山岳小説
「山の中で起こったことは、山の中でけりをつけて、里まで持ち帰らないのが、アルピニストのルールじゃあないでしょうか」 新田次郎『雪の炎』を読みました。 『孤高の人』をはじめ山岳小説家として数々の名作を生み出してきた新田次郎ですが、改めて調べて…
「保志! しっかりしろ」「……はい」 返事は弱々しい。保志の唇を雨が伝った。血の色は失せて白い。「名前、名前、言ってみろ」「保志……芳雄」「何歳だ?」「十六歳」「今、どこにいるかわかるか?」「……」「どうした? 今どこにいるんだ。何してるんだ」「わ…
「山には、その手の怪談が付きものなんだ。この山域も、決して多くはないが、人が亡くなっている。霊気のようなものが、溜まるんだな」 大倉崇裕『琴乃木山荘の不思議事件簿』を読みました。 著者の大倉氏は1997年に第4回創元推理短編賞佳作を受賞し、『三人…
幽霊がゆっくりと常連のほうを見た。目があった。背筋が凍るような寂しそうな目をしていた。何かいいたそうな、問いかけたそうな表情だった。 引き続きヤマケイ文庫さんから、工藤隆雄『新編山のミステリー 異界としての山』を読みました。 登山や山に関わる…
道に迷ったら沢を下っていってはならない。来た道を引き返せ―― さて、前回の『ドキュメント 道迷い遭難』に引き続きヤマケイ文庫からのご紹介。 今回読んだのは『ドキュメント 単独行遭難』。 『道迷い遭難』と同じ羽根田治の遭難シリーズです。 『道迷い』…
しかも、これからかかるであろうコストは、まったく道であるにもかかわらず、どうしても過少に評価しがちになる。人は、そこまでにかけてきたコストが大きければ大きいほど、これからかかるであろうコストを相対的に小さく考える傾向にある。来た道を引き返…
そろそろ私も、新しい景色を切り取りに行こうか。 先日の北村薫『八月の六日間』に続き、“ガチじゃない”ゆるめの登山ものとして定評のある湊かなえ『山女日記』を読みました。 “イヤミスの女王”として不動の人気を誇る湊かなえですが、僕が読んだのはデビュ…
疲れるのでは――という予感がある。本も読めない気がする。しかし、書籍は常備薬と同じだ。手の届くところに活字がないと不安になる。 とか言って、荷物てんこ盛りのザックにわざわざ本を(しかも2,3冊!)詰めてしまうのが本書の主人公。 でもまぁ、同じよ…
夢を見る力を失った人生は地獄だ。夢はこの世界の不条理を忘れさせてくれる。夢はこの世界が生きるに値するものだと信じさせてくれる。そうやって自分をだましおおせて死んでいけたらそれで本望だと私は思っている。 パソコントラブルに加えてゴールデンウィ…
そこに山があるからじゃない。ここに、おれがいるからだ。 ここにおれがいるから、山に登るんだよ 僕は実は山登りも好きで、月に1、2度登山に出かけたりします。 と言ってもここに出てくるような危険な山ではなく、せいぜい2,000m級の山ですが。 なので一時…
幸福を測る万人共通の物差しなんてないからね。いくら容れ物が立派でも、中身がすかすかじゃどうしようもない。ところが世のなかには、人から幸せそうに見られることが幸せだと勘違いしてるのが大勢いるんだよ。 『春を背負って』は亡くなった父の代わりに脱…