、白い光はまゆみ同様、男の正体を不審に思った石飛が夜にその場所を確認しに行ったものだとわかります。

男は息子と琴乃木山荘でキャンプをするという約束をしたものの、腰を痛めて重い荷物を運べなくなってしまい、やむなく毎日少しずつ小分けにして荷揚げしていたというのでした。

だったら荷物は山荘で預かってあげるし、なんなら後で下まで下ろしてあげるよ……というハートフルなストーリーなんですが。。。

 

……まぁ、無理ありますよねぇ。

重い荷物も持てないほど腰を痛めた人が、少量の荷物とはいえ毎日山を登り下りするなんて。

山小屋スタッフとしては「そんな状態で無理して山でキャンプなんかするもんじゃない」と諫めるべきでしょう。子どもとの約束を守りたい親心はわかりますが、いくらなんでも手間とリスクの配分を見誤ってるよな、と。

 

 

……とまぁ、上記の例からもわかる通り、全体的に謎に対する解答がちょっとしっくり来ないものばかりです。

平たく言えば、納得が行かない。

上の第一話同様、どうやってそれを行ったのかという「how」の部分についてはそれなりに理論的に説明がなされているとは思いますが、なぜやったのかという「why」、つまり動機との釣り合いが取れていない。

何度も小分けにして荷揚げしていた、だから毎日見るのはその人だった、まではいいんです。その理由が「子どもとキャンプの約束をしていたのに腰を痛めて重い荷物を持てなくなったから」と言われるとなんじゃそりゃ、と。

 

そんなことのためにそこまでするかー、と突っ込みたくなるというか、半ば呆れてしまうような理由ばかりなんです。

七話中一話だけ、というわけではなく、基本的に七話全て似たような傾向なのが残念なところ。

 

山小屋×日常の謎という発想はあまり見ないし、可能性は無限大に広がっていると思うんですが、なかなかどうして、せっかくのアイディアを上手く活かせていないな、という感想でした。

本作も続編……無いみたいですね。

 

ゆるキャン△』や『ヤマノススメ』が漫画・アニメで盛り上がっているように、小説業界にもそういったアウトドアを題材とした名作が生まれて欲しいと切に願ってしまいますね。

 

 

 
 
 
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