一時は破綻寸前まで追い込まれたUSJことユニバーサル・スタジオ・ジャパン。
現在では東京ディズニーリゾートと人気を二分する程のV時回復を遂げましたが、その立役者と言われるのが著者である森岡毅氏。
P&Gでブランドマネージャー等を務めた後、2010年にUSJに入社。2012年からはCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)に就任し、USJの建て直しに奔走しました。
現在ではマーケティングと言えば森岡毅の名前が出てくる程、日本におけるマーケッターの第一人者としての地位を築いた方です。
本書『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』は、そんな森岡氏が高校生の娘さんからマーケティングについて聞かれたのを期に、マーケティングを知らない人に向けて書かれた、マーケティングの根本を理解してもらうためのわかりやすい本です。
現在ではマネジメントと並び、ビジネスマンにとっては重要なスキルの一つであるマーケティングの入門書として、業務上マーケティングに関わりのある人にも、ない人にも、一度は読んでいただきたいおすすめの本になります。
USJが低迷した原因分析と森岡氏の対策
USJに入社直後、森岡氏はまず集客低迷の原因について調査します。
現場のスタッフから出てくるのは、
- 開業翌年から続いた不祥事
- 「映画のテーマパーク」というブランドの軸がぶれたせい
という主に二つが原因と言われました。
しかし森岡氏はそうではないと分析します。
- 不祥事によって集客が低迷したのではなく、集客が低迷したから不祥事を招いた。
- 「映画のテーマパーク」というコンセプトはニッチ過ぎる。
というのです。
そこで、森岡氏は再建へ向けた「ビジネスのドライバー(衝くべき焦点)」を下記三つに絞ります。
①ターゲット客層の幅
→映画にこだわらないブランドの投入
ファミリーエリアの投入
客層の地域的な拡大
②TVCMの質
→ブランドイメージを強固にしていく仕掛け
来場意向調査を元にしたTVCMの改札
「世界最高をお届けしたい」というブランドキャンペーンの立ち上げ
③チケット価格の値上げ
→日本のテーマパークは世界標準の約半額で安売りされている
ブランド価値を高め、価格弾力性を最小化
そして本書の題名ともなっている「USJを劇的に変えた、たった一つの考え方」を下記のように表しています。
USJが消費者視点の会社に変わったということが、V字回復の最大の原動力
集中ではなく、開放する事の衝撃!
個人的には上記の「①ターゲット客層の幅」という部分にかなり衝撃を受けました。
だって「戦略」という言葉には「選択と集中」とセットというイメージがありますから。
多くの企業は大きくしすぎた会社、広げすぎた事業を「選択と集中」する事で多様化する現代にフィットさせようと試行錯誤しているイメージがあります。
百貨店から専門店化の動き、ですよね。
なんでもかんでも浅く広くやるより、狭く深く転換させることで自社の強みを生かそうという。
ところが森岡氏はむしろ、「集中」ではなく「開放」したんです。
ハリウッド映画の専門店から、アニメやキャラクター、様々なエンターテインメントを揃えたテーマパークへ。
映画好きのマニアから一般的なファミリー層へ。
そうして間口を広げる事で、実際にV字回復を成し遂げてしまったんですから。
本当に頭を殴られたような衝撃を受けました。
「なんでもかんでも集中させれば良いってもんじゃないよ」
と軽く鼻で笑われた気分です。
もちろん「集中」を否定しているわけではなくて、強みを生かしてターゲットを絞り込むのは良いけれど、そもそも経営が成り立たない程絞り過ぎちゃ駄目だよ、という事なんですが。
それってマーケティング初心者が陥りやすい罠らしいです。
自分にも心当たりがあるだけに、大いに反省させられしました。
USJは絞りすぎてしまっていた為、間口を広げる事で利用者を増やし、経営を安定させた。
僕にとってこれは、本当に目から鱗の話でした。
マーケティングの入門書として
実は上記までは第1章に書かれている内容をほんの少しさらっただけに過ぎません。
第1章では実際にUSJで行った内容や考え方、方法を説明しています。
以下の第2章~第9章では、元となった「マーケティングとは」という基本について解説してくれています。
簡単にタイトルだけ抜粋します。
第2章 日本のほとんどの企業はマーケティングができていない
第3章 マーケティングの本質とは何か
第4章 「戦略」を学ぼう
第6章 マーケティングが日本を救う
第7章 私はどうやってマーケターになったのか?
第8章 マーケターに向いている人、いない人
第9章 キャリアはどうやって作るのか?
以上9章ですが、これだけ読めば森岡氏の意図する通り、マーケティングの基本については掴めるのではないでしょうか。
以下、エッセンスだけでも抜粋してご紹介します。
<マーケティングの本質>
= 売れる仕組みを作ること
→消費者と商品の背低を制する(コントロールする)ことで売れるようになる
<コントロールすべき消費者との接点>
消費者の頭の中、店頭、商品の使用体験
<戦略的思考が起こす2つの大きな変化>
- 仕事の成果が抜群に上がる
- 説得力が激増する。
<戦略の定義>
戦略とは目的を達成するために資源(リソース)を配分する「選択」のこと。
<戦略が必要な理由>
- 達成すべき目的があるから
- 資源は常に不足しているから
およそ経営資源は達成したい目的に対し、常に圧倒的に足りないのであって、それは創業時代も今も変わらないチャレンジである
<6大経営資源>
カネ、ヒト、モノ、情報、時間、知的財産
とりあえず全部やろうとすることは、無意味に資源を分散させているだけの「戦略なき愚か者」のすることです
<目的と目標の違い>
目的:達成すべき使命。戦略思考の中では最上位の概念
目標:目的を達成するために経営資源を投入する具体的な的
目的はパリ占領、目標はフランス軍
目標は資源集中投下の的であるターゲットを意味する
<戦略用語の基礎知識>
目的:命題、最上位概念
→objective
目標:資源集中投下の具体的な的
→who(ターゲットは誰か)
戦略:資源配分の選択
→what(何を売るのか)
戦術:実現するための具体的なプラン
→how(どうやって売るのか)
例)
目的:嫁さんと仲直り
目標:嫁さん
戦略:弱点の甘いものから攻める
戦術:お土産に豪華なロールケーキを買う
企業にとって「どう戦うか(戦術)」の前に「どこで戦うか(戦略)」を正しく見極めることが何よりも重要
<戦略(Strategy)の4Sチェック>
Selective(セレクティブ):選択的かどうか
→やることとやらないことを明確に区別できているか
Sufficient(サフィシエント):十分かどうか
→戦略によって投入されることが決まった経営資源が
その戦局での勝利に十分であるかどうか
Sustainable(サスティナブル):持続可能かどうか
→立てた戦略が短期ではなく中長期で意地継続できるか
Synchronized(シンクロナイズド):自社の特徴との整合性は
→自社の特徴(強みと弱み、あるいは経営資源の特徴)
を有利に活用できているか
<5C分析(戦況分析の視点)>
Company(自社の理解)
→自社の全体戦略、使ううる経営資源、特徴(強み、弱み)
Consumer(消費者の理解)
→消費者を量的(数値データ)・質的(深層心理)を理解
Customer(流通など中間顧客の理解)
→自社と消費者の間にいる存在
Competitor(競合他社の理解)
→ライバル者だけでなく、広義においての競合理解
Community(ビジネスをとりまく地域社会の理解)
→外的要因(法律などの規制、世論、税率、景気、為替レート等)
私は成功のカギというものはわからないが、失敗のカギは知っている。それは全ての人を喜ばせようとすることだ
<マーケターに向いている4つの適正>
1.リーダーシップの強い人
→人を動かすことで結果を出す統率力
2.考える力(戦略的思考の素養)が強い人
→子供の時から要領の良い人
3.EQ(心の知能)の高い人
→物事を感覚的に捉えてその真相を洞察する力に長けている。
4.精神的にタフな人
→様々な経験から学んで自分を変化させるため
マーケティングについて書かれたおすすめの本
本書の他にもマーケティングに書かれた中で個人的におすすめの本をご紹介します。
一番はコトラーやポーターの専門書を読むのが良いのかもしれませんが、
より入り口に近い本としてどうぞ
■『ドリルを売るには穴を売れ』佐藤義典
本書と並んでマーケティングの入門書として知られる本です。
理論とストーリー仕立ての実践が交互に展開されるので、
非常に読みやすいのが特徴。
■『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』森岡毅
本書と同じ著者の本です。
USJの再建についてより深く掘り下げて書かれています。
■『星野リゾートの教科書』中沢康彦
「教科書通りの経営」を信条とする星野リゾート社長が、
実際に参考にしている戦略やマーケティングのネタ本と実践事例を紹介しています。
より実践的に学ぶためのハブ本としてもおすすめです。