「本気って、ヤじゃない?」
俺が聞くと、村田は理解できないという顔つきになった。
「こわくねえ? 自分の限界とか見ちまうの?」
ザクッと胸を刺されたような痛みを感じます。
まだ10代の頃、似たような恐れを何度となく抱きました。
自分の限界を知るのが怖くて、本気になる事から逃げようとする。
こんな素っ裸な心を見事に描き出してしまう点だけでも、作者の秀でた力量を測り知る事ができます。
『黄色い目の魚』
ストーリー的にはそれほど秀でたものはないように思います。
木島悟と村田みのり
第一部・第二部では二人の主人公の幼少時代を描き、
第三部ではようやく二人が出会います。
ある意味第三部に入ってからが本章。第三部を書く上で二人のバッグボーンとして一部と二部が存在するような。
簡単に言うと成長の物語です。
木島は父から、みのりは叔父から独り立ちしようとする成長の軌跡。
文章にしてしまうととてもつまらないように感じてしまうかと思いますが、本作で重要なのはストーリーではなく、冒頭に引用したような鮮やかな人物描写にあると思います。
元々は短編だったという事で、前半と後半でみのりの性格が大きく異なるような気がするのはご愛敬ですが。
青春小説がお好きな方であれば間違いはないでしょう。