「私の力で柳吉を一人前にしてみせまっさかい、心配しなはんな」
どんなに駄目男でも、どんなに甲斐性なしでも決して離れようとはしないしっかり者の蝶子。
引用のような言葉で柳吉に添え続けようとするのは愛の力か、それとも――
『夫婦善哉』はそんな凸凹の夫婦を描いた作品。
駄目な道楽亭主を女房が支えるという昔ながらのホームドラマの構図は、ここから生まれたと言っても過言ではないのではないでしょうか。
蝶子は大阪の天麩羅屋の娘で売れっ子芸者。
さぞかし自慢の娘だったろうに、化粧品問屋の若旦那こと柳吉と出会ったのが運の尽き。
妻子ある身の癖に蝶子にぞっこんの柳吉に次第に蝶子も惹かれ、遂には東京へと駆け落ちしてしまう。
剃刀屋、おでん屋、果物屋と次々と商売を試みるものの、一時は上手く行ったとしても結局は柳吉の浪費癖で失敗。病に伏せた柳吉を養生にと温泉へやったところ、様子を見に訪ねた蝶子の目に飛び込んだのは養生どころか芸者をあげて豪遊する柳吉の姿。
……まあとにかく、柳吉という奴は最低です。
しかしながら本作はドラマに舞台にと何度も何度も繰り返し上映されていますので、やはり昔ながらのホームドラマの古典と言えるのかもしれません。
柳吉に苛々したり、蝶子の健気さに涙したりしながら読んだり、見たりするのが醍醐味なのでしょうね。嫌らしい癖のあるキャラクターが登場した方が視聴率が上がるという昨今のホームドラマに通じるものを感じます。
尚、織田作之助についても版権切れのため、Kindle・青空文庫で読むことが可能です。
非常に短い短編ですので、気軽に手をつけてみて下さい。