『新・平家物語』吉川英治
栄枯盛衰は天地のならい、栄々盛々はあり得ないこと。勝つは負ける日の初め、負けるはやがて勝つ日の初め――
ようやく終わりました。
長らくブログの更新も途絶えていましたが、その原因であった吉川英治『新・平家物語』を読み終える事ができました。
読み始めたのが7月10日。4ヵ月近くかかっての読了です。
とにかく長かったです。
そもそも『平家物語』ってなんぞや? というところから始まった本読書。
- 平清盛とかいうのを源氏の頼朝や義経が倒して鎌倉幕府を設立。
- 義経は兄・頼朝により殺される。
- 牛若丸と弁慶の五条大橋での決闘。
- 急坂を馬で駆け降りる不意打ち。
- 壇ノ浦で扇の的を射落とす那須与一。
- 弁慶が泣きながら義経を棒で打つ勧進帳。
僕の頭にあったのは上記のような、教科書で習った知識+漫画その他で見覚えのある代表的なシーンぐらいで、それぞれがどんな時系列で、どんな歴史背景があったかなんてさっぱりわからなかったんですよね。
一回ぐらい、平安から鎌倉に至るいわゆる『平家物語』に描かれたような時代を舞台とした作品を読んでみるのもいいだろう、そのためには吉川英治の『新・平家物語』が一番良さそうだという考えから手を出してみたものの、予想以上に長い読書になりました。
大ざっぱな分類
本作は1950年から1957年まで「週刊朝日」に連載された作品。
1.ちげぐさの巻から24.吉野雛の巻まで24章から構成されています。
現在では吉川英治歴史時代文庫版が全16巻、新潮文庫版全20巻として販売されているようです。
平家と源氏、さらに公卿やら皇族やらでとんでもない数の登場人物が出てくるのですが、主に主人公格と呼べそうなのは平清盛・木曽義仲・源頼朝・源義経の4人。
その区分けについてはざっくりですが、
1~13 平清盛
14~16 木曽義仲、
4、9、10、17~24 源義経
4、8、12 源頼朝
というような形に分かれています。
さらに脇を固める重要人物として、罪無き市民に寄り添い続ける医師・阿部麻鳥や無頼の僧侶・文覚、平家に取り入る商人・赤鼻の伴卜、欧州平泉の金売り吉次、そしてある意味では諸悪の根源とも言えそうな後白河法皇が挙げられます。
麻鳥はその時代における庶民の暮らしぶりや心情を表すという非常に重要な役割を持ち、伴卜や吉次は清盛と公卿、平家と源氏といった各勢力の間を渡り歩き、結びつけながら相互の関係性を描いています。
歴史認識を深める
と書くとすごく勉強した感がありますが、正直頭の中は整理しきれていません。
登場人物も出来事もあまりにも多過ぎますよね←
保元の乱があって平治の乱があって、その間に天皇だけでも鳥羽から崇徳、近衛、後白河から二条へと移り、以後も高倉、六条を経た後がようやく、壇ノ浦に消えた安徳天皇とまぁ次々変わります。
その度に御側役である公卿も入れ代わり立ち代わり。
一回通して読んだくらいで整理するのは無理ですね。
ある意味「ブログを書く」というアウトプットを通して多少なりとも頭の中が整理されていく感はありますが、足かけ4か月読み進めてきた一大長編だけあって、時系列や登場人物がすっきり整理整頓される事はきっと今後もまずないだろうと半ば諦めかけています。
でも、ぼんやりとではありますが平安末期から鎌倉設立までの様子がこれまでよりは認識できたように感じています。
さらに以前読んだ鎌倉末期から室町初期までの『私本太平記』と合わせて、ようやくこれまで苦手だった戦国以前の物語が繋がりました。
以前から積読化している浅倉卓弥『君の名残を』にも手をつけられそうです。ちょっと食傷気味なのでしばらくは歴史ものから離れようとは思いますが。
最後に、各巻ごとのおおよそのあらすじを載せます。かなり大ざっぱですが、いずれ記憶の糸を辿る際の道標にでもなりますように。
それにしても約4か月かかる全16冊分の電子版が99円で買える時代。
もし興味があれば、みなさんも是非チャレンジしてくださいね。
あらすじ
1.ちげぐさの巻
平安時代末期、公卿文化が隆盛を極めた藤原時代の名残りを残す中、地下人(ちげびと)とよばれた武士階級の中に生まれた若き清盛が、遠藤盛遠(=後の文覚)、佐藤義清(=後の西行法師)、源義朝ら同世代の武士たちと送る苦悩と鬱屈の青春時代から、生涯の伴侶となる時子を妻として六波羅に居を構えるまで。
2.九重の巻
信仰と武力を後ろ盾に猛威を振るう山門仏教勢力が、強訴のために担ぎ出した神輿に一矢を射た有名な逸話をはじめ、徐々に武士として頭角を現してゆく清盛の破天荒な生きざまが明らかとなる。また、保元の乱前夜までの崇徳院と後白河天皇との皇位継承争いを軸に、藤原忠通、藤原頼長の摂関家の対立、源義朝と源為義の源氏の対立、平清盛と平忠正との平家の対立といった混乱模様。
3.ほげんの巻
ついに保元の乱が始まり、源氏と源氏、平氏と平氏、皇族と皇族の肉親同士が敵味方に分かれた壮絶な戦いの模様と、戦後の過酷な処分、そして流刑となり非業の死を遂げた崇徳上皇の顛末。さらに時代は平治の乱へと突入してゆく。
4.六波羅行幸の巻
平治の乱に臨んで決定的に敵対状態となった源平両氏。信西の信頼を得た清盛を筆頭に平氏が勝者として中央政界に進出してゆく一方、敗者の源氏は没落してゆく。源義朝は死に、清盛は遺された頼朝と牛若を助命するという平家にとって最大の汚点を残してしまう。
5.常盤木の巻
清盛と常磐との恋の顛末、一方、皇家では二条天皇の恋による“二代の后”問題が世を騒がせる。また、出家してそれぞれ西行、文覚という僧となった清盛の朋輩、佐藤義清と遠藤盛遠のその後も描かれている。そして清盛は、厳島神社造営への宿願を抱く。
6.石船の巻
太政大臣に任ぜられた清盛を筆頭に、その子弟も続々官職を得て公卿、殿上人となり、平時忠をして「平氏にあらずんば人にあらず」と言わしめたほどの全盛期にさしかかる。さらに清盛は輪田の泊(現神戸港)を国際貿易港とすべく、築堤工事にとりかかる。
7.みちのくの巻
鞍馬寺で稚児として15歳まで成長した牛若は、藤原秀衡の部下である金売り吉次によって奥州平泉に招かれることになる。その際、一旦身を隠した京都で母の常磐と再会し、後に側室となる白拍子の静との運命的な出会いを果たす。また、陸奥への道中、那須余一や佐藤継信・忠信兄弟など、後に草の根党と呼ばれる多くの仲間たちと出会う。
8.火乃国の巻
伊豆に流されて18年、31歳になった頼朝は、この地で多くの後の御家人や、幕府創設後の要人となる僧文覚とも出会う。また、行く先々で色恋沙汰を招く頼朝は、北条時政の娘、政子と恋仲になっていた。父・時政の意向により政子は他家へ嫁ぐことになるものの、頼朝に心酔する北条家の家臣たちにより奪回される。
9.御産の巻
後白河法皇を中心に平家打倒の陰謀をめぐらした「鹿ケ谷会議」が発覚、事件後、鬼界ヶ島に流された俊寛。清盛の娘徳子は高倉天皇の中宮となり、後の安徳天皇を出産。平家はついに天皇家と姻戚関係となる。一方、平泉を抜け出して紀州に現れた義経は平家の追捕に追われ、ふたたび都へ上る。
10.りんねの巻
近江の堅田に身を寄せていた義経は、仲間の窮地を救うために自ら平時忠へ出頭する。ここで義経と時忠は互いに心を通わせてゆくことになる。さらに、五条大橋では弁慶も登場。一方、以仁王と源頼政らによって平氏打倒の挙兵準備が着々と進められる。
11.断橋の巻
以仁王と源頼政らによる反乱を制圧した清盛は、福原への遷都を決意。一方、頼朝は北条時政らを味方につけて目代屋敷を襲撃し、蜂起したまでは良かったが、平家方の追捕によって窮地へ追い込まれてゆく。
12.かまくら殿の巻
伊豆で敗れた頼朝は、関東を平定して体勢を立て直し、鎌倉の府の建設を進める。そして黄瀬川で弟の義経と初めて対面する。一方、都を京都に戻した清盛は、大規模な追討軍を差し向け、富士川で源平両軍の直接対決となる。
13.三界の巻
頼朝のいとこ義仲は、幼少時に源義朝と対立した父義賢を討たれるが、木曾の中原兼遠によって保護され養育される。成長した義仲は、兼遠の子(樋口兼光、今井兼平、巴御前)らを臣とし、以仁王の令旨に応じて挙兵する。そして都では、いよいよ清盛最期の時を迎える。
14.くりからの巻
清盛を失い宗盛を総領とした平家は、都へ迫りつつある義仲軍を迎え撃つべく大軍を差し向けるが、倶利伽羅峠、篠原の戦いで壊滅的な打撃を受け敗走。入洛への足固めとなる大勝利に勢いづく義仲だが、その背後は常に鎌倉の頼朝に脅かされていた。
15.一門都落ちの巻
木曽軍入洛を目前にして、平家は幼帝安徳を奉じて西国で再起を図るべく都を落ちる。入洛した義仲は朝日将軍という称号を与えられ、源行家とともに平氏追討と京中守護の任にあたる。九州にも安住の地を得られず屋島に拠点を置いた平家を追って義仲は山陽道に兵を進める。
16.京乃木曽殿の巻
義仲をめぐる女性関係は、巴・葵・山吹に冬姫を加え、ますます複雑化。皇位継承への介入や都守護の不首尾などで後白河の信任を失った義仲に対して、頼朝は範頼と義経の軍を差し向ける。義仲は法住寺殿を襲撃し後白河法皇を監禁するという挙に出るが、宇治川の戦いで義経軍に敗れ、最期を迎える。
17.ひよどり越えの巻
平家は西国で勢力を巻き返し、屋島から福原に拠点を移していた。後白河は源氏に平家追討と三種の神器奪回を命じ、範頼、義経が軍を進める。義経は世に「ひよどり越えの逆落とし」といわれる奇襲作戦によって一気に攻勢をかける。平家はこの戦いで多くの公達が命を落とし、また清盛の五男重衡は生捕られてしまう。
18.千手の巻
一ノ谷の戦いで生捕られた重衡はやがて鎌倉へ送られることとなる。頼朝は重衡の人物に感心し、厚遇するとともに千手という女性を与える。二人は短いながら幸せな日々を持ったが、平家滅亡後、重衡は南都焼討の罪で東大寺の使者に身柄を引き渡され、斬首される。
19.やしまの巻
一ノ谷、ひよどり越えで大きな痛手を受けた平家一門は、幼帝安徳を擁して四国の屋島に拠点を築いていた。一方、先の合戦での目覚ましい戦果にもかかわらず、鎌倉の頼朝からはなんらの恩賞も与えられなかった義経に、再び平家追討の令が下る。義経は嵐を冒して四国に渡り屋島を急襲、陸上を追われた平家はついに海上に漂い出ることになる。
20.浮巣の巻
屋島合戦でもっとも有名な、那須与一が扇の的を射る場面からこの巻は始まる。援軍を加え強大化してゆく陸上の追討軍に対して不利と見た海上の平家軍は、最後の望みを長門国の彦島とりでに託して西へ西へと向かう。また、平家内部では教経をはじめとした主戦派と、ひそかに和平を図る時忠との対立が深まっていた。
21.壇ノ浦の巻
源平合戦の最終章、壇ノ浦の戦いを描く。義経は紀伊国や伊予国などの水軍を味方につけた大船団を率いて攻め寄せる。一方、彦島を出撃した平家軍は知盛を大将として迎え撃つ。潮流の読みあいや御座船の偽装など、両将の知略を尽くした戦いの末、安徳天皇を抱いた二位尼や建礼門院など、平家の人々は次々と入水して命を絶つか生捕りとなり、ついに平家滅亡の時を迎える。
22.悲弟の巻
梶原景時など周囲の讒言の甲斐もあって、平家追討に大功を成した義経を頼朝は警戒し遠ざけるようになり、ついには鎌倉から刺客を差し向け夜討ちをかけ、さらにみずから率いて大軍を発動させる。義経は頼朝との戦いを避けて西国落ちを決意するが、大物ノ浦から出航した途端に大嵐のため難船し、摂津に押し戻されてしまう。そして鎌倉方の追捕から逃れるため吉野山中に逃げ入る。
23.静の巻
吉野山中で義経一行と別れた静はついに捕えられ、取り調べを受けるべく母とともに鎌倉に送られる。静は義経の子を身ごもっていた。義経は後白河による頼朝へのとりなしを最後の望みとして逃亡を続けるが、接触の機会を得られないまま、佐藤忠信ら股肱の臣を次々と失ってゆく。また、悪運強く生き延びてきた新宮十郎行家も、ついに呆気ない最期を迎える。
24.吉野雛の巻
すでに都に居所を失った義経は、藤原秀衡を頼ってわずかな郎党を伴い奥州平泉へ向かう。途上の安宅の関では、関守富樫泰家と弁慶による問答『勧進帳』の様子も描かれる。奥州の地で約二年の平和な日々を送っていた義経だが、ある日、頼朝の手まわしによって追討の勅命を受けた泰衡(秀衡の子)の襲撃を受ける。義経に続いて同じく弟範頼を討った頼朝もやがて没し、源平が血みどろに戦った時代の区切りを迎える。
随筆 新平家
『新・平家物語』週刊朝日連載時に月いちで書いていた(らしい)エッセイをはじめ、『新・平家』に関連する旅行記などと取りまとめたもの。連載中の読者や編集者、周囲とのやり取りをはじめとするエピソードが楽しめる。
腐化する生命の方が私には好ましい。すべて消えてなくなるものが美しいし、いとしい。花だってそうだ。平家だってそうだ。