宮下奈都
広くなったり細くなったりしながら緩やかに流れてきた川が、東に大きく西に小さく寄り道したあげく、風に煽てられて機嫌よくハミングする辺りに私の町がある。父の父の父の代あたりまでは、川上で氾濫してよく堤防を決壊させたと聞くけれど、そんな話が冗談…
自然にしていればいい。ちゃんと黄色を選べたんだから。そのうち頭がゆるんで、身体も心もゆるんでくるよ。それまでは、ひとつずつゆっくり作業するといいかもしれないね。慌てることないよ、あすわはあすわだから。 第13回本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』…
たったそれだけ。それだけのことが、どうして言えなかったんだろう。 今回読んだのは『羊と鋼の森』でお馴染みの宮下奈都さんの作品『たったそれだけ』。 『羊と鋼の森』を読んでこんなにも素晴らしい文章を書く作者に感銘を受けるとともに、それまでまった…
森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。 冒頭の一文を読んで、「あっ、これは……」と思いました。 初めて入るレストランに一歩足を踏み入れた瞬間、この店はきっと自分に…