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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『恋愛中毒』山本文緒

だが、奇跡だと思っていたのは私の方だけで、夫にしてみればただ平凡な恋愛がひとつはじまって、やがて倦怠期を迎え、そして心が離れただけのことだったのかもしれない。どこにでもある、誰にでもある恋愛と同じように。特別だと思っていたのは自分だけで、救われていたのは私の方だけだったのかもしれない。

第20回吉川英治文学新人賞受賞作『恋愛中毒』を読みました。

山本文緒さんは昨年春話題になったドラマ『あなたには帰る家がある』の原作者であり、『プラナリア』で第124回直木賞を受賞した実力派作家さん。

www.tbs.co.jp

僕にとっては読むのが初めての作家さんになります。

 

……歴史小説読むって言っておいて、またまた違うジャンルの作品ですが(笑)

 

先日夢を見ました。

から不定期に見るとある女性の夢です。

僕にもそれなりに色々と恋愛経験らしきものがあるのですが、その女性とは特に恋人のような関係に発展する事もなく、手さえ触れた事がありません。それどころか想いを告げた事すらないのですが、なぜかしらずっと胸の奥に残ったままになっています。

今となっては会う事もありませんが、年に1~2回、思い出したようにLINEでやり取りを交わしたりもする、細く長い関係です。

 

多分、恋愛ってプラトニックな関係のものの方が後腐れもなく、後々長く残っていくのかもしれませんね。一度でも付き合ったり、恋人らしき関係になってしまった相手とはどうしても疎遠になってしまいます。

 

……前置きはさておき、簡単にいうとその人の夢を見て、懐かしいとともにとても切ない想いをしたんですね。久しぶりにLINEしてみようかとも思ったんですが、そこまでの気力も起きず。。。むしろそうしてジリジリ相手の事を思い出してしまうからこそ、切なさが膨らんでしまったり。。。

そんなわけで、歴史小説はひとまずおいておいて、彼女との思い出を追体験できるような大人の切ない恋愛小説を読みたいと思ったわけなんです。

 

思い立ったら行動でネットで「大人の恋愛小説」「切ない」といったキーワードで検索すると、出るわ出るわ……その中で幾つか絞り込み、実際に書店の棚と比べて手に取ったのが本書でした。

 

別れた彼女に付きまとわれる青年

本書の最初の主人公である“僕”は編集プロダクションに転職して二ヵ月。

日々一生懸命仕事をこなしていますが、一つ心配事がある。

 

というのも、以前付き合っていた彼女とうまく別れられず、彼女につきまとわれているのです。

 

前の会社を辞めたのも、別れた彼女が会社に乗り込んで来たりと迷惑を掛けた事から、辞めざるを得ない状況に追い込まれてしまったから。

今日あたり、職場を突き止めた彼女から電話がかかってくるんじゃないか……と思うと電話にすら出られなくなってしまいます。

 

会議中、乗り込んできた彼女は事務員である水無月に連れ出され、なんとか事なきを得ます。しかしながら、その後社長に呼び出された飲食店には水無月も同席しており、事の顛末を聞いた流れで“事務職のおばちゃん”こと水無月の昔話を聞くことに……。

 

……といった流れで、実は最初に主人公を務める“僕”はあくまで前置きのようなものであり、そこから始まる水無月の思い出話こそが、本書『恋愛中毒』の本筋なのです。

 

 

 

芸能人との恋に堕ちるバツイチ女性

当時、水無月は翻訳書を手掛ける傍ら、弁当屋のアルバイトで生計を立てるバツイチ女性でした。

彼女の言動から、離婚のショックから立ち直れていない様子が感じられます。

そんな彼女の目の前に、客として現れたのが創路功二郎。テレビに出演するタレントであり、数々の書籍を発表する作家でもあります。

昔から創路のファンだったという水無月は、当初こそ無関心を装いますが、「おねえさん、可愛いね」という言葉につい心を揺さぶられてしまいます。二度目に訪れた創路には、「著作は全部持っている」と告白してしまい、創路も素直に感激してくれます。

 

迎えた休日、創路が近所に住んでいると知った水無月は、散歩がてら近くまで行ってみることに。

そこで偶然にも創路に見つかり、家に上がるよう促され、勧められるままビールを飲んだと思ったら、創路は業界人らしい強引な言動で水無月を昼食に誘い、食後は仕事にかこつけてホテルへと付き合わせ、あれよあれよという間に「やられて」しまいます。

 

「うちの事務所で働けばいいよ」という創路の軽口に乗っかって就職した水無月でしたが、事務員である陽子や、唯一の所属タレントである千花もまた、自分と同じ愛人である事を知ります。

過去には愛人の自殺未遂が報道された事もある創路には、その他にも恋人や愛人の類が沢山いるようです。

陽子は千花は「自分も他に恋人を作って、依存せずにうまくやっていけばいい」と達観しているかのように諭しますが、むしろ創路にどんどんのめり込んでいってしまう水無月

 

元々相手に依存し、世話を惜しまない水無月は創路に重宝され、水無月もまた、うまく立ち回りを見せて周囲のライバル達を蹴落とすようにこっそりと暗躍します。

 

ところが大方の予想通り、腰の軽い芸能人との蜜月関係が長く続くはずもなく、やがて終わりが近づくのですが、水無月にも実は他人には言えないような事情があったのです。

 

1998年刊行

実は本書の“キモ”って最後に明かされる水無月の秘密だったりします。

そこで大どんでん返し、とまでは言いませんが、それまでの水無月の言動が違って見えたりします。

ある意味、『イニシエーション・ラブ』的とでも言いましょうか。

 

もちろんそこまで大胆なトリックではないですけどね。

ミステリでもなければ、ミステリ風味だなんて記述もありませんし。

 

加えてその水無月の秘密というのが、当時はとってもセンセーショナルだったのだと思います。

今でこそ日常茶飯事のように似たような事例を聞きますし、題材とした作品も多いので特に目新しさは感じませんが、時代背景を考えると刊行当時においてはかなり衝撃的だったんじゃないかな、と。

 

本書は恋愛小説と言いつつ、恋愛の強さや怖さ、多様さについて描かれた当時においてはやはり最先端の恋愛小説だったんだと思います。

なんとなく愛し合って、どっちか死んで……みたいなワンパターンとは一線を画した物語であるのは間違いありません。

 

ただ、僕が読みたい本の種類だったかというと、残念ながらちょっと違ったかな。。。

「大人=官能的」というんじゃなくて、「大人だからこそプラトニック」みたいな分別をわきまえた大人同士の静かな恋愛の物語を読んでみたいですね。

お互いの立場や環境を尊重して、決して想いを言葉や態度には表さないのだけど、でもやっぱり実際にはお互いに惹かれ合っていて……みたいな。

 

どこかにそんな本、ないかなぁ。

 

https://www.instagram.com/p/BuKf4CDle4-/

#恋愛中毒 #山本文緒 読了#第20回吉川英治文学新人賞 受賞作品好色家の芸能人との恋に落ちるバツイチ女性の物語。元々世話焼きな性格という主人公は芸能人に重用される一方で裏ではライバルたちを蹴落とすために権謀を駆使する。ところが蜜月関係は長く続くはずもなく、やがて終わりが近づくにつれ、彼女の本性と過去が明らかになる。最近では巷でもよく聞くし、題材としても事欠かない要素ではあるのだけど、本書が発行された当時はきっとセンセーショナルに迎えられた事でしょう。恋愛の怖さや強さ、多様さについて迫った当時としては最先端の恋愛小説だったのだと思います。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。